弁 護 人 冒 頭 意 見
2003年4月21日
弁護人 佐 藤 昭 夫
目 次
第7部 被告人らには本件暴力行為等処罰に関する法律違反の犯罪は成立しない
第1 団結活動は、暴力行為等処罰に関する法律違反の問題とならない
1 「多衆の威力」を嫌悪し、多衆者による大衆運動抑圧に手を貸す法律は、団結権
保障と相いれない
2 起訴された事実は存在しない
(1) 「大会開催阻止」を「共謀し」、「暴行」を加えた事実はない
(2) 「多衆の威力」を示して「暴行」を加えた事実はない
第2 最高裁判例における団結活動の正当性判断基準
1 憲法28条の団結権保障と刑事制裁
(1) 団結活動の権利性
(2) 団結活動と構成要件該当性阻却の裁判例
@ 三友炭砿事件(最高裁1956.12.11判決)
A 長崎相互銀行事件(福岡高裁62.4.11判決)
B 門司信用金庫事件(福岡高裁67.3.6判決)
C 花巻バス事件(仙台高裁68.12.24判決)
D 平和タクシー事件(大阪高裁69.4.9判決)
E 山陽放送事件(東京高裁70.10.2判決)
F NHK山形放送局事件(仙台高裁73.10.8判決)
2 組合内部の問題と団結確保の行動
(1) 組合内部の問題──@三友炭砿事件、A長崎相互銀行事件
(2) 団結確保の行動
G 札幌市労連事件(最高裁70.6.23決定)
3 行為の目的、いきさつ、相手方の態度、行為の態様や結果など
(1) 労使対等の原則──相関的評価
H 安西郵便局事件(最高裁67.2.7判決)
I 金沢郵便局事件(最高裁71.3.16判決)
(2) 労働関係において考慮すべき「諸般の事情」──日産自動車事件(最高裁19
85.4.23判決)
第3 本件ビラ撤き・説得活動は最高裁判例に照らしても無罪である
1 組合内部における組合員相互間の問題
2 目的や利益の比較考量
3 行為にでたいきさつ、相手の出方、行為の態様
J嘉穂鉱業事件(福岡高裁55.5.14判決)
K羽幌炭鉱事件(最高裁58.5.28判決)
4 支援労働者の共同行動
L菊水会社事件、東京高裁67.1.26)
第4 補論──高裁無罪判決の例
M 関西小野田レミコン=東海運輸事件(大阪高裁66.5.19判決)
N 田町電車区事件(東京高裁68.1.26判決)
O 花巻バス事件(仙台高裁68.12.24判決)
P 平和タクシー事件(大阪高裁69.4.9判決)
Q 関扇運輸事件(大阪高裁69.10.3判決)
R 茨木市職員組合事件(大阪高裁70.3.27判決)
S 山陽放送事件(東京高裁、70.10.2判決)
21 東邦製鋼事件(名古屋高裁71.5.6判決)
22 京聨タクシー事件(大阪高裁73.3.27判決)
23 NHK山形放送局事件(仙台高裁73.10.8判決)
24 商都交通事件(大阪高裁77.3.9判決)
第7部 被告人らには本件暴力行為等処罰に関する法律違反の犯罪は成立しない
第1 団結活動は、暴力行為等処罰に関する法律違反の問題とならない
1 「多衆の威力」を嫌悪し、多衆者による大衆運動抑圧に手を貸す法律は、団結権保障と相いれない
労働者の団結は、歴史的にはどこの国でも最初は犯罪とされてきた。それは個人の取引の自由を団結の威力により阻害する「共謀」とされたからである。だがやがて、資本の側が集積・結合により巨大となるのに、労働の側の団結を否定するのは矛盾であるとされ、例えばイギリスの場合、1875年の「共謀罪及び財産保護法」で労働争議に関する共謀罪の適用は排除される。
日本でも、戦前には団結や団結活動を犯罪視していた。「暴力行為等処罰法」は、治安維持法とともに労働運動や小作争議など大衆運動を弾圧するため、猛威を振るったのである。しかし、イギリスに遅れること70年の戦後日本国憲法で、その価値観は否定された。個人では弱い立場にある労働者が実質的に自由と平等を確保するためには、その数の力、連帯した「団結の威力」によるほかないからである。
最高裁は憲法28条について、つぎのように述べている。「この労働基本権保障の狙いは、憲法25条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で憲法27条の定めるところによって、勤労の権利および勤労条件を保障するとともに、他方で、憲法28条の定めるところによって、経済上劣位に立つ勤労者にたいして実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするものである」。「労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない」。「とくに、勤労者の争議行為に対して刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべき」(東京中央郵便局事件、最高裁1966.10.26判決、新労最集1059))だ、と。
そして国際的にも団結権は基本的人権として、世界人権宣言(1948.12.10)や、国際人権規約(A規約・1966.12.16)で確認されている。またILO87号条約、98号条約はとくに団結権の保護を定める条約だが、これらの条約はすべて日本も批准しており、その遵守は憲法98条2項の定めるところである。
「多衆の威力」を嫌悪し、大衆運動抑圧の口実とする暴力行為等処罰法は、団体行動を権利行使とする、憲法28条の団結権保障と本質的に両立しない。
2 起訴された事実は存在しない
(1) 「大会開催阻止」を「共謀し」、「暴行」を加えた事実はない
起訴事実では、被告人らが「国労大会の開催を阻止しようと企て」、「共謀の上」、「多衆の威力を示して暴行した」とされている。しかし、そのような事実は存在しない。
被告人らが「暴行」を加えた事実のないことは、前に述べたとおりである。また、被告人らは、自民党のいいなりになり、組合民主主義を投げ捨てた大会開催に強く反対し、これに参加しようとする本部派組合員に道義的非難を加え、抗議の意思表示をし、ビラ配付等により、その良心に訴えての大会の中止を求めはした。しかし、「暴行」によりこれを「阻止」しようとしたのではなく、またそれを「共謀」したのでもない。機動隊に守られて大会開催を強行しようとする本部のやり方に対して、これを数人の「暴行」で「阻止」できないことは、被告人らをふくむ何人の目にも明かであった。
(2) 「多衆の威力」を示し、「暴行」を加えた事実はない。
さらに、起訴状は「多衆の威力」を示しというが、「多衆の威力」とは相対的な概
念である。個人に対しては威力でも、より強力な集団に対しては「威力」にならない。「同所に駐車していたバス」に乗ろうとした国労組合員は約40名。しかも国労本部の権力や、政府与党らの威光を背後にしており、被告人ら8名、あるいはその場に行ったとされる「ほか10数名」を加えても20数名の者より、遙かに「多衆の威力」を有していた。現に「大会参加の意思」を制圧されることなくバスに乗り込み、検察官が証拠とするビデオを撮影している。被告人ら数名が示したのは「多衆の威力」ではなく、正義であり、労働運動における道義の力である。その用いたのは「暴力」ではなく、事実に基づいた論証と説得の力である。
第2 最高裁判例における団結活動の正当性判断の基準
1 憲法28条の団結権保障と刑事制裁
(1) 団結活動の権利性
憲法28条の団結権保障により、団結確保の行動は、権利の行使としてもはや犯罪や不法行為、債務不履行になることはない。労組法1条2項のいわゆる刑事免責規定も、このことを刑事に関して明示的、注意的に定めたものにすぎない。つまり、それらの行為は外形的に犯罪構成要件に当たると否とを問わず権利の行使であり、法技術的には刑法35条の正当行為として罪にならないということである。
すなわち、団結活動は原則的に憲法28条の保障する労働基本権の行使である。それが「刑事制裁の対象とならないことは、当然のことである」(前掲、東京中央郵便局事件、最高裁1966.10.26判決)。こうして、「違法性阻却原由の中には・・正当防衛などのようにいわば例外的・消極的に行為の違法性を解除するものと、職務行為や正当業務行為のように行為に原則的・積極的な社会的相当性を付与するものとがある」(団藤重光・刑法綱要、141頁)。労働基本権の行使はまさに後者に当たる。労働組合活動は、歴史的に最初は共謀罪や業務妨害罪等、刑事法の各本条に該当する犯罪として処罰されていた。それが価値観の転換により、権利の行使とされるに至った。まさに「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」(憲法97条)としての、刑法的評価の根本的転換である。
だから、それらの犯罪の構成要件は、組合活動に関してはいわゆる「開かれた構成要件」となり、その行為の違法性の存否をあわせて考えなければ、構成要件該当の有無を論定できないはずである。労組法1条2項ただし書は、暴力の行使は正当な行為ではないとする。しかし、この「暴力の行使」とは、違法性の判断を含み、団結権行使の範囲をはずれる有形力の行使のことであって、外形的に有形力があれば「暴力の行使」になるのではない。
だから、団体行動に対する刑事制裁に関しては、たんに行為の外形によってではなく、それが組合内部の団結活動かどうか、その目的や行為にでたいきさつ、行為の態様、守ろうとした利益と被害の程度、相手の出方等との関連など、「諸般の事情を考慮して、慎重に判断されなければならない」というのが、後述三友炭砿事件(1956.12.11判決、新労最集909)以来の確立した最高裁判例である。
(2) 団結活動と構成要件該当性阻却の裁判例
正当な団結活動は権利の行使であって、処罰できない。だから、行為の刑法的評価に際しても、第一次的にはそれが団結権の行使か否かが問題とされるべきである。団結権の行使であるかぎり、かりにそれが外形的に構成要件に該当しても、刑法的に意味がないからである。
いいかえれば、団結活動を外形的に構成要件該当と判断してみても、それらの行為は原則的に権利の行使だから、構成要件該当による違法性推定機能は失われている。したがってその場合には、正当防衛などのような例外的・消極的な違法性阻却事由の有無が問題ではなく、むしろ逆に人の生命や安全を阻害するといった「適法性阻却事由」が存在しない限り、罪とならない。前述価値観の根本的転換の観点からすれば、これを構成要件に該当しないという方が、権利行使としてのことがらの性質に適している。
それだから、最高裁や高裁の裁判例においても、外形的には有形力の行使などの行為でも団結自治あるいは労使対等の観点から、構成要件に該当しないとする例が見られる。
@ 三友炭砿事件(最高裁1956.12.11判決、前掲)では、元組合長ら経営者と縁故のある者が生産同志会を結成してストライキから脱落し、ガソリン車を運転して送炭しようとした。これに対し被告人ら多数の者が線路上に立ちふさがり、あるいは横臥し、もしくは座り込むなどし、「ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ」と怒号し、3時間あまり炭車の運行を阻止することによりガソリン車の運転を断念させ、送炭を不能にした。
これが威力業務妨害罪で起訴されたが、最高裁は「いまだ違法に刑法234条にいう威力を用いて人の業務を妨害したというに足りず」として、検事の上告を棄却している。違法性の問題に立ち入るまでもなく、構成要件該当性の問題として解決しているのである(団藤前掲書153頁参照)。その理由とされたのは、「被告人の判示所為はいわば同組合内部の出来事」であること、「罷業派組合員である被告人は、罷業が組合員の利益達成のため已むなくなされたものであるのに、生産同志会は経営者側との不純な動機から同志を裏切り罷業を妨害するもので、もし同志会が就業を開始すると罷業がその目的を達成し得ないことになると考え、右同志会の就業に対し極度に憤慨していたこと」などの事情である。
A 長崎相互銀行事件(福岡高裁62.4.11判決、別冊労旬466ー2。最高裁64.3.10、新労最集1041により上告棄却、無罪確定)。被告人らは被害者の左右からスクラムを組んだようにその両腕を組み、又前から肩を一時押さえて数分間その束縛から逃れようとしてもがき騒ぐ同人に対しこれを制止する」などし、タクシーで旅館に同行した行為が不法逮捕罪で起訴された。福岡高裁は、「被告人らの本件所為が争議中の組合内部の出来事であり」、「しかも被害者・・(が)裏切的行為をしている疑いがあるとして・・事情聴取と説得のため召喚決定がなされ、その決定伝達の過程で惹起されたもの」などの事情から、「いまだ以て違法に人を逮捕したものというに足りず」とする。
B 門司信用金庫事件(福岡高裁67.3.6判決、判時487ー66。上訴の有無は未確認)。支店長に「労組として話し合いたい旨申し入れたのに対し同支店長がこれに応じようとせず荒々しく一方的な発言をしたまま帰宅しようとしたため被告人らが一時の興奮に駆られ偶発的に支店長の帰宅をそしするため被告人日野は同支店長の腕を掴み、被告人木村はその胸を押しその帰宅を阻んだという事案。
判決は、「支店長が・・問答無用式の態度に出たことは労組側の団体交渉権に対する重大な侵害である」こと、「支店長の被った法益侵害は労組側の被った団体交渉権の侵害に比し重大であったと云うことができない」などの事情から、「原判決が被告人らの所為を微罪性のゆえに暴行罪として処罰を予想する程度の違法性をを欠き暴行罪の構成要件に該当しないとして無罪を云渡したのは相当」とした。
C 花巻バス事件(仙台高裁68.12.24判決、下級刑集10ー12ー1178、無罪確定)。事実関係は第4Oで後述。立入禁止の表示を付したロープをくぐって車庫内に立ち入った行為につき、「刑法第130条前段にいわゆる「故ナク建造物ニ侵入」したことにあたるとするだけの可罰的違法性を有するものと断定することはできない」とした。
D 平和タクシー事件(暴力行為等処罰に関する法律違反、大阪高裁69.4.9判決、判時581ー85。最高裁71.3.23決定、新労最集1208により、上告棄却、無罪確定)。事実関係は第4Pで後述。「かかる状況のもとに行われた被告人の本件行為は、いまだ違法に刑法234条にいう威力を用いて人の業務を妨害したというに足りず」。
E 山陽放送事件(東京高裁70.10.2判決、高刑集23ー4ー640。無罪確定)。事実関係は第4Sで後述。「被告人らの本件事務室滞留の所為は未だ刑法第130条後段の不退去罪に該当することの証拠があったものということはできない」。
F NHK山形放送局事件(暴力行為等処罰に関する法律違反、仙台高裁73.10.8判決、判タ301ー299。上訴の有無は未確認)。事実関係は第4〓で後述。「局長らがこれにより威圧を受けざるを得なかったとしても、右の所為が正当な団体交渉の範囲を超える違法な多衆の威力と解するのは相当でない」。)
2 組合内部の問題と団結確保の行動
労働者が実質的な自由と平等を確保するためには、団結が必要であった。それだから団結権は、権力の抑圧に抗する「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」(憲法97条)として基本的人権となったのであり、憲法による団結権保障とは、それまで団結を抑圧してきた国家権力が、今後ふたたび法律によっても団結を妨害してはならず、自由に団結できる条件を作らねばならないということを意味する。だからその団結権保障の内容の核心は、第一に団結自治を認め、団結の結成や活動に国家や使用者が手を突っ込まない、介入しないということである(87号条約2条、3条。98号条約2条等)。
最高裁判例は、その具体的判断において、先にあげた労働基本権保障の趣旨に適合しているものばかりではない。しかし少なくとも、組合内部の問題や、組合の団結確保の行動に関しては、団結自治・権力不介入を原則として判断している。
(1) 組合内部の問題──@三友炭砿事件、A長崎相互銀行事件
組合員は労働者として基本的に利害の連帯性を持つがゆえに、組合に団結している。しかし、組合員各人のそれまでの経験、知識、考え方、おかれた情況などは同一ではなく、ことに使用者側からの介入や困難な情況に直面して、判断の違いが組合員どうしの対立、紛争を生むことがある。それは大衆運動に必然的に伴うことであり、これに対する警察の介入は、団結の生命である自主性や、運動の力そのものを傷つける。それだから、組合内部のできごとに関しては、歴史的に形成されてきた大衆運動としての通念を逸脱するものでないかぎり、刑事的問題とすべきではない。前掲@三友炭砿事件、A長崎相互銀行事件がその例である。
(2) 団結確保の行動
さらに、組合員相互間の行為に限らず、団結妨害に対抗する行動については、情況に応じ、ある程度の有形力の行使も正当とされる。
G 札幌市労連事件(最高裁70.6.23決定、新労最集1172)では、約40名の組合員が「市電の前に立ちふさがり、口々に、組合の指令に従って市電を出さないように叫んで翻意を促し、これを腕力で排除しようとした当局側の者ともみ合」い、市電の進行を阻止した。これに対し最高裁は、当局の団交拒否などの不誠意な態度や、被告人らの行為はスト中の組合員が業務命令で電車の運転を始めようとしたので、「団結が乱され争議が実効性を失うのを防ぐ目的」だったことなどから、「このような行為に出たいきさつおよび目的が人を納得させるに足りるものであり」、その時間も約30分で「不当に長時間にわたるものとはいえないうえに、その間直接暴力に訴えるというようなことはなく、」ということなどの事情をあげ、同じく威力妨害罪を無罪とした原判決を支持している。
検察官は上告理由でいくつかの最高裁判決を挙げ、判例違反を主張したが、最高裁は本件には適切でないとし、次のようにいう。すなわち、ア.昭和31.12.11判決(刑集10ー12ー1605)は、「暴行、脅迫または威力をもってする就業中止要求が具体的事情のいかんを問わず常に違法としているわけではない」、イ.昭和27.10.22判決(民集6ー9ー857)は、「組合員以外の部長等がしていた作業を妨害した事案についてのもの」、ウ,昭和33.5.28判決(刑集12ー8ー16945)は、「会社側が新たに従業員として採用した者、労働組合から脱退して従業員会に加入した者および組合員以外の職員で続行していた出炭業務を妨害した事案についてのもの」、エ.同年12.25判決(刑集12ー16ー3627)は、「組合員以外の庶務課長などの送電業務を妨害した事案についてのもの」、オ.昭和32.2.26広島高裁岡山支部判決は、組合員以外の従業員の電車運転業務を妨害した事案についてのもの」、カ.昭和39.2.15札幌高裁判決は、「国鉄業務の正常な運営を妨げ、これに打撃を加えるなどの目的で、機関車の出区を妨害し、臨時貨物列車の発車を遅延させることを策した事案についてのもの」であり、「いずれも組合員たる被告人らが単に同盟して罷業し、争議脱落組合員の就業を阻止して、組合の団結がみだされ同盟罷業がその実効性を失うのを防ごうとしたにすぎない本件には適切ではなく、」というのである。
組合員の団結を確保し、目的実現を図るための行動は、これを妨害する組合員以外の者に対抗する場合でも、正当行為としての法的評価を受けるということである。
3 行為の目的、いきさつ、相手方の態度、行為の態様や結果など
(1) 労使対等の原則───相関的評価
前述のように最高裁判例は、団結自治の観点から組合内部の問題に係わる行為の刑
事制裁は抑制的であるべきだということに加え、その行為が行われるにつき相手方に違法な行為、不当な態度等、責められるべき事由のある場合には、これに対抗して団結や争議の実効性を守る労働者の行為は、広く正当な行為として罪にならないことを示すものであった。このことは、対抗行為が相手の出方に応じて相対的に流動するものであり、こうした行為の正当性を固定的に捉えるのは労使対等の原則に背き、公平に反するということからも、当然というべきである。そしてこの点で、
H 安西郵便局事件(暴力行為等処罰に関する法律違反、最高裁67.2.7判決、新労最集1087)は住居侵入、暴力行為等処罰法違反事件だが、その行為の正当性判断について、双方の事情を相関的に考慮すべきことを明確に指摘している。
「点検活動を目的とするからといって、どのような事情のもとでも、常に立入行為が許されるわけではないとともに、管理者が拒否するからといって、一切の立入行為が許されないものとなるわけではない。点検活動を目的とするものが郵便局長の拒否にもかかわらず局舎事務室に立ち入った行為が、住居侵入罪を構成するか否かの判断をするためには、立ち入る側とそれを拒否する側との双方について、それぞれの具体的動機とその行為の態様とを相関的に考量する必要がある」とした(この事件はそうした考慮の結果、郵便局長が現金の集計整理を行っており、「点検がせいぜい10分か20分おくれることにより組合側におよぶ不利益を勘案」して正当な行為ではないとされたが、原審の実刑判決を破棄し、執行猶予2年としている)。また、
I 金沢郵便局事件(最高裁71.3.16判決、新労最集1203)も、その例である。この事件は、解雇された全逓本部三役を含む組合幹部との団交を当局が拒否したことに対し、組合が業務規制闘争を実施し、重量制限を越えた郵袋の票札を抜き取った行為が郵便法違反として起訴された。最高裁は、原判決が標準重量を越えてもそれが6キロに至らなければ適法郵袋だとした判断には合理的理由がなく、その他諸般の事情を考慮して、原判決が有罪とした票札抜取り行為も、「正当行為として刑事免責がなされるべきもの」とし、破棄自判により無罪としている。
(2) 労働関係において考慮すべき「諸般の事情」
そのほか例えば不当労働行為事件に関する日産自動車事件最高裁判決(1985.4.23、労判450ー23)では、その成否の判断に当たっては、「単に問題となっている行為の外形や表面上の理由のみを取り上げてこれを表面的、抽象的に観察するだけでは足りず、使用者が従来とってきた態度、当該行為がされるに至った経緯、それをめぐる使用者と労働者ないしは労働組合との折衝の内容及び態様、右行為が当該企業ないし職場における労使関係上有する意味、これが労働組合活動にに及ぼすべき影響等諸般の事情を考察し、これらとの関連において当該行為の有する意味や性格を的確に洞察、把握したうえで判断を下すことが必要である」との原審判断を是認している。こうした判断は、団結権保障の観点からして、刑事責任の判断にあたっても必要なこと当然である。
