ミュージカル「 Rudy 」ストーリー
(BGMは「五つの月の掲示(リプライズ)」です。)
幕が開くとまず、海の見える洞窟で夜空を仰ぐ巫女の姿。天に弱々しい蒼白い月がかかり、異様な装束をつけた信者たちが取りまいている。ここで、巫女によって歌われるのが、『五つの月の啓示』。太古、月は五つあったが、時代が下るとともに一つ一つ失われ、現在では最後のひとつを残すのみとなった。かつて、人は愛と希望に満ち、それぞれの夢、見えない世界と共存していた。月の数が減っていくとともに、不可視のものの価値は減少していく。今では人々は、生存のための物質以外尊重することがなくなった。もし、最後の月までなくなってしまえば、人間は明日を生きる望みがなくなり、文明は終焉を迎え、動物同様になる。そうならないように見護るのが巫女の勤めだった。また、一方では、逆に月が再び五つ揃うようなことがあれば、この世界は消滅してしまうという不吉な言い伝えも残されていた。
場面は一変し、広場でのパレード。豪奢な馬車に乗り、きらびやかな衣装に身を包んだ王とその軍隊を、群衆が迎える。今日は美しい姫君の誕生日だった。この王国は辺境にあったが、徳の高い王と情け深い王妃が理想的なまつりごとを行っているために、民は支配者を熱狂的に支持していた。そんな中にあって、この姫君はみめ麗しくまた、こころ優しく、臣民の尊敬と愛情を一身に集めていた。遠くから姫を眺める一人に、ルディという若者がいた。家柄いやしくはなく、教養もあり、外見もけっして他人に劣るわけではなかった。彼は夢想家であり、純粋であり、幼い頃から他のだれにも思いつかない発想と発言をするために、周囲から疎んじられることが多かった。
ルディもまた、姫君に憧れ、日々胸を焦がしては溜息をついて暮らしていた。幸運なことに、彼は一般庶民とは違い、宮廷で姫とまみえ、会話を交わす機会もあった。だが、彼と同等か、それ以上の接し方のできる殿方は彼の他にも山ほどいて、そのほとんどが姫への恋慕を隠さなかった。姫君はわけへだてなく、みんなに笑顔をふりまいていた。隣国はもとより、海を隔てた国の王子まで、求婚者はあとをたたなかった。姫君はすべての求愛者に対して、拒むでもなく、また(端からみて)特定の地位を与えるでもなく、応対していた。ルディは数多くの「恋のしもべ」の一人に過ぎなかった。あらゆる面でルディ以上の男は、それこそ掃いて捨てるほどいた。焦燥がルディを狂わせ、なんとかして自分が姫君の特別な存在になれるように、考え続けた。
そんなある日、宮廷の晩餐会、ルディに異変が起こった。全身をつらぬく激痛にのたうちまわるルディ。異様な感覚。大鏡まで、這いずっていって自分を映したルディは叫び声をあげた。目にするのもおぞましき異形の怪物に変貌していたのだ。なにが起こったのかわからず、悲鳴をあげる貴婦人たち。姫君の前で武勲を立てようとして襲い来る貴族や衛兵は、ルディに睨まれると石になった。一瞬、とまどい、悲嘆にくれたルディだったが、姫の嫌悪と哀れみの表情に気づくと勝ち誇った。屈折した喜びにかられ『のろっておくれ 俺ひとりのために』を歌う。
場面は最初に戻る。巫女がある夜、空を仰ぐと月は二つになっていた。悪い予感に巫女は震える。『虚無からの呼び声』がこの世界の異変を象徴するように、奏でられる。
抵抗むなしく、取り抑えられたルディ。気がつくと壁に囲まれた部屋。鉄格子付きの窓。癲狂院に収容されたらしい。殺されず、致命傷も負わされずに。鏡はなかったが、自分の姿はあの、蛇の鱗と獣皮に粘液したたる無秩序な結合体ではないことがわかった。あれは、成就する望みのない熱愛のもたらした、精神錯乱による幻だったのか。だれもいない小部屋で何度も眠っては目覚めているうちに、この場所が光に満ちた広大な空間に思えてくる。並行する地平線に挟まれた、なにもない空間。言葉を代えると、これからなにかが創造されていくような空間……。そこで、「声」と対話する。『アラバスターの影から』が、うつろな「声」によって歌われる。ルディ自身の内なる声であることをほのめかしつつ。
