弁 護 人 冒 頭 意 見

 2003年3月17日
 弁護人 萱野 一樹

6部 本件逮捕・起訴は、闘う国労組合員の解雇撤回闘争を破壊するための政治弾圧である。

 第6部では、本件逮捕・起訴が、警察・検察が国労本部派を取り込み、これと一体となって「4党合意」反対派を叩きつぶすために行った政治弾圧であることを明らかにする。 
 「4党合意」をめぐる対立は、国鉄労働組合内部の問題であって、本来組合内部で解決されるべきものである。また警察の民事不介入の原則がある。しかるに、今回の弾圧は、警察権力が民事不介入の原則を踏み破り、国労本部派の売り渡し行為を利用して国鉄労働組合内部の路線をめぐる対立にあえて介入した弾圧である。
 逮捕・起訴された被告たちのほとんどは、「4党合意」反対する国労組合員である。しかも被告人らの行為は、ビラまきと説得活動でしかない。およそ罪に値しないような行為をもって「4党合意」反対派のみを逮捕・起訴しているのは異常である。明らかに警察は、「4党合意」賛成の国労本部派に一方的な肩入れを行っている。このことは、今回の弾圧が「4党合意」反対派をたたくための政治的な弾圧であったことを示している。さらに今回の事件は、5・27臨時大会から4か月もたって行われている。5・27当日、現場には制服警官や公安警察も来ていたのである。それが、なぜ、現場逮捕が行われなかったのか。それは現場逮捕できるようなことは行われていないからである。それを警察は、「四党合意」反対派をたたく観点から5・27後、それも4か月も後なって逮捕したのである。このことも今回の弾圧が政治的な理由から行われた弾圧であることを物語っている。
 今回の弾圧では、国労本部派は、警察権力の政治的弾圧を積極的に引き入れる反動的役割を演じている。まさに労働組合としての団結自治を自ら投げ捨て、団結を破壊する暴挙といわなければならない。いうまでもないが組合内部の問題を警察力で解決しようとするなど、およそ労働組合幹部の考えることでも取るべき行為でもない。まさに労働組合の本分を投げ捨てた自殺行為だと断じざるをえない。
 取り調べの過程で刑事が「東京地本には貸しがあるからな」と発言している。「貸し」とは、おそらく大会の度に行われた機動隊導入のことであろう。警察権力は、誰が敵で誰が見方か見境のなくなった東京地本の一部幹部ら国労本部派を機動隊導入の過程で完全に抱き込み、それを利用して今回の弾圧を強行したのである。
 こうした警察の政治的な意図をみるとき、国労組合員としての信念と誇りにかけ、国労本部派を真摯に説得するためにビラまきと説得活動を行なった被告人らの行為の正当性は一層明らかである。

第1 5.27臨時大会後の本件弾圧にいたる経緯

1 5.27臨時大会の結果

(1) 前述したとおり、国労本部は、5.27臨時大会において、闘う国労闘争団や「4党合意」反対派の強い反対を押し切って、機動隊を導入したうえで以下の決定を強行した。
@「JRに法的責任がないこと」を再確認し、「最高裁での判断を公正に求める」という第67回定期全国大会における追加方針の撤回を確認する。
A最高裁への第三者参加申立及び鉄建公団訴訟を行っている闘争団員は、速やかに査問委員会に送致する。査問委員会は、規則に基づいて作業を進め処分を決定し、直近の全国大会で決定する。
B国鉄改革法関連の訴訟について取り下げることとする。
C2002年2月15日に提出したILO追加情報の内容が与党及び関係者に誤解と大きな不信を招いた状況に対して、その撤回と臨時全国大会及びその後の解決状況についてILOに追加の情報を新たに提出する。
 国労本部は、与党3党声明の要求を丸呑みし、鉄建公団訴訟などに参加した闘争団員など「4党合意」反対派を切り捨てるという重大な屈服と裏切りの道に突き進もうとしていたのである。
(2) 5.27臨時大会が終了したのち、直ちに自民党の甘利筆頭副幹事長は、「国労大会において(本部の)方針が可決されたことは評価したい」と前置きしたうえで、「残された課題について次期定期大会までに解決されるよう期待する」とのコメントを発表した。甘利副幹事長は、国労本部にたいして、次の定期全国大会までに国鉄闘争の幕を引く最後的な全面屈服を求めたのである。

