日本サッカーが積み重ねているもの

1999/11/28

Jリーグ 1999年の昇格/残留争いが終わりました。

まずはJ1昇格争いで、大分トリニティと FC東京の争い。
勝ち点でリードしていた大分は、1万5000人が応援に訪れた最終節、ロスタイムで追いつかれそのまま引き分け。同じく最終節で勝利した FC東京の逆転J1昇格というドラマが生まれました。
試合終了後、ピッチに座り込む大分の選手達。
一方の FC東京の選手とサポーターは、大分の試合結果が出るまでスタジアムで待ち、ピッチで一緒に喜びを分かち合いました。

ところが、J1残留争いではそれ以上のドラマが待っていたのです。
既にベルマーレ平塚のJ2降格は決まっていましたが、もう 1チームは最終節の結果次第ということになりました。同時刻キックオフのそれらの試合は、お互いの途中経過を気にしながらという緊迫した試合。
そしてその結果は、誰がシナリオを書いたのだろうというほどのものでした。
ジェフ市原、アビスパ福岡、浦和レッズが同勝ち点で並び、わずか得失点差 1で浦和レッズのJ2降格が決まったのです。

実は、浦和が延長戦を開始した時点で、すでにJ2降格が決まっていました。
既に結果を知っていた為、Vゴールを決めてもにこりともしなかった福田。涙を流すレッズの選手達。そして試合後、それでも 「We are REDS!」 とコールを続けるサポーター達。
(他チームのサポーターとしてはかける言葉も見つかりません……。)


こういったことは、Jリーグが出来る前にはなかった出来事でした。いえ、下位リーグ降格がなかったわけではありません。JSL 時代から上位リーグと下位リーグの入れ替えは行われています。
ただし過去のそれらは、当事者達と、ほんのわずかなサッカーファンだけの出来事だったのです。
しかし、今は違います。日本中のサッカーファン、または、せいぜい代表チームの試合しか見ないというような人達、あるいは今回の大分では、初めてのサッカー観戦だった人もいたでしょう。そういった多くの人達が、その動向を見守り、勝ち点 1や得点 1の重さを実感したのです。


これが、今、日本サッカーが積み重ねているもの、経験です。

他の具体的な例を挙げましょう。
ドーハの悲劇を思い出してみてください。
ワールドカップアメリカ大会予選、日本代表はロスタイムに追いつかれ、当時の悲願であった大会出場を逃してしまいました。「ロスタイムは危ない」「最後まで何が起こるかわからない」とわかっていたのに……。いえ、ほんとにわかっていたのでしょうか?

僕はあの時 “初めて” 「ロスタイムは危ない」「最後まで何が起こるかわからない」というのを知ったのだと思います。
この言い方に語弊があるならこう言い換えましょう。個人レベルではなく、日本サッカー全体の共有意識として “初めて” 知ったのだ、と。
サッカーファンだったらあのシーンを誰でも覚えています。あれを見ていた当時の中学生、高校生は、その後、同じような場面でプレーした時、あのシーンを思い出したはず。「最後まで何が起こるか分からない」、「ホイッスルが鳴るまで集中しなければならないのだ」 と。それは、言葉で知ってるのとは全然違うレベルのものに違いありません。

サッカー先進国と日本との差とは、技術や戦術だけではなく、いや、もしかしたらそれら以上に重要な差が、こういう部分ではないでしょうか? 間違いなくサッカー先進国の人々は、こういうシーンを既に何度も何度も経験しているのです。

もちろん、こうやって積み重ねているのは、そんな教訓のような話ばかりでもありません。アトランタ五輪のマイアミの奇跡や、そしてワールドカップ初出場、中田英寿の活躍などです。
それらを目にして育った世代、将来のJリーガーや日本代表選手が、同じような立場に立った時、これら日本サッカーの経験が “気後れ” しないよう後押しをしてくれるはずです。

それから、Jリーグにおいても様々な経験が積み重ねられています。
大型補強でいい選手を並べてみたものの結果が出ないチーム。
主力選手を放出したとたんに成績が振るわなくなるチーム。
監督交代でチームを立ち直すこと。
日本人に向いたサッカースタイルとは?
国際大会でのアウェーゲームをどう戦うか?
etc.

Jリーグが始まったことで、その注目度は以前と比べたら桁違いに大きなものになりました。過去に日本サッカーで同様の出来事があったとしても、それらが日本サッカーを支えている全体に伝わる大きさは今と昔では全く違います。
実際我々は、わずか勝ち点 1で大分の選手がピッチに座り込み、わずか得失点差 1で浦和の選手とサポーターが涙を流し、FC東京、ジェフ市原、アビスパ福岡の選手とサポーターが喜びを分かち合う姿を目にしました。過去であったら、スポーツニュースで取り上げられることのなかった出来事だったかもしれません。

勝ち点 1の重み、失ったゴール数 1の重み。
言葉としては誰だって知っているこの言葉。でも日本サッカー全体の共有意識として、本当にそれを知ったのは、もしかしたら今回の昇格/残留争いだったかもしれません。

日本サッカーはこれからもそういった経験を積み重ねて、一歩一歩前進していくのです。


サッカーとバスケットボール」 に 「サッカーの方が人生っぽい」 と書きました。
まさに今回の昇格/降格争いに、人生の悲喜こもごもを重ね合せて見ている人がいても不思議ではないですね。


(追記 :1999/12/06)

九州の一番長い日

大分トリニータがJ1昇格を逃した日のレポートです。
ここには、トリニータのフロントやサポーターが得た経験について書かれています。