第3 本件ビラ撤き・説得活動は最高裁例に照らしても無罪である
こうして本件ビラ撤き・説得活動には犯罪を構成する事実がなく、労働事件の最高裁判例に照らしても、全員無罪とされるべきものである。
1 組合内部における組合員相互間の問題
本件は、組合内部における組合員相互間の問題である。三友炭砿事件(前出@)は、争議脱落者の就業に対し、多数の者が線路上に立ちふさがり、「ここを通るなら自分たちを轢き殺して通れ」と「怒号し」(「怒号し」は本件起訴状と同じ)、ガソリン車の運行を断念させた事案につき、「組合内の出来事」という点を重視して、無罪とした。札幌市労連事件Gでも、同様に組合員の就業を阻止するのに、当局者との揉み合いを含んだ行為を正当とした。長崎相互銀行事件(前出A)においても、組合員間の有形力の行使が正当とされている。本件の論争・説得やそのためのビラ撤きは、大会における国労の運動方針形成に参加する組合員の基本的権利の行使であり、前記事案にもまして、団結自治の観点から正当な行為とされなければならない。
2 目的や利害の比較考量
本件の活動は闘争団を始めとする国労組合員、その家族の死活の利益にかかわっていただけではない。組合への干渉を受入れ、不当労働行為救済制度を破壊しようとする大会方針案への反対は、憲法上の団結権保障と、そのもとでの運動、人間らしい生活の確保のための行動である。
この「4党」や国労本部の団結権侵害の重大性に対し、かりに起訴状に書かれたのが事実としても、その被害は労働運動において通常問題とならない軽微なものにすぎない。本件行為を犯罪とするのは、その利害の比較考量(安西郵便局事件、前出H、ほか)を誤るものである。こうした点に関しては、後述第4の多くの裁判例にも明らかである。
3 行為にでたいきさつ、相手の出方、行為の態様
前引判例のように、違法な行為、不当な態度等、相手方に非のある場合、これに対抗する労働者の行為がある程度の有形力の行使を伴っても正当とされる。本件の場合は、国労本部が組合員に正確な情報を知らせないまま、しかも政府与党の組合への介入を受入れ、「組合員やその家族を裏切り、」「自らの延命策を図る」(三党声明)行為を続けながら、代議員の形式的多数によって大会を乗り切ろうとしていた。大会は議案について職場討議の時間的余裕もなく開かれ、しかも会場周辺は機動隊の検問により、組合員どうしの接触の機会も奪われていた。このような本部の不当な大会開催に対する抗議、大会中止を訴える活動の正当性は、広く認められなければならない。ことに本件では、闘争団員の切捨て、生活破壊に対する反対、抗議、説得活動も、今回のような場所・時間・方法で行うほかないという、絶対的必要性に迫られていたのである。
そしてもし、このような被疑者らの行為に問題があると考えるのであれば、国労として組合規約に基づく査問手続きにより双方より事情をきくなどして事実を確認し、必要があれば統制処分で決着を図るのが筋道である。それを警察に通報し、あらかじめ用意して撮影したたビデオ・テープ(肖像権の侵害!)を提出して権力を呼び込むなど、団結自治を放棄するような本部、そして、大会準備地本は東京であるのに、警備係として長野地本などから動員され、本部に無批判に従おうとする賛成派組合員が相手であった。
大会代議員の宿泊した池袋のホテルでも、本件と同様なビラ撤き・説得活動が行われたが、ここでは本部派だけでなく反対派代議員もおり、ビラも受け取られたりする状況だったので、トラブルは起こっていない。だが本件御茶の水グリーンホテルの場合には、本部派組合員は多衆を頼み、被告人らの抗議と訴えを、問答無用と排除していった。首を切られ、人生をかけて闘いを続けてきた仲間の声を聞こうともしなかったのである。
「勤労者の団結権」が認められる根拠の労働者の連帯性、団結によって組合員相互の地位向上を図る組合の目的からして、意見の相違は事実に基づく話し合いと説得により解決することが、組合員間の信義であり、労働者のモラルである。そのために本部派組合員の足を止めさせようとした被告人らの行為は、説得に必然的に伴う行為であり、広い意味の平和的説得ないし危険性のない平和的ピケッティングの域を出ていない。
(例えばJ嘉穂鉱業事件、福岡高裁55.5.14、労旬別冊204。最高裁60.5.26判決、新労最集1006により確定、も、「出勤せんとする職員をスクラムを組み体あたりを以て押し返し、その通行を阻止した」ものだが、これを違法とする理由として、「ピケット本来の目的は・・戦列を離脱して就労せんとする組合員に対してその翻意を促す機会を得ることにあり、これが為には一応其の通行を阻止して説得することは許容されるも、該説得は平和的方法によることを要し」、組合員外の職員に対する被告人らの行動は適法性の限界を越える、する。組合員に対しては、説得のため一応通行阻止をするのは適法だと認めているのである)。
本部派の「裏切りに対し、極度に憤慨」するのが当然の状況にあって、その行為の態様はむしろ抑制的・受動的であり、団結の目的達成のためにふさわしい最小限の行動であった。それは、意見の対立を含む労働組合運動においては通常のことであり、その被害は取り立てていうに足りない。説得によるバス出発の遅延は起訴状でも30分程度に過ぎず、「不当に長時間にわたるものとはいえない」(札幌市労連事件F)。これに権力が介入し、処罰するならば、団結擁護という労組法の目的(1条1項)にも反し、より大きな法益が失われる。