2 その後の経緯

 5.27臨時大会後の本件弾圧にいたる経緯はつぎのとおりである。経緯をつぶさに検討すると、4党合意が全面的に破綻していく中で、国労本部と警察権力が一体となって、いわゆる闘う闘争団をはじめ「4党合意」反対派を力ずくで押さえつけようとしていたことが明白になる。
(1) 6月6日、自民党、公明党、保守党の与党3党と社民党が「4党協議」を行い、「残された課題」を明らかにしてきた。この協議には国労本部派も呼ばれ、高嶋昭一委員長は「解決案が示されるなら受け入れたい」と解決案づくりを要請したが、与党側は、「4党合意」反対派の組合員の除名処分が先決であり、次回の定期大会までは解決案づくりには着手しない考えを示した。
 そこで上記4党は、@定期大会までに最高裁に係属している訴訟を取り下げること、A4党合意に反対し、新たな訴訟を起こした当事者を執行部がまとめ組織を統一することを要求した。
 同日、甘利副幹事長は記者会見を行い、「(4党合意に反対する)確信犯をできるだけ絞り込んでください。最後、どうしても残る人がいる。その人たちは、組織から外れてもらうことになりますね。統制処分が最後の8月の定期大会ということになる」「(除名処分も)致し方ないじゃない。しなければ駄目だということ」「一生懸命やれば(鉄建公団訴訟の原告は)もっと減ると思う。(国労が)それほど真剣に取り下げの働き掛けをやっているとは思われない。命がけでやってもらいたい」「基本は組織から外れてもらうということだ。それで徹底的にやってもらわなければならない」「夏の大会までにそうならなければ4党合意は解散する」と述べ、国労本部にたたかう闘争団をはじめ「4党合意」反対派を除名するよう求めたのである。甘利副幹事長は、国労本部に「8月定期全国大会までに組織から外れてもらう」、すなわち「除名せよ」と要求したのである。まさに露骨な支配介入であった。
(2) 上記「4党協議」と甘利発言を受けて、国労本部派は次のように応えた。
「社民党から要請していただければいつでも訴訟は取り下げる。早く下ろすことに何のためらいもありません」「(最高裁の第三者訴訟や鉄建公団訴訟などを起こした)依然姿勢が改まらない組合員については、中央執行委員会が速やかに量刑を確定させ、査問委員会に送致します。5.27臨時大会でこれまでのさまざまな働きかけにもひとつの区切りをつけた。直近の大会で答申し承認する」「統制処分は除名か組合員権停止。(被処分者は)まったく解決の対象にしないというのもひとつの方法でしょう」(6月15日付「公共企業レポート」における寺内国労中央本部書記長のインタビュー)
 要するに、寺内書記長は、上記インタビューの中で、「5.27臨時大会を区切りにして、4党合意反対派を除名か組合員権停止処分にする」と述べているのである。甘利副幹事長の言いなりになって、闘う闘争団など「4党合意」反対派を切り捨てることを公言したのである。
 そして、7月10日、国労中央本部は、第28回中央執行委員会において、「一部闘争団の『最高裁への第三者参加申立・鉄建公団への地位保全・賃金等の支払いを求めた訴訟原告』に対する査問委員会への送致」を決定した。
(3)7月11日、国労中央本部は、甘利副幹事長に対して要請行動を行った。その席で、甘利はつぎのように述べた。「JRに責任がないことを認めるのが一切の前提である」「国労執行部に対しては『こんなすばらしい案が出る』というのはやめて欲しい」「何千万の解決金とか、全員の雇用などと幻想をいってもらっては困る。ゼロかプラスアルファ、ゼロよりはいいか、の選択という現実をいうべきと再三申し上げてきた」「3分の1の反対者がいては合意はない。しかも反対者が組織に残っていることはありえない。外れてほしい。コアメンバーのみにしてまわりの衣を剥がしてほしい」
 この甘利発言は、「4党合意」に基づく解決が「何千万円の解決金や全員雇用は幻想」であり、「ゼロかプラスアルファー」に過ぎないことを明白にするとともに、「反対者が国労に残っていれば4党合意は破棄」であり、「4党合意による解決に賛成する」なら、国労が自ら「4党合意」反対派のコアメンバーを除名しなければ、解散を決議する以外にないと改めて迫ったものである。

3 以上の動きに対して、「4党合意」反対派のたたかいは不屈に進められていった。

(1) 各地の地労委闘争の前進
 5.27臨時大会に先立って、2月15日には、千葉県地方労働委員会で「4党合意」を不当労働行為として救済申立をしていた事件の第5回審問が開かれ、甘利座長の証人喚問が決定された。同地労委の3者委員の協議の末、「4党合意」の座長である同人の証人喚問は不可欠と判断されたのである。(なお、同地労委は、同月22日、突然上記証人喚問を取り消す決定をした。甘利座長の証人喚問に対して、痛く打撃を受けた同人が同地労委に政治的圧力をかけた結果である。)
 4月15日には、大阪府地方労働委員会で、甘利座長の証人採用が決定され、7月8日には同人の証人尋問が行われることが決定された。
 さらに、4月22日には、福岡県地方労働委員会で、同じく甘利座長の証人採用が決定され、9月5日に証人尋問を行うこととなった。
 同人は、「4党合意」の筆頭署名者である。一貫して「4党合意」を推進し、上記のとおり5.27臨時大会後も、国労本部に対しさらなる屈服と裏切りを求め続けてきた人物である。同人が、労働委員会において証人として喚問されるという事態は、「4党合意」の不当労働行為性が暴露され破綻する危険をはらむものであった。甘利は、労働委員会に証人として喚問されることに対し露骨に不快感を明らかにし、いずれの期日にも出頭を拒否し、同人の証人尋問は延期された。同人の出頭拒否に対し、申立人らは、労働委員会に対して甘利副幹事長の強制的な喚問を請求し、労働委員会は総会を開催してその検討に入った。
 なお、松崎被告人および羽廣被告人は福岡地労委の申立人であり、富田被告人および東被告人、橘被告人、原田被告人は大阪地労委の申立人である。同被告人らは、本件当日、上京して甘利座長の地労委への出頭拒否に対して抗議行動を行っている。今回の弾圧は、甘利座長の証人採用をかちとり、それを拒否した甘利座長への抗議行動を行った被告人らへの弾圧でもある。
(2) 鉄建公団訴訟に対する訴訟救助の決定
 7月5日には、原告団が申請していた訴訟救助の申立に対して、鉄建公団訴訟が係属している東京地裁が「申立人らが本案訴訟において勝訴の見込みがないとはいえない」として訴訟救助の決定をした。国労本部が、訴訟救助の申立に対して、「どうせ門前払いになる」「却下の可能性が強い」などと述べる一方で、上記のとおり同訴訟の原告らに対して除名処分の動きを強めていた矢先であった。
 上記訴訟救助の決定を受けて、9月26日に、鉄建公団訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。「4党合意」反対派は大いに意を強くし、同口頭弁論期日には200名余りの傍聴希望者が詰めかけ、同日夜の裁判報告集会には1000名以上が参加した。
(3) また、2月25日に、被解雇者に対して組合から支給されていた生活援助資金について、最高裁に係属している訴訟に第三者参加を申し立てた申立人らおよび鉄建公団訴訟の原告らに対して支給を凍結することが決定されたが、これに対して、5月21日、同凍結措置禁止、生活援助資金の仮払いを求める仮処分が申し立てられ、審尋が開始された。
(4) さらに、闘う国労闘争団、全動労争議団、動労千葉争議団が協力して、「4党合意」に反対し、あくまで解雇撤回、原地・原職復帰をかかげ国鉄闘争の勝利に向かってたたかう国鉄・1047名闘争の新たな陣形をつくる動きも進められていた。
(5) こうした「4党合意」反対派の不屈のたたかいの前進の前に、「4党合意」は破綻の危機を迎えていた。
 7月30日、自民党、保守党、社民党、国土交通省による4者会談が開かれた。社民党の村山元首相から「4党合意に基づいて何とか解決案を出してほしい」との要請があり、これに対して自民党の野中元幹事長らは、「4党合意はもうない。社民党はもう手を引いたほうがいい」と述べた。社民党が自民党に「8月いっぱいまってくれ」と申し入れ、自民党は「8月いっぱい様子をみよう」と応えたという。
 上記のとおり、「4党合意」反対派に対する除名処分の動きを強めながら一向に進まず、かえって各地の地労委での相次ぐ甘利座長の証人採用決定、さらには鉄建公団訴訟の訴訟救助の決定、その第1回口頭弁論が9月26日に開かれるという事態、また単組の枠をこえた国鉄・1047名闘争としての新たな発展が生まれるなど、「4党合意」は、これにたいする激しい抵抗を生みだしながら破綻を深め、崩壊の危機に直面したのである。
 
4 11月定期大会の位置 

(1) 9月27日、国労中央執行委員会は、2002年度定期全国大会を11月24日、25日の両日に社会文化会館で開催することを決定し、そのための代議員選挙の日程を、公示日10月7日、投票日10月18日と決定した。通常、国労の定期全国大会は、遅くとも8月までには開催されていた。また8月までに開催して自民党・甘利から求められていた「残りの課題を解決する」する必要があった。しかし、それができず、定期大会は3か月も遅れて11月にずれこんだのである。もはや「4党合意による解決」なるものは頓挫する寸前であった。
(2) こうした中で、11月の国労定期大会は、「4党合意」の帰趨を左右する重要な大会であった。同大会において国労本部は、あくまで「4党合意による解決」にしがみついて延命をはかり、@「4党合意」反対派の処分(査問委員会の継続設置)の強行、Aたたかいを全面的に放棄する証としてストライキ基金の取り崩しなどを決定しようとしていた。それに対して「4党合意」反対派は、前述のとおり「4党合意」が破綻の危機を迎えるなかで、国労本部の執行部責任を追及する構えであった。
 11月大会は、5.27臨時大会において「4党合意」の再確認をしたにもかかわらず、「4党合意」反対派が各地労委闘争や鉄建公団訴訟などを軸にして反転攻勢に転じ、「4党合意」がにっちもさっちもいかず、その破産が露わになる情勢の中での大会となったのである。
(3) 11月国労定期大会では、つぎの事項が討議・決定されようとしていた。
@査問委員会の継続設置
 最高裁に継続している訴訟への第三者参加申立を行っている申立人や鉄建公団訴訟の原告などの「4党合意」反対派に対する処分のための査問委員会の設置を継続すること。
A「エリア本部の強化」案とストライキ基金の取り崩し案の決定
 ストライキ基金13億円のうち、8億5000万円を取り崩し、退職基金4億2000万円、犠救基金1億3000万円、エリア基金3億円に振り替える。これは、賃金カットの補償以外に使用してはならないという「ストライキ基金運用規則1条」を完全に踏みにじるものであった。国労組合員は、JR資本とたたかうためにストライキ基金を積み立ててきたのである。それを取り崩すということは2003年の春闘をたたかうことを放棄するばかりか、今後ストライキでたたかうことを完全に放棄することを意味する。「4党合意」「与党3党声明」と軌を一にして、たたかう路線を完全に否定するものであった。と同時に、進退窮まった国労本部は、「エリア本部の強化」と称する全国単一体としての国労組織のあり方を解体する方針を持ち出し、国労の最大の資産であるストライキ基金まで「退職金」等の名目で処分し、国労組織を各エリア本部ごとの企業別組合に分け合い、国労の解散を準備する策動であった。
 しかし、定期大会は、鉄建公団訴訟を行った闘争団への査問委員会の再設置を決めただけで、「スト基金の取り崩し」は1年間の職場討議に付すことになった。またこの定期大会の結果をみて、自民党・甘利は、12月6日、与党3党は4党協議から離脱する旨の記者会見を行った。四党合意はここに完全崩壊したのである。
(4) 以上のとおり、11月定期大会は、自民党の言いなりになって、「4党合意による解決」を進めてきた国労本部が、破綻を露わにした「4党合意」に何がなんでもしがみついて延命するために、闘う闘争団をはじめ「4党合意」反対派総体の切り捨ての道を歩むために開かれようとしていた。そのために国労本部の側からも、その屈服路線に反対し、あくまでたたかい抜こうとする「4党合意」反対派を何としても力で押さえ込み排除して、大会開催を強行する必要があったのである。

第2 本件は、11月国労大会を前にして、警察権力と国労本部派とが一体となって強行した政治弾圧である。

1 まず、本件弾圧の経過についてみていきたい。

 @10月7日、警視庁公安部は1都1府2県の計8か所を家宅捜索し、国労闘争団員2人を含む国労組合員5人と支援3人を逮捕した。これが第1次弾圧である。
 その大きな特徴の第1は、この10月7日が、国労第70回定期全国大会の代議員選挙の公示日であったことである。警視庁の公安刑事は取調の中で「国労の選挙の立候補の当日に逮捕した。びっくりしただろう」と言っていた。4党合意反対派の代議員選挙を妨害し、国労本部派の多数派工作に利することが、この弾圧の大きな目的であったことを、この公安刑事の発言は物語っている。本件弾圧が政治性のきわめて濃厚な弾圧であることは明らかである。
 第2に、全国一斉の大がかりな弾圧として、国家権力中枢の判断と指揮の下で行われたことである。決めた日の確認した時刻に対象とする物件に行けばよいという家宅捜索と違って、逮捕の場合は被疑者の存在を前夜から確認しておくことが不可欠である。警視庁公安部が、各府県警察本部を水先案内人として、全国一斉に、ほぼ同時刻に8人に対する家宅捜索や逮捕を実行したことに、その策動の用意周到さが示されている。
 そして、権力中枢の判断と指揮の下での弾圧であることは、取調検事が「他の事件を放り出して総がかりでこの事件にあたっている」と言ったことにも示されている。
 検察は勾留満期の10月28日、第1次弾圧の8人のうち6人すなわち国労組合員5人全員と支援1人が起訴され、支援2人が釈放されたのである。
 その翌日の29日、警視庁公安部は国労組合員2人をさらに逮捕した。これが第2次弾圧である(11月18日、2人とも起訴)。
 第1次、第2次合わせて10人逮捕―8人起訴というのは、労働運動への弾圧としては最近ではもっとも大きな規模のものである。この弾圧の規模そのものが、本件事案の政治的・歴史的背景の大きさと深さを物語っているのである。

