WBC雑感 (後編)

2006/04/02

前編からの続きです。

WBC の最終結果は日本の優勝という (それなりに国際野球の知識がある人は) 誰も予想していなかった結果となりました。それで、本来なら “予想していなかった” というのは “番狂わせ” ということになるんですが、終わった後で振り返ってみると丸っきりのまぐれというわけではなく、安定した投手力を最大の要因として日本の優勝にも妥当性があったように思います。
そういったことも含めて、大会全体を通しての雑感を書いてみます。

全てをなめていたアメリカ
この第一回の WBC の、内容から結果までを決めてしまったのは “全てをなめていたアメリカ” に尽きると思います。

まずは大会のシステム自体が他国関係者をなめたものでした。どうせ優勝はアメリカ。世界一を決める決勝戦で当たる相手がメジャー選手を多く含むドミニカやプエルトリコになるように計画されたシステム。アメリカは決勝まではアジアの国などを軽くあしらって調整すればいいということです。
そういえば、日程なども日本の反対などをまるっきり無視して決められたものでした。
それから、今大会が話題を集めたひとつの要因となった審判の問題。トップレベルの審判を起用することもできないし、自国の審判にその試合を担当させるなど、国際試合の常識からかけ離れた運営。国際大会はこうあるべき、という発想をもっていないままに実施したのでしょう。国際大会をなめているといえます。

そして、相手チームをなめていました。最終的にアメリカは、一次リーグでカナダに、二次リーグで韓国とメキシコに敗れました。日本とも負けてもおかしくなかった互角の試合展開。これも他国をなめていたことが最大の要因です。
ここで確認しておきたいことがひとつ。今回の成績がそうだったからと言って、アメリカの実力がそれらのチームに劣るとは思いません。調整やモチベーションなどで劣ったことが敗因です。全てのチームが全く同じレベルの調整とモチベーションを持っていれば、一番優勝に近いのはアメリカです。しかし、調整やモチベーションはきわめて重要なものだからこそ、もし時計を巻き戻してもういちど WBC の初戦から始めたとしても、やはりアメリカは敗れた可能性が高いだろうと思います。

短期決戦の戦い方
さて、確かにアメリカが相手チームをなめていたことが大きな要因となったとは思うのですが、最終的な日本優勝、キューバ準優勝、という結果にはそれなりの理由があるようにも思います。特にキューバが、ベネズエラ、プエルトルコ、ベネズエラといった強豪国の揃った二次リーグを勝ち残った要因がそれです。それは投手を中心とする守備力、そしてスモールベースボール。これこそが短期決戦で勝ち残るために必要なものでした。単に投手力があるだけでは駄目です。投手が奮闘してもひとつの失策が致命傷となりますし、守備力がピンチを救うことがあります。そしてキューバは (王監督が決勝の前に、「キューバは我々のやるような野球をしている」 とコメントしたように) 4番バッターが送りバントをするような野球をやっていました。それらが短期決戦を勝ち抜く秘訣です。
そのことをどこよりも知っているのがキューバでした。なぜなら彼らは常に短期決戦の中で戦ってきたからです。五輪で金メダルを取ることを宿命付けられたキューバは、おそらく代表選手の選考から戦い方、選手育成の内容まで、全て短期決戦で取りこぼしをしない野球がその目指すスタイルになっているはずです。
そういうことからも、もし時計を巻き戻してもういちど WBC をやっても、やはりキューバが上位に勝ち残る可能性は高かったと思います。

日本の強さと甘さ
さて、日本チームについて。
確かに優勝は素晴らしいです。しかもそれはまぐれではなく、しっかりした投手力に基づく根拠のあるものだと思います。特に先発投手陣の安定は、世界一を呼び込んだ要因です。
しかし、メキシコがアメリカに勝利しなければ二次リーグ敗退していたわけです。そう考えると日本代表の評価は、実は難しい問題です。

対韓国の連敗は批判されても当然でしょう。これ、内容的には上記のアメリカの話と同じです。同じ調整、同じモチベーションでやれば韓国より日本の方が強いと考えます。事実、負けた二試合の試合内容も韓国のメジャー級を揃えた投手陣に苦しめられたとはいえ、あとタイムリー一本が出ていれば勝っていたという内容。ただし、その調整やモチベーションが韓国に比べると万全でなかっただろうと思われ、それはもう一度時計を巻き戻しても、やはり負けていた可能性は否定できません。
そしてこれについては、アテネ五輪と同じことを繰り返したということも指摘しておきたいです。予選リーグでオーストラリアに敗れた時、野球解説者は 「100回やれば99回勝てるのに、たまたま負ける1回が来た」 と言いました。ところが、準決勝で再びオーストラリアに敗れてしまいました。
今回一次リーグで韓国に負けた時も、多くの人が 「たまたま負けた」 と思ったはずです。アメリカが他国をなめていたように、日本も韓国をなめていました。それはアテネで経験していたのに、それから進歩がなかったのです。
(しかし、最終的にはほんとの大一番であった準決勝での快勝したことは、逆に評価すべきことです。)

内容として批判のネタはまだあります。看板だったスモールベースボールