ワールドカップ展望 〜ジーコのチーム〜

2006/06/10

いよいよワールドカップが始まりました。ここではワールドカップにおける日本代表の展望を、ジーコのチームの特徴に絡めて書いてみようと思います。

ジーコについては過去に 「
ジーコ・サッカーが嫌いな理由(わけ)」 を書きました。考えはそれと変わっていないです。まあ、結果的にW杯アジア最終予選を首位で勝ち抜いたということに関しては評価をするべきでしょう。しかし、基本的なジーコの監督としてのチーム作りの特色はあれから変わったわけではありません。

ジーコのチーム作りの特徴は、簡単に言えば放任と考えてよいです。やっているのは選手をセレクトして並べるだけ。その結果、何が起きるか?
ベストに近いメンバーで時間をかけてチームを固めると、選手はその中で自分達に適した連携を作り上げていくので素晴らしい組織的なプレーができるようになります。ただし、選手を入れ替えたとたんにそれは崩壊します。基本的な約束事がないのでチーム作りが一からやり直しになるのです。選手は試合中に試行錯誤するようなプレーをしてしまい、当然のように酷い試合になります。
また、そういうチームの作り方をするのでメンバーに代えがきかなくなります。選手個々のプレースタイルが尊重されるため、上手くいく組み合わせを試行錯誤し、それが見つかればいいチームができます。そうでないメンバーの組み合わせは酷い試合になってしまいます。たまたま上手くいった組み合わせだけがジーコの持つ手札になります。

チームをきっちり固めて戦った結果というのが、アジアカップの優勝や、コンフェデレーションズカップの善戦です。これら比較的試合数の多い大会では、合宿中の練習を通じて選手らが自分達で戦術を考えて連携を固めることができます。
上手くいかないのが単発の親善試合や、シーズン中に選手が集まって行うW杯予選の試合などです。これらは選手らが連携を作る時間が足りなかったことが原因で、随分酷い試合をしてしまいました。


すでに書いている通りですが、個人的にはこういったジーコのチーム作りは支持しません。もっと基本的な戦術を監督が指示して決めるべきです。何も一から十まで監督が決めろというわけではありません。ほんとに基本となる約束事を決めるだけで、チームの作りの最初にかかる時間は大幅に短縮できるはずですし、召集されたばかりの選手であっても試行錯誤せずにチームに馴染めるはず。
例えば何度か報道された 「中田と宮本がプレスの位置で意見が違った」 などの話は、本来は監督が決めるべき問題です。まずそれでやってみてうまくいかなかったら選手らが考えて変更すればよい事。最初の形を作るまでにひとつ余計なプロセスを経ることで貴重な親善試合などを無駄にしているのです。結果的には、たまたま長期の合宿などで選手らが話し合いが出来たの上手くいったというだけの話で、W杯最終予選のように単発で試合をしなければいけない場合、選手らが意思統一できないまま本番に臨んでしまうという致命傷になりかねない問題なのです。

ただし、すでに前提となる状況は変わりました。充分な合宿を持つことができるW杯本番がやってきたのです。その上でのジーコのチーム作りを考えるとこういう判断ができるでしょう。“ベストメンバーが出場できるなら、日本代表は選手達が自分自身で考えた、自分達に最も合ったスタイルのサッカーを行い、最高のゲームをするはず”。心配なのはベストメンバーにならなかった時や、要となる中心選手が出場できない場合です。
幸いなことに先発決定や選手交代については、ジーコは選手が作ったコンビネーションを壊すような思いつきの選手起用はなさそうです。