 A次に警視庁公安部と東京地検の取調過程で明らかになった重大な事実についてとりあげていきたい。
 第1に、警視庁公安部は、第1次弾圧の国労組合員について「住所不詳、職業不詳」として逮捕状を請求し執行していたことである。家宅捜索と逮捕の際に、ある労働者の連れ合いが「職業がわからないのにどうやって彼の職場に行ったのか? 住所がわからないのにどうやってここまで来たのか?」と追及したことに、警視庁の公安刑事はなにも答えられずうなだれていたとのことである。権力は、国労組合員を「住所不詳、職業不詳」という得体の知れない人物として描き出すことによってしか、簡易裁判所から逮捕状をとれなかったのである。
 関連して、勾留理由開示公判での弁護人の追及に対して、中川正隆裁判官が「被疑者が国労組合員であることを知らなかった」と答えたことである。また、同裁判官は後日の別の勾留理由開示公判において「被疑者が国労組合員であろうがなかろうが、被疑事実と関係ない」という暴言を吐いている。裁判官が、「暴力行為等処罰に関する法律」は治安弾圧法であることを知らないわけがない。ところが、刑事14部の裁判官は今回の事件の経過と内容をなにひとつ知ろうとせずに、検察の言いなりになって勾留を決定していたのである。
 第2に、公安検事と公安刑事が、午前・午後・夜間の長時間にわたり、事実調べなどそっちのけで、「国労の運動をやめろ」としてウソとデマで屈服・転向を強要したのである。
 一つは、長時間の取調をとおして、病気と闘う労働者に不安と苦痛を強制したことである。うつ病と闘う労働者に「起訴されて東京拘置所に移管されたら、あそこの生活ではおまえの体はもたないぞ」と不安と恐怖をかきたてることを言って屈服させようとした。
 また、腰痛の持病をもっている労働者に長時間同じ姿勢を強要して持病を悪化させるという拷問的取調を強行した。その中で、公安検事の渡辺雅洋は「おまえの腰痛はウソだ。病院に連れていかない」などと許しがたいことを平然と言ったのである。
 二つは、子ども思いの労働者にむかって「子どもが小学校でイジメにあって泣いているぞ」というありもしないウソを繰り返し言うことによって、労働者の不安をかきたて屈服を迫ったことである。
 三つは、Aさんに対して「Bが『暴行をしたのはぼくです。ぼくが一番の悪者でいいから、他の人は仕事に戻れるようにしてください』と言っているぞ」と、Bさんが権力に屈服したかのようなウソをねつ造し、逆にBさんに対しては「Aが『……』と言っているぞ」と、Aさんが供述を開始したかのようなデマを言うことで、被告たちを不信感で相互に分断し、その屈服を誘おうとしたことである。
 四つは、完全黙秘の闘いを切り崩すことができない権力は、机をこぶしでドンドンたたいたり、机の脚を蹴飛ばしたりという暴力をふるい、「おまえの体に当たらなければいいんだ」とウソぶいたことである。
 五つは、接見に協力している弁護士への誹謗・中傷をくりひろげ、ついには「弁護士を解任しろ」という違法な言動を平然としたことである。「弁護士は金もうけでやっているんだ。勾留が長引けば長引くほどもうかるから、黙秘しろと言っているんだ。このままだと弁護士費用でお金も家もなくなってしまうぞ」などと言ったのである。
 第3に、検察官によって、弁護士の被疑者との接見に対する妨害がこれまでになく執拗に加えられたことである。
 第4に、家族をつかって屈服と転向を引き出そうとして卑劣きわまる攻撃を加えてきたことである。
 警視庁公安部は妻子の住む自宅に夜の8時から10時にかけてくりかえし電話をかけてきて、「〔Aさんが〕やっている証拠はある。このままいったら起訴される。何年も出てこれない」と脅した。さらに、「娘さんが交通事故を起こしましたね」とか「きょうだいげんかをよくしていますね」とか言って、子どもたちのこともすべて調べていることをにおわせ、権力が子どもになにをするかわからないという恐怖をいだかせようとしてきた。
 被逮捕者10人全員がこのような屈服と転向を強要する弾圧をはねかえして完黙の闘いを貫徹し、起訴された8人が統一被告団を形成して裁判闘争に臨んでいるのである。

