アビスパ福岡の賭け

1999/12/03

1999年J1残留争いは最終節までもつれ込み、わずか得失点差 1で浦和レッズが降格するという劇的なドラマで幕を閉じました。そのことについては既に「日本サッカーが積み重ねているもの」に書きましたが、実はこの残留争いにはもう一つ、あまり報道されなかったドラマがありました。

このドラマの主役はアビスパ福岡です。

J1残留を争っていたのは、アビスパ福岡、浦和レッズ、ジェフ市原の 3チーム。同時刻に開始された最終節の 3試合はお互いの試合進行を気にしながらという緊迫したものとなりました。

試合開始前の 3チームの状況は以下。

    勝ち点   得失点差
アビスパ福岡   28   -16
浦和レッズ   26   -20
ジェフ市原   25   -16

最終節の対戦相手は、アビスパ福岡は強豪・横浜Fマリノス、浦和レッズがサンフレッチェ広島、ジェフ市原はガンバ大阪。
この対戦相手を見てアビスパ福岡がJ2降格の本命という声も多かったです。

さて、試合開始。
前半を終了した時点で、ジェフはガンバ大阪と 0-0、レッズは サンフレッチェ広島と 0-0 。
しかしアビスパ福岡は横浜Fマリノスに 0-1 でリードされ、さらに主力選手フェルナンドがレッドカード退場という絶体絶命の大ピンチ。
アビスパが本命という声は一気に現実味を帯びてきました。

後半も半ばを過ぎると、アビスパにとって事態はさらに悪化しました。ジェフが先制したのです。そしてアビスパが 2点目を失います。レッズは動きなし。
このまま試合が終わると、ジェフ残留が決定。降格はレッズかアビスパに絞られ、もし、レッズが 90分以内に勝てば、アビスパはこの試合で引き分け以上に持ち込まなければ降格です。

追いつめられたアビスパは、ここで思い切った “賭け” に出ます。
選手を代えて守備固めをしたのです。

お分かりでしょうか?
残り時間十数分という条件下で、
「10人で戦う自分達が横浜Fマリノスから 2点を取り追いつくこと」
「レッズが得点できずに延長に入ること」
この 2つを天秤に賭け、後者の確率の方が高いと判断したのです。

仮にアビスパが 10人で点を取りに行くと、それは失点の危険を伴います。アビスパはレッズが延長に入り、最終的に得失点差の争いになると読んだのです。

アビスパの“賭け”は当たりました。
レッズは 90分間で勝利を収めることができず、そのまま 0-2 で敗れたアビスパと勝ち点で並び、得失点差でアビスパのJ1残留が決まりました。

これが最終結果です。

    勝ち点   得失点差
ジェフ市原   28   -15
アビスパ福岡   28   -18
浦和レッズ   28   -19

仮にアビスパがむやみに点を取りにいき、逆にもし、横浜Fマリノスにもう 2点取られていたら、アビスパが得失点差でレッズを下回り、J2降格だったのです。

このアビスパの“賭け”は、たまたま、そうせざるを得なかっただけかもしれません。
それでも、明確に「守備を固めろ」というベンチの指示がなければどうなっていたことか……。


さて、ここで少し考えてみたいのはサッカーの見方について。
「負けている試合で、守備的な戦術をとる。」 普通に考えたら許されるはずがありません。しかし、上記のケースでそれを否定できますか?

サッカーは、プロ野球やアメリカ4大スポーツのように、最初からドラフトなどでチーム力が均衡するようにつくられているスポーツとは違うのです。常に互角の好ゲームではありません。がちがちに守備を固めて引き分けを狙ったり、このアビスパのケースのように失点を減らす戦術が必要なケースがあるのです。
守備的な戦い方をしたからというだけで、それを非難するのはあまりに短絡過ぎます。

サッカーに、逆転ホームランや逆転3ポイントシュートがないことを挙げ、劇的さに欠けるという人がいます。
その代わりサッカーには、勝ちに行く試合、引き分けを狙う試合、失点を少なく抑える試合、奥の深い、様々な戦い方があるのです。「サッカーというスポーツの不思議な特徴」 に書きましたが、サッカーだけがほとんど唯一「守備的な戦術」をとることができるスポーツなのですから。

そして、サポーターであるならば、チームの置かれている状態、対戦相手など、それらを理解して応援したいものです。