(K羽幌炭鉱事件、最高裁58.5.28判決、上記第2、2、G、ウ.では「諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱した」とされたが、これは組合員以外の者に対するものであっただけでなく、その態様も「3日長時間にわたり、100余名の者と共に」電車軌道に座り込み、立ちふさがり或いはスクラムを組んで労働歌を高唱するなどして、電車の運行を阻止したというものである。本件のように組合員相互間、しかも相手方が組合への介入を受け入れようとしている場合の、わずか30分程度の抗議・説得とは、比較にならない。)
4 支援労働者の共同行動
以上のことは、国労組合員についてだけでなく、支援労働者の共同行動についても
同様に妥当する。憲法28条の団結権保障は、「勤労者の権利」であり、「企業内組合」や「組合員の権利」ではない。労組法1条の目的規定でも、「労働者が・・・団結することを擁護すること」としている。
ことに今回の「4党合意」や3党声明は、「政治解決」という形をとって、労働委員会の不当労働行為救済制度を実質的に否定しようとした。それは国労組合員だけの問題ではなく、すべての労働者、さらには主権者たる国民に関わることである。闘争団に対する支援の共同行動が労働者の団結権擁護のための正当な行為、団結権行使であるのは当然である。まして本件で被告人とされた向山氏は、むしろ予想される不当な介入に対する監視などのため、その場に臨んでいただけである。
(例えば、L菊水会社事件、東京高裁67.1.26、下級刑集9ー1ー1、は、直接の争議当事者でなくても闘争に参加し得るとして、次のようにいう。「会社側のロックアウトに対抗する労働者の闘争手段は、通常の労働争議に随伴して容認される事実行動であるから、労資間の団体交渉とか、争議に関連して労資間に交わされる意思表示とは異なり、当該争議行為の直接の当事者に限らず、互いに利害を共通にする労働者は、その団結権に基づいてこれをなし得るものと解するのが相当である」。)
こうした事情を考慮すれば、被告人らの行為は正当な団結権の行使であり、なんら犯罪となるものではない。
第4 補論──高裁無罪判決の例
「諸般の事情を考慮して」、有形力の行使や傷害を無罪とした高裁判決をいくつかあげると、前記のほかつぎのような例がある。
M 関西小野田レミコン=東海運輸事件(大阪高裁66.5.19判決、判時1088ー150、確定)
被告人らは、関西小野田レミコン社長が同社工場敷地内の平尾運輸事務室にいたのを、レミコン事務所に行くよう「肩付近に手をかけ」あるいは「軽く叩くなどして催促し」、「背後から押し」、「抱えるようにして」レミコン事務所に連行したこと、午後3時40分ころから午後7時ころまでの間、2・30名の組合員が社長を「取り囲んで帰そうとせず、「何とか言え、しぶとい奴や」「そろばんの上に座らせてやろうか」等と威圧的文言を発したり、ネクタイがゆがんでいると言いながら志田(社長)のネクタイに触れたり、こっちを向いてしゃべるようにと指を眼前で回したり、肩に軽く手を触れるようないやがらせ的な行為をしたことを認定した上で、判決は次のようにいう。
「労働条件の悪化に関し、東海運に交渉を申し入れても小野田レミコンの決定するところであると一蹴され、小野田レミコンからは労使関係がないとして全く相手にされないという、いわば取りつくしまもないという情況下におかれていた前述の事情の下においては、被告人らがたまたま志田社長に会えたことを千載一遇の機会としてとらえ、団体交渉ないしその開催要求として行った前記行為は、緊急な要求に基づく物で、その態様や時間の長さ、時間帯にかんがみても、いまだ暴力の行使と評価されるべきものではなく、かかる交渉のあり方として良識の範囲を特に逸脱しておらず、なお労働組合の活動として相当な行為の範囲内にあるものということができる。」
N 田町電車区事件(東京高裁68.1.26判決、下級刑集10ー1ー11、無罪確定)
田町電車区の職員が、浴場入口前に立ち並び実力で入浴を阻止しようとした区長や助役ら、および写真撮影をしようとした公安職員との間で起こした紛争につき、判決は次のようにいう。
区長の一方的な入浴規制措置及び実力阻止という違法な措置及び行為に対し、「管理者側の者と押したり引っ張ったりする程度の紛争があったこと及び疎明の際管理者側の者の背中が浴場入口の戸のガラスに触れその1枚が破損したことが、直ちに暴行罪や器物損壊罪を構成するものと解することはできない。」それらの行為は、「職員らが従前の慣行によって認められてきた入浴に関する利益を衛るためやむを得ないところであって、外形的には有形力の行使として暴行にあたることがあるとしても、違法性を欠き、暴行罪は成立しないものと解し得る」。
また、「公安職員が入浴のため裸で集まった職員たちにカメラを向け、写真撮影をしようとし、職員らに発見されて抗議を受けたがなお写真撮影を続行しようとしたのに対し、被告人らを含む職員らが」、それを「妨害するため、同人の腕を揺ったり、カメラの紐を引っぱったり、一団となって揉み合うような状態となった」が、同人が「強度の暴行を受けたものとは考えられない」。被告人らの行動は、「自救行為及び及び社会的相当行為の成立に必要とされる前記要件(目的の相当性、手段方法の相当性、法益の権衡性、情況上の相当性、補充性の原則)全部を備えている」とした。
O 花巻バス事件(仙台高裁68.12.24判決、下級刑集10ー12ー1178、 無罪確定、前出)
バス会社の労働組合支部長が、争議行為に際し、職制ないし第二組合員による車両の搬出を阻止するため、立入禁止の表示を付したロープをくぐって車庫内に立ち入った行為が、建造物進入に問われた事案。
判決は、被告人の行為は、「立入りの目的を全く度外視して、直ちに刑法第130条前段にいわゆる「侵入」にあたるとするだけの可罰的違法性を有するものと断定することはできない。」
「労働組合が争議行為として行う業務阻害行為が正当な争議行為とされる限界は、このような使用者と労働組合の相互の対抗関係において、争議行為の目的、経緯及び態様、使用者に対する侵害の程度等に照らし、社会通念に従ってこれを定めるべきものと解すべきであり、たとえば、使用者の操業継続により、業務の阻害を本質とする労働組合の争議行為が全く実効を欠くものとなるときは、憲法第28条の法意にかんがみ、社会通念上許される限度において、労働組合は、争議行為の実効性を確保するため、使用者の操業継続に対する対抗手段をもとることができるものと解するのが相当である(なお、最高裁判所昭和31年12月11日第3小法廷判決、刑集10巻12号1605頁参照)。」
本件行為は「刑法第130条前段にいわゆる「故ナク建造物ニ侵入」したことにあたるとするだけの可罰的違法性を有するものと断定することはできない。」とした。
P 平和タクシー事件(暴力行為等処罰法被告事件、大阪高裁69.4.9判決、前出)。争議中のタクシー会社の労働組合が、自動車のエンジンキイ、検査証等を取上げ、組合側で保管した行為につき、威力業務妨害罪の成立を否定した。次のようにいう。
「人の意思を制圧するに足る勢力といえど、その目的、態様その他諸般の事情を考慮して、不法に人の意思を制圧するに足りると認められる程度のものであって、はじめて威力業務妨害罪における威力と認めるに価するものであることも、いうまでもないところである。ことに労働争議の過程におけるものについては、それが暴行、脅迫をともなう場合はかくべつ、その行為を切り離して、これを画一的に評価すべきではなく、労働法の精神、労働争議の実態にかんがみ、その目的、態様、実害、法益の権衡等、諸般の事情を考慮し慎重に判断しなければならない。原判決が、「その違法性を判断するに当っては、労使双方の流動する対立拮抗関係をし細に検討し、本件行為の目的、手段の態様を争議行為の場を通じて具体的に考察する必要がある」としているのは、正当であるといわなければならない。」
本件の場合、「会社側の不当労働行為(注、団交に対する不誠実な態度)に対し組合がある程度強力な手段に訴えるにつき、やむをえない事情の存すること、等原判決挙示・・の事情を総合すると、かかる状況のもとに行われた被告人の本件行為は、いまだ違法に刑法234条にいう威力を用いて人の業務を妨害したというに足りず、それゆえ被告人の行為につき犯罪を構成しないとして、無罪の言渡しをすべきものとした、原判決は結局において正当である。」
また、会社側が組合の保管中の自動車を引き出しそうとしたのに対し、被告人らが「洗車用ホースあるいはバケツによる放水、消化液の放出という積極的手段」をとったことも、会社側の攻撃に対し「もっぱら防御につとめていたもの」であって、「「被告人らの本件行為は、全体として、第一組合の団結権、争議権ひいてはピケット権を防衛するため、やむをえなかった、相当の行為と認むべきであり、従って本件各所為は正当防衛として違法性を阻却する」とした原判決の判断は、正当であると是認せざるをえない」とした。
Q 関扇運輸事件(暴力行為等処罰法被告事件、大阪高裁69.10.3判決、高刑集22ー5ー697。最高裁71.3.23決定、労最判1216により、上告棄却、確定)。
「外形的な現象としては器物損壊罪或いは器物損壊を内容とする暴力行為等処罰に関する法律違反の構成要件に該当する」ビラ貼り行為について、「その本旨とするところは会社側の切り崩し工作に対する組合員の脱落阻止の呼びかけであり、同時に会社側における右不当労働行為に対する抗議とその即時解消の要求」であったこと等の諸般の事情から、「正当な組合活動の範囲内」として検察官の控訴を棄却。ビラ貼りの目的での建造物立入りについても同様の判断をした。
R 茨木市職員組合事件(大阪高裁70.3.27判決、判タ255ー245、確定)
当局側が組合との話し合いを拒否して、断水地域の管理職員のみによる給水作業を始めようとし、また水道事業所所長代理が警察力の導入という挑発的行動に出たのに対し、被告人はこれに抗議し、阻止するため所長代理の「頸筋及びその付近を数回突」き、同人が「最初の攻撃により前のめりになり、その後の攻撃において前方及び横の方によろめいた」事実を認定。
判決は、「本件が労使間の紛争の過程において派生した事件であることに思いを至し、かつ、ことここに至るまでの前記諸事情を勘案すれば・・被告人の本件行為は手段の相当性を充足している」。「組合側は、過去において当局側より不当な圧迫を受け組合活動、ひいては団結権に重大な侵害を受けてきており」、本件の一方的な管理職員のみによる給水作業の強行も、「組合側の団結権を不当に侵害しようとするもの」などのことから、「無罪の言渡しをした原判決は正当」とした。無罪確定。
S 山陽放送事件(東京高裁、70.10.2判決で無罪確定、前出)
組合支部連の被告人ら20数名が、組合員に対する顛末書提出要求に抗議し、抗議文の受理を求めたのに対し、応対に出た支社側課長らが退去を求め、抗議文の受領も拒否した。被告人らは自席に戻った課長の席に近づいて同人を取り囲み、抗議文の受領朗読を拒否する課長を自席に着席させ、抗議文を朗読した。