2 本件は、国家的不当労働行為としてあった国鉄分割・民営化の総仕上げをねらう「4党合意」による国鉄労働運動つぶしの大攻撃が、闘う闘争団など「4党合意」反対派を中心とするたたかう国労組合員の全力をあげた闘いによって、まさに粉砕されようとした時点で起こった弾圧である。政府・自民党の意を受けた警察・検察当局は、完全屈服をあからさまにし、四党合意の破綻の危機にあえいでいた国労本部派の協力を引き出し、戦前からの労働運動・農民運動にたいする鎮圧法であった「暴力行為等処罰に関する法律」を使って弾圧しようとしたものである。まさに、国鉄労働運動に対する違法・不当な介入であり政治弾圧であった。

3 警察のねらい

(1) 警察権力のねらいは、あくまで徹底抗戦をする「4党合意」反対派を、政府・自民党の意を受けて粉砕することで国鉄闘争を解体し、国鉄分割・民営化という国策を完遂することにあった。すでに第1部で述べたように、国鉄分割・民営化は、総評の中心組合である国労を解体することによって「総評解散−連合化」をはかり、労働運動を弱体化することにあった。今日の「小泉構造改革」に至る大量首切り攻撃の歴史的出発点はここにあり、また国会で審議されている有事立法に至る政治反動の歴史的出発点もここにあった。
 「4党合意」とは、首を切った政府・自民党が首を切られた国労に「JRに法的責任なし」を認めさせ、「国家的不当労働行為はなかった」「首切りは当然だった」としようとする大攻撃であった。国鉄分割・民営化の総仕上げをはかるこの「4党合意」による国鉄闘争つぶしが、まさに頓挫しようとしていたのである。政府・自民党、国家権力が大変な焦りと危機感をもったことは想像に難くない。なぜならそれは、「4党合意」に反対する国労をはじめ国鉄闘争を闘うすべての勢力の勝利を意味するからであり、国鉄分割・民営化を推進してきた政府・自民党の敗北を意味するからである。また「国鉄分割・民営化は成功した」というキャンペーンが「絵に描いた餅」にすぎないことを社会的にさらし、なによりも国鉄分割・民営化以来、押さえ込まれてきた闘う労働運動を勢いづけ、たたかいの高揚をつくりだすものになるからである。それゆえ焦りにかられた警察権力は、4か月も前の5・27臨時大会当日の事態に目をつけ、国労本部派の協力を利用し、あえて労働組合の団結の自治に介入し、逮捕・起訴する弾圧に出てきたのである。
(2)警察権力は、労働組合の組織運営や資本と労働組合の争いにむやみに介入してはならないという「団結権保障」「争議不介入」の原則である。これは、労働者の団結を犯罪視し、警察権力が労働運動を弾圧した戦前の反省から出ている考えであり、現憲法下の「労働基本権保障」の基本姿勢の現れである。
 5・27当日起こったことは、労働組合の路線をめぐる対立に起因している。すなわち労働組合の団結自治に関わる領域で起こった問題である。警察といえども労働運動や労働組合の自治に介入してはならないのである。
 しかも今回の弾圧では、「4党合意」に反対する組合員らだけが一方的に逮捕されている。
 「4党合意」は第一部でも触れたとおり、「国鉄分割・民営化」という国をあげた政策の総仕上げをはかるものであった。これの受け入れをめぐって国労内部に対立が生まれていたことは公然周知の事実である。当然のことであるが、この問題は最後的には国労自身で決めることである。それを政府・与党の政策たる「4党合意」に賛成する国労本部派のみに一方的に肩入れし、これに反対する組合員だけを意図的に逮捕したやり方は言語道断であり、今回の逮捕・起訴がいかに政治的な意図をもって行われた弾圧であるかを浮き彫りにするものである。
 また冒頭にも触れたとおり、5・27当日から4か月後の逮捕・起訴である。しかも当日は、現場に制服警察官と公安刑事も居たのである。要するに現場逮捕できなかったのである。すなわち事件にならない事件でしかなく、逮捕されるようなことは起こっていないのである。被告らが逮捕されたときは、すでに国家の政策である「4党合意」が破産してしまった段階である。この時点でこの弾圧が行われていることは、今回の弾圧が極めて政治的意図のもとに加えれ得た弾圧であることを浮き彫りにしている。
(3)また、先にも触れたとおり被告人らに対する取調は、連日早朝から深夜に及ぶ長時間であったが、いずれも本件の事実に関する取調はほとんどなく、もっぱら「国労の運動をやめろ」という屈服と転向強要に終始した点も政治的意図によるものといわなければならない。

4 国労本部のねらい

(1) 国労本部は、「4党合意」の破綻の原因が、最高裁での訴訟や鉄建公団訴訟などをたたかう闘争団など「4党合意」反対派の存在にあるとしてその処分を策したが、その策動はにっちもさっちもいかない状態に陥っていた。特に、5・27臨時大会から11月定期全国大会に至る過程は、「4党合意」の破産が露わになった過程であった。
 「4党合意」とは、国労の「政治解決路線」という解雇撤回闘争を和解で解決しようとする路線の行き着いた先である。だから「4党合意」の破産は、国労本部の「政治解決路線」そのものの破産でもあった。国労本部の「政治解決路線」とは、国鉄分割・民営化による解雇攻撃への撤回闘争を組合員の団結に依拠し、資本と闘うという労働運動の原点に立って闘おうするものではなく、政府・自民党に「解決」をお願いする「和解路線」である。そうした屈服性を政府・与党に見透かされ、次々と譲歩や屈服を重ねた挙げ句の果てが「4党合意」であった。だから「4党合意」の破産は、国労本部執行部のやってきた10年余の基本路線の破産と崩壊を意味していた。そのことを誰よりも知っている国労執行部は、このままでは自己と自己の勢力基盤の崩壊につながることを恐れ、一切の責任を闘う闘争団に転嫁するととに、闘う国労組合員をあえて警察に売り渡す、およそ労働組合幹部のすることではない前代未聞の暴挙に踏み出していったのである。
 国労本部による警察への組合員売り渡し行為は、国労本部が労働組合の団結自治を自ら破壊する労働組合の自殺行為である。本来、労働組合は、組合員を守るためのものである。従って同じ組合に所属する組合員を警察に売り渡す行為は、他の労組でも前例をみない。資本との闘いをとおして労働組合の団結を築きあげることが労働組合幹部の主要な仕事であるが、こうした行為は労働組合幹部としては絶対してはならない幹部失格行為であり、組合幹部が先頭になって団結を破壊する行為である。
 11月定期大会は、執行部の居座りを決め込む国労本部にたいして「執行部は責任をとって総退陣せよ」との声があがる中で開かれた。先にも触れたとおり、何がなんでも執行部への居座りをはかる国労本部は、すべての責任を開き直り、「4党合意」反対派に対する査問委員会の継続設置を決定しようとしていた。そのためには、「4党合意」反対派をあらかじめ弾圧し、力で押さえ込む必要があったのである。最初の弾圧が、11月定期大会にむけた代議員選挙の公示日である10月7日に強行されたことは決して偶然ではない。そのことは、取調にあたった刑事が「国労の選挙の立候補の当日に逮捕した。びっくりしただろう」と述べたことからも明らかである。なお、被告人原田、同橘の両氏は上記代議員の立候補予定者であった。
(2) そもそも、本件は、当時なんら事件とされていなかった。5月27日の当日は、110番通報を受けて現場に多数の警察官らが臨場し、現場を取り囲み、事態に介入した。しかし、現場では現行犯逮捕など1人も出ておらず、警察官らも事件として認識していなかった。ところが、国労本部派である東京地本の一部執行部は、6月3日にビデオテープを提出し、「被害届」や「事情聴取」に応じ、それが端緒になって本件弾圧が強行されたのである。
 国労本部もまた、自己の延命のために、当初事件としてまったく認識されていなかった5月27日当日の事態を利用し、警察の力を借りて「4党合意」反対派を押さえ込もうとしたのである。