やがて、ルディは両親によって癲狂院から連れ出される。彼はもう、数多い無個性な恋敵や、類型に堕した(ルディはそう思い込もうとしている)姫君に対してなんの感情も抱かなかった。彼は自身の世界を創造することを癲狂院で学び、長い孤独の時間をそれで満たしていったから。回想の場面で『もっとちっぽけな片隅で』が歌われる。地平線空間の幻影は退院後も現れ、次第に彼自身の空想の世界が構築されてゆく。彼はだれに読ませるあてもなく、詩や小説を創作し始める。空想世界は次第に堅固なものとなってゆく。もちろん、彼を魅了すべくヒロインは当初から創造されていたが、時を経るほどにルディは自分の創りだした女性を熱烈に恋する。それも当然だった。造物主自ら、持てるすべての想像力を駆使して、愛するべき対象を凝結させたのだから。このとき、ルディは生涯でもっとも幸せだった。彼の作品は彼自身の痛みをいやし、生を明日に向ける勇気を生み出すために、なくてはならなぬものだった。
場面は変わり、仰天する巫女。なんと、いつの間にか、月は三つとなり、今では四つの月が夜空のすべての星々を圧するほどに、輝いているではないか! ここで、この世界の秘められていた、驚くべき秘密が明かされる。
この世界のどこかに、自己の宇宙を創造した者がいる! そして、その者は「存在」を意味するひとつの月から、二つめの「覚醒」を経て、創造に不可欠な三つめの「孤立」を極め、ついに四つめの「創造」に至った! このままいけば、五つめの「成就」となるだろう。その者の宇宙は完成、そして現存する世界はその宇宙のエネルギーとなるため、分解され、吸収されてしまう。伝え聞くところによれば、巷では、人々は自由気ままな妄想のもと、勤労を忘れ、怠惰を貪り、世界は退化の過程にあるという。月の数は中庸が好ましく、多くても少なくてもこの世界は乱れてしまう。なんとかしなくては! 巫女は己れの占術により、原因がルディにあることをつきとめる。そして、巫術を用いて、現実の崩壊を阻止しようとした。
夢想にうつつを抜かすルディの前に、思いがけない女性が現れる。なんと、姫君。彼女は居並ぶ恋敵を差し置いて、ルディに愛を打ち明ける。ルディにとっては、この上ない光栄。本人の知らないうちに秘かに流された「芸術作品」も国際的に高い評価を受け、いつかの奇行も紙一重の天才のエピソードに数えられ、お互いの親族も願ってもないことと大賛成していた。婚礼の儀の用意が進められる。もちろん、これはこの世界を案ずる巫女の奸計だった。ルディが世界の創造を止めるようにとの。ルディに忘れかけていた現実の姫君への慕情が蘇り、夢想の虚しさを実感する。『ため息のモノローグ』が、空想上のヒロインに向かって歌われる。
だが……、実はものごころついてからずっと、つちかわれてきたルディのヒロインへの愛情、―― 現実の姫君を知るよりもっと以前からの ―― はそう簡単に潰えるものではなかった。姫を抱きしめながらも、どこかで自分の被造物の実在を望んでいたルディ。そのため、四つの月は三つになったり、また四つに戻ったり……。『悩ましき困惑』が混乱したルディの気持ちを代弁するように、演奏される。
ついに、危機を感じた巫女は信者の軍勢を差し向け、ルディを強制的に連行し、洗脳しようと試みる。『幸せにしてやるよ』を不気味な彼らが歌う。ルディは捕縛され、夢想の力を失う儀式を巫女らによってに施されそうになる。ところが……、間一髪、どこからともなく戦士の一団が現れ、ルディを救う。彼らはルディの夢想の世界からやってきた。あと僅かで完成する自分たちの世界を崩壊から救うために。二つの宇宙を巡って熾烈な戦いが展開される。互角の勝負だった。運命は、ルディの意思に委ねられた。結末が明かされないまま、最後の幕は降りる。戦闘のさなか、巫女のベールが剥がれ、その容姿が観客の前に現れる。なんと、彼女はルディのヒロインそのものであった。なんとなれば彼女は、この世界の創造主の愛を捧げられるべくして造られた乙女だったから……。
ゾンビホームへ
1. あなたから 託された五つの月は
たったひとつ 残して いずこか 去った
ほころび 散り行く 夜明けの雲のように
だれにも 罪はありません
もとより それは見えません
なくしたものの おおきさを
惜しむ嘆きすら 絶えて久しく
2. やるせなさと切なさは 日に日に募り いくとせ
めしいどもの船出が ゆきつく先を
みちびく 夕映え 彼方は ただ闇
だれにも 罪はありません
そこから なにもありません
なくしたものの おおきさを
惜しむ嘆きすら 絶えて久しく
3. あなたから 託された五つの月が 再び
めぐり会える 折りには わたしはいない
そなたも こなたも 小春日の夢のように
たゆたい 途切れる 小春日の夢のように
…… わたしは星
…… あなたは空
1. 首が欲しいか おがませてやるぜ 石になっちまえ!
名前すらない 道化の群れから とにかく放たれた!
こんなに あなたを 傷つけられるなんて……
……なんて 光栄 身にあまるようさ
これが 誰か 覚えているかい? 変わりはてる前は
オレが 誰か 当ててごらんよ 社交辞令でも
2. 群がり集う 恋のしもべと 呼ばわれるものか
いかなる悪夢が この身に取り憑いた いまわしき異形
こんなに あなたの こころ惑わすなんて……
……なんて 光栄 身にあまるようさ
物語の脇役は かたく信じてる
おのれのみが選ばれて 生をうけたものだと
3. いとし うるわし やさしき姫君 汚れなき眉を
刹那 ゆがめて のろっておくれ 俺ひとりのためにこんなに あなたが 胸をいためるなんて……
……なんて 光栄 身にあまるようさ
これが 誰か 覚えているかい? 変わりはてる前は
オレが 誰か 当ててごらんよ 社交辞令でも
1. おはよう ルディ ごきげんいかが 今朝も さわやかな朝ね でも とても まぶしそう マゼンダ色の光が目にしみて? なれるまでもうしばらく そのままでいらしたら? そう お茶ができるまで
2. 聞かせて ルディ どんな夢をみたのいいの 思い出せなくても
まためぐりあえたのだから息のかかるほどそばにいるのに
ぬくもりも 吐息も とどくことのない二つの地平の間で
3. 教えて ルディ 忘れてしまったのまさか あなたならね
できるわ ひとりで だれの力も借りずにみんな あなたのもの
聞こえてくるでしょう 芽吹いてゆく音アラバスター(雪花石)の影から
1. きみを造ってみた だれもこないところで
「美しき」とはいいがたい 空と海も一緒に
しぼれるだけの英知と 皮肉をつめこんだ
ゆがんだ カレイド・スコープ
果てしない宇宙の ケシ粒みたいな世界より
もっとちっぽけな片隅で
2. 拝まなくていいのさ 生け贄もいらない
きみからしたら神 きみがいるから神
逆上がりすらできない 造り主が築いた
おかしな インナー・スペース
果てしない宇宙の ケシ粒みたいな世界より
もっとちっぽけな片隅で
ハイになりたい? ブルーになりたい?
きれいでいたい? 醜くくてもいい?
賢くなりたい? 強くなりたい?
平穏でいたい? 冒険がしたい?
なにも 心配いらない
不幸にはできやしない
この命よりはるかに 大切なものだから
3. きみを造ってあげた それだけでもう十分
ぼくの遺伝子の中で きみは生き続けていく
大空が裂けようと 大地が割れようと
終りなき エターナル・ハネームーン
果てしない宇宙の ケシ粒みたいな世界より
もっとちっぽけな片隅で
1. もうなにも言わないで
あなたの頬が濡れるから
いくつものソネット 数え切れないエチュード
エデンの園に咲きほこる恵みのバラよりもっと多く捧げた
すべての間違いは あなたがはかなきもので
ないことから起こった
2. だけど まだ 一度すら
あなたの髪さえ 触れられず
ため息のモノローグ 噛みしめたエピソード
熱き鼓動ないながら ピグマリオンさえうらやんだ
すべての間違いは この手にできるもので
満足できない迷いから起こった
追憶というものは
夢想 そして、過去の現実
なんの違いもありえないのに
なんの違いもありえないはずなのに
1. 背後にひそんでやる ふりかえっても無駄さ
何をする気なのかって? そいつは教えられない
ヒントだけやろうか よく聞いておくがいい
おまえの望んでることさ 楽しみに待ってな
よくも愉快に生きてきたな 今の今まで
それなりに 不満もあっただろうが
およそのところ 上出来さ
幸せにしてやるよ
ないものねだりのだだっこを
幸せにしてやるよ
2. かかえるだけかかえて 逃げようったって無理さ
オマエの意義はなにかって 考えたことはないのか
愛と正義のために 立ち上がろうとか
隣人はほら 愛して やらなくっちゃな
よくも愉快に生きてきたな 今の今まで
それなりに 不満もあっただろうがおよそのところ 上出来さ
幸せにしてやるよ
ないものねだりのだだっこを
幸せにしてやるよ
3. たまたま ツキに恵まれただけで
そうでない奴を 無能とののしる
気まぐれ女神の微笑みを
てめえの努力や才能と
うぬぼれるんじゃないぜ
よくも愉快に生きてきたな 今の今まで
それなりに 不満もあっただろうが
およそのところ 上出来さ
幸せにしてやるよ
ないものねだりのだだっこを
幸せにしてやるよ