それを踏まえて具体的にW杯グループリーグF組の展望を予想してみます。
ブラジルという自他共に認める優勝候補がグループリーグ内で突出した力を持つことは皆さんご存知の通り。本来は 4チーム中2チーム抜けですが、実質的には、日本、オーストラリア、クロアチアの 3チーム中1位になるかどうかの戦いです。では実力はどうか?という話をしても、結局この 3チーム程度の実力差だと、差があったとしても一発勝負でどうなるかはわかりません。実力がどうかというよりは、実力を出し切れるかどうかの方が大事でしょう。
日本対ブラジルの試合は三戦目。怪我や出場停止選手がいる確率の低い、初戦と二戦目で、オーストラリア、クロアチアと対戦できます。上記の特徴から考えても日本はそれらの試合で実力を発揮できる可能性が高いです。もちろん実力が発揮できるからといって予選突破ともいえないわけですが、日本が実力を発揮した過去のゲームを見ると、世界トップレベルと結構いい勝負をしています。少なくともオーストラリアに対しては優位に試合を展開できるのではないかと考えます。

さらに、日本代表にとって追い風が吹いてきました。気温です。数日前まで歴史的な寒波と言っていたのに、開幕した途端に気温が上がりました。実はこれ、かなりの追い風です。
8年前のフランス大会、僕は
日本対クロアチアの試合を観にいきました。その試合、明らかにクロアチアの方がバテていました。そうです、冬のシーズンを行う欧州勢は暑さに弱いと思うのです。一方、高温多湿の日本、しかもJリーグでは真夏のナイトゲームまでやっている日本人は、彼らに比べると暑さに強いのです。この話、あまり語られたことがないのですが、先日トーチュウにおいて名波浩がクロアチア戦の展望で全く同じコメントをしていました。彼は 8年前にそれを肌で感じていたはず。
順当にいけば、初戦にブラジル相手に勝ち点が取れていないクロアチアは、日本相手に攻めてきます。どちらかというときっちり守られると攻めきれない日本にとっては願ってもない展開になるかも。それに加えて気温が上がるようだとこれまた有利です。

そういったことから考えてみると、日本代表がグループリーグを突破する可能性は50%以上あると思っています。

最後にもうひとつだけ。
この 4年を通じてわかったこと。“ジーコはとてつもなく運を持っている”。アジアカップも、W杯アジア予選も、苦しいところを何度も切り抜けて結果をモノにしてきました。実は勝負事にとってこれはとっても大きな要素かも。


正直、今大会は密かに期待しています。


ひとつ気になるのは、オーストラリア戦で、日本は 3バックで対戦することになりそうなこと。ほんとは 1トップに対しては 4バックの方がマークしやすいんだけど。自分達のベストを信じる、ということかな。

(追記 06/06/11)
少し書き足りないと思ったことを追加します。
ジーコは放任主義と書きましたが、W杯直前合宿ではこれまでにない指導をした、という報道がいくつか流れましたね。前にも書きましたが、ジーコがもう一度監督をやるなら、その時は今回とは多少違ったチーム作りをするかもしれませんね。
また、放任に近いことが駄目というわけでもないですね。例えばブラジルの監督なら問題ないと思います。というのは約束事がなくても連携プレーができるから。
サッカーの攻撃は、信頼関係に基づくプレーが多いわけです。例えば、ロナウジーニョが攻撃時にボールを持ったときどうなるか。その場合、他の選手は信用してオーバーラップできるわけです。「こいつはボールを失わないで、必ずパスを出してくれる」 と。ところがあまり技術のない選手がボールを持ったときはどうでしょう。ボールを失ってカウンターを受けるのが怖くてオーバーラップできません。それでなくても元々個人の打開力の差があるのに、さらに組織的な攻撃力の差が出てしまいます。結果は見えています。ブラジルと同じ方法でやったら、絶対ブラジルに勝つことはないのです。
だからそこに攻撃やカバーリングの約束事を作って、思い切って攻撃参加ができたりするわけです。技術的に劣るチームほどそれをやらなければ絶対に技術的に上のチームには勝てません。
ここで幸いなことに、日本人は民族的に協調性がある方なのです。(反面、強引な FW が生まれない土壌でもあります。) そのおかげで今大会の場合などは、中田や宮本が中心になって選手らが話し合えば、組織的な約束事は作ることができます。これは日本サッカーが持つ一番大きな長所なのかも。今後、技術が上がってもその長所を失わなければ、もしかしたら我々が思っているよりもっと上を狙うことができるかもしれません。