第3 違法・不当な政治弾圧という本質を隠蔽するための過激派キャ ンペーン

1 「4党合意」以来の本件に至る経緯を素直に見るならば、前述のとおり、その違法・不当な政治弾圧という本件の本質は誰の目にも明らかである。そしてまた、本件当日の「東京グリーンホテル御茶ノ水」前で起こった事態が、労働組合の団結権の行使であり、組合自治として許される範囲のものであり、およそ刑事事件として訴追されるようなものでないことも明らかである。
 警察・検察は、そうした違法・不当な政治弾圧という本質を隠蔽し、みずからの不正義性を押し隠すために、「中核派による国労大会破壊」という過激派キャンペーンにやっきになっている。このことは、各被告人らの、勾留状の被疑事実に「中核派の活動家である」旨記載され、あるいは、検察官が「国労第69回臨時全国大会の開催阻止を目的とし、中核派が早朝中核派活動家25名を同大会参加者の宿泊先ホテル前に動員して組織的に敢行した大会参加者に対する暴力行為事案」「中核派による組織的犯行」(検察官の保釈求意見に対する回答等)などと繰り返し表明していること、また、本件と全く関係のない中核派の関係施設に家宅捜索を大々的に行っていること、同派の機関誌『前進』を大量に証拠請求するなどしていることから明らかである。

2 これは、「過激派の犯行」であるとさえ言えば、それだけで裁判官らが判断停止状態に陥ってただちに悪と決めつけ、事案の背景、よって来る経緯、行為の意味と目的について素直に直視しなくなるという効果をねらったものである。戦前の赤狩りにも似た労働運動弾圧の手法であり、その目的とするところは事件の核心である労働運動への介入と弾圧を押し隠すためのものである。
 また国労本部は、昨年11月11日に声明を発し、「5月27日に開催された、国労第69回臨時全国大会会場に向かおうとした準備地本本部や会場係りにたいして、革命的共産主義者同盟中核派(中核派と略す)が暴行を加えた5・27暴力事件で、同派の幹部や活動家が逮捕された」とか「逮捕された者の中には『国労組合員』もいるが、彼らは国労の指示・指令ではなく、中核派の活動家として暴力行為に加わったのであり、国鉄労働組合とは無関係である」「そもそも、自分たちの主張に沿わないからといって、全国大会開催や大会議事運営を暴力的に妨害し、ましてや今般の組合員を殴る、蹴る、首を絞める等の暴力行為が許されるものではない」などと、警察同様の言葉を使い、警察の一方的発表の内容だけで書いている。
 これは、逮捕された反対派組合員がまぎれもない国労組合員であること、当日の出来事が「4党合意」を推進する本部派と「4党合意」に反対する組合員との対立をめぐって起こった事態であることをことさら否定し、警察の言葉と警察情報だけを頼りに組合員の売り渡しを正当化する言語道断の声明である。労働組合の幹部たるものが自分の組合員を守ろうともせず、警察に売り渡すなど前代未聞である。国労本部は、もはや労働組合幹部としての資格を根本的なところで失った集団であると断じざるをえない。
 しかし、本件は、「中核派による組織的犯行」などと過激派キャンペーンに乗っかって見るわけにはいかない。これまでの公判で行われた被告人らの意見陳述が明らかにしたように、被告人らは、鉄道を愛し、仕事に誇りを持ち、長年にわたってまじめに働いてきた国鉄労働者である。そして、国労組合員であるがゆえに不当な差別を受け、あるいは解雇されたが、それでも国労を愛し、仲間を決して裏切らず、国労魂に燃えて今日まで必死に生き、たたかってきた生粋の国労組合員である。
 そして、本件の直接の背景である「4党合意」反対のたたかいは、ともにたたかう仲間と信じてきた国労が、こともあろうに政府・自民党の言いなりになってたたかいを裏切り、屈服して、自分たちを除名して切り捨てようとしたことに対する、腹の底からの怒り、労働者としての、人間としての誇りと尊厳をかけたたたかいであった。
 本件当日、被告人らは、ホテルから出てくる国労本部派の組合員に対して、たたかう仲間をどうして裏切るのか、どうして政府の言いなりになってたたかいを売り渡そうとするのか、目を覚ましてともにたたかおうではないかと必死に呼びかけたのである。それは、国鉄労働者としての、人間としての魂の叫びであったし、国労組合員として当然かつ正当な組合活動であった。
 裁判所においては、国労組合員としての当然かつ正当な組合活動であることを隠蔽するために行われている警察・検察およびそれに便乗した国労本部派の「過激派キャンペーン」に決して惑わされることなく、くもりのない眼で、本件の本質を見極めるよう切に望む次第である。

第4 まとめ

 本件逮捕・起訴は、「4党合意」が破綻する中で、あくまでそれにしがみつき屈服と裏切りを深めていた国労本部派が、11月定期大会を前にして「4党合意」反対派を力で押さえ込むため、国鉄労働運動つぶしをねらう政府・自民党の意を受けた警察・検察権力と一体となって強行した違法・不当な政治弾圧である。
 そのために、当初、事件として全く認識されていなかった5月27日の事態を口実として利用し、刑事事件としてでっち上げたのが本件である。