判決は、抗議文の朗読は「抗議行動の一環」であり、「支社側が本社の窓口として被告人ら支部連の者との交渉に応じなければならない立場にある以上、これらの者が本間(課長)の自席まで立ち入り滞留してこの種の交渉を継続したこと自体は違法ではなく、これらのものの中には罵声を発して喧騒にわたった者があったとしてもこれまたこの種の交渉に伴うある程度やむを得ない行動として不穏当ではあるが未だこれを以て法の認めない違法な状態に達したものということはできない。従って本間、小野両課長がその間各自予定の業務の遂行を妨げられたとしても、支部連の者と応対する義務がある以上、これもこの業務の一内容であるとみるべく、またやむを得ないところといわなければならない」。「被告人らの本件事務室滞留の所為は未だ刑法第130条後段の不退去罪に該当することの証拠があったものということはできない」。
また、支社側課長が抗議文朗読中の被告人らを写真撮影したので、被告人らがそれに抗議し、カメラの引渡を求め、押さえている課長の両手からカメラを引き抜いた。そのとき課長が「拇指等に軽微な傷を受けた」。この傷害についても、誤想防衛として、その責任を否定した。
21 東邦製鋼事件(暴力行為等処罰法被告事件、名古屋高裁71.5.6判決、刑事裁判月報3ー5ー623)最高裁72.3.28決定、労最判1216により、上告棄却、無罪確定。
「刑法260条所定の建造物損壊罪の特別構成要件を充足する」と認める被告人らのビラ貼り行為につき、つぎの理由により無罪とした。
「労働争議が、使用者側の不当労働行為を伴うごとき著しい不当行為・・が原因となって発生したような場合には、当該争議の発生について、社会的な責任を問わるべきものはもとより使用者側であり、しかも当該争議の帰趨如何が労働組合の消長、存亡のもかかわるような重大な意味合いのもつことを否定し得ないのであるから、これに対する労働組合の闘争手段が、通常の労働争議におけるそれに比較して、ある程度激しくなるのもやむを得ないものがあるといわざるを得ないであろう。」
会社側が組合活動家の指名解雇を固執し、誠意ある団体交渉を行おうとしなかったこと、本件ビラ貼り行為は、「右のような局面を打開するための、やむを得ない方法として行われた、会社側に対する示威ないしは抗議の行動にほかならなかったのである。」
「本件の具体的状況のもとにおける本件程度のビラ貼り行為を目して、これが社会的相当性の範囲を逸脱する程度のいわゆる行きすぎた争議行為に当たるものとはとうてい認められない。」
22 京聨タクシー事件(暴力行為等処罰法被告事件、大阪高裁73.3.27判決、刑事裁判月報5ー3ー202)最高裁74.9.4労最集1317で上告棄却、無罪確定。
旧労働組合員らが、新労働組合の指導のため来社した上部団体役員を、多衆共同して「同人の腕を引っ張ったり背中を押す」などして連れ出した行為につき、「旧労の団結権擁護のため」の行動であり、「本件行為の目的、態様、本件に至る経緯、本件行為による被害状況等の諸般の状況にてらすと、被告人らの本件各行為は外形的には前記暴力行為等処罰に関する法律1条1項に該当するけれども、いまだ可罰的評価を受けるに値するものとは認め難く、罪とならないものと解するのが相当である」。
23 NHK山形放送局事件(暴力行為等処罰法被告事件、仙台高裁73.10.8判決、前出)
NHKが組合員に脱退を働きかけるなどしているなかでの交渉で、NHK側4名と組合側4名が相対峙して立ち、その周囲を30名前後の組合側参加者が取り巻く状況で、局長が沈黙して追及に耐え時を過ごすに至った。その態度に業を煮やした被告人が「局長の顎にこぶしを当て、返事をしろと数回にわたりその顔を挙げさせようとし、また確約書を書けと手にした紙片を同人の眼前に突きつけて、その紙片の端が俯く同人の顔面を下から上にすりあげる様に数回ふれさせたこともあった」。
これに対し判決は、「いまだ行われている不当労働行為を阻止すべく誠実な応答と書面による確約を求めてなした正当な団体交渉権の行使に際しこれに随伴してなされたものと解されるのであって、かかる状況下における右程度の軽微な有形力の行使を、本件の正当な団体交渉の全過程の中から、特にその部分のみを抽出してとりあげ、これをあえて処罰すべきまでの違法性があるものとはいまだ認められない。
また、「不当労働行為は、団結権に対する強い権利侵害性を持つとともに、それが直ちに阻止されない限り適法な労働組合が壊滅せしめられてしまうという点において、これに対する抗議交渉は他の労働条件の改善等を目的とする一般の団体交渉とは異なり、強い緊急性とある程度の自力救済性を帯びざるを得ず、」「交渉に参加している組合側の者が、その不誠実で挑発的なNHKの態度に不満と不信を爆発させたことは当然であって、疎明の際組合員らが・・局長らを椅子から立たせ、パイプ椅子で床を叩き、灰皿を机に打ちつけるなどして口々に同局長を非難する野次をとばし、室内が騒然となったことも止むを得ない交渉過程のなりゆきというべく、・・局長らがこれにより威圧を受けざるを得なかったとしても、右の所為が正当な団体交渉の範囲を超える違法な多衆の威力と解するのは相当でない」とし、暴力行為等処罰に関する法律違反の起訴を無罪とした。
24 商都交通事件(大阪高裁77.3.9判決、判時869、上告があったが、結果は未確認)
本社建物の壁面に「団体交渉を開け」等と記載したビラ約538枚、約250枚を
張りつけたのが、建造物損壊に問われた事案。
判決は、「会社側に団体交渉拒否、組合介入などかずかずの不当労働行為があり」、組合としてはこれに「抗議し自らの団結を堅持するための情宣活動として本件ビラ貼りを決意したのも無理からぬところ」であること、ビラ貼りにより会社が被った損害(執務上の支障、原状回復の費用)は、「右不当労働行為の激しさを考慮すればあながちその故に本件ビラ貼りを非難することも相当ではない」こと、などの事情を考慮し、本件ビラ貼り行為を正当争議行為とした原判決を支持した。