サッカーマンガの成長

2008/11/29

過去に書いた 「サッカーマンガについての考察」 、「サッカーマンガの不幸」 の、その後のお話です。
(「
マンガに関する雑記 (2003年春編)」 でもサッカーマンガ 「ORANGE」 について書いています。)

サッカーを囲む環境も、一昔前とは随分と変わりました。Jリーグや日本代表人気も一段落。よくある黎明期からのブームは終わりました。
そんな中でサッカーマンガにおける新しい要素が見えてきたようなのでその紹介をしようと思います。

その前に簡単なおさらい。
過去に書いてきたことをまとめると、サッカーマンガの特色としては次のようなことが言えると思います。

まずサッカーマンガが、他のスポーツのマンガに比べて不利な点。

・シーケンシャルにイベントが並ぶ種類のスポーツ (代表的なのが野球や格闘技。具体的に説明すると、投げた、打った、走った、取った、などイベントが並ぶような特性の種目で、それをコマに並べることで表現しやすく、マンガとの親和性が高いと思われる) に比べると、サッカーはマンガというメディアでは表現しにくい。
・特にクライマックスになるかもしれない試合終盤の表現については、残り時間が明確なスポーツ (バスケットボールなど。例えばスラムダンクでは残り時間とプレイを並べるということで表現ができた) に比べると、サッカーはロスタイム時間の表現が難しい。
・本物の劇的さに敵わないことがしばしばある。(W杯出場や、Jリーグ昇格降格、クラブの消滅危機など、人生の岐路レベルの物語に比べると見劣りしてしまう。それなのに、劇的な話を作ると今度は嘘臭くなってしまう。)

一方、他のスポーツマンガに対して有利かもしれない点。

・現実のサッカーの世界において舞台に多様性がある。(学校-クラブ、クラブチーム-代表チーム、リーグ戦-カップ戦、等。)
・サポーターを描くことができる。


さて、ここではそのサポーターが描かれる話をしたいと思います。

今まで数あるスポーツがマンガとして描かれましたが、それらにおいて試合を応援する人を描く場合は、その場限りの説明用のキャラクターか、それ以外の場合はほぼ間違いなくプレーする登場人物と個人的なつながりがある人達です。恋人であったり、家族であったり、クラスメイトであったり。それらのキャラクターはそういった関係性で試合以外の場面でも物語に登場します。

ところが、「
マンガに関する雑記 (2003年春編)」 において書いたように、サッカーマンガ 「ORANGE」 では、選手とは無関係のサポーターの物語が描かれます。そのサポーターのリーダーが明確にキャラクターとして存在し、彼の “想い” が描かれます。しかし彼と選手とは直接の関係はありません。また、サポーター同士の分裂であったり、他チームのサポーターのやりとりなども描かれます。そういったことが描かれるのは、このマンガがサッカーを描くだけでなくサッカーに関わる世界全体を描いているから。おそらく世の中のスポーツマンガにおいて、そういった世界が描かれているケースはサッカーだけでしょう。


そして、現在連載中のサッカーマンガでもそういう世界を扱ったものがあります。

週間モーニング連載中の 「
GIANT KILLING」 がそれです。このマンガは、主人公が監督であるということがまず目を引きます。もちろんそれも非常に面白いネタで、お話自体も面白くてお気に入りの作品です。しかし、それとは別にこの作品で一番ピンときたのは、“サポーターの世代交代” を描いていることです。

GIANT KILLING」 に出てくるチーム、ETU(East Tokyo United) は J1 から J2 へ降格し、再び J1 に上がって来たチーム。その間に、サポーターが世代交代をしており、現行の主力サポーターと、昔の復帰組のサポーターが対立する、という場面があるのです。

この話にピンと来たのは、そういったことが現実の世界にあることだから。正確に言うと、現実の世界に “起こり始めたばかり” のことだから。
Jリーグが出来て十数年。かつて主力だったサポーターが、さまざまな事情で当時のような応援ができなくなっているケースがあるのは珍しいことではありません。就職や結婚、子供が生まれたこと、そういった生活の変化から自分にとっての優先順位が変わり、同じことが続けられなくなることがあるのは当然です。そういった事実がマンガの世界に反映されたのです。

すなわちこれは、“サッカーマンガが日本のサッカー界に合わせて成長した” ということなのです。

おそらくこれからもサッカーマンガは日本サッカー界の状況に合わせて成長していきます。そしてずっと先の将来、サッカーマンガを歴史的に見直すことで、日本サッカー界の歴史を語ることができるようになるでしょう。


もちろんマンガの中身が成長というのは、サッカーだけの話に限るわけではありません。

野球だったら
ツーシーム のような新しい球種が出てくるようになっているでしょう。
ゴルフなどの用具の進化や制限もマンガに反映されるでよう。
ルール変更もそう。スラムダンクなどは逆にケースとも言えて 「このマンガは○○年のルールで書かれています」 という注釈があったはずです。

とはいえ、やはりサッカーにおいてはとりまく世界の変化までも含んでいるというのが、他のスポーツマンガとは少し違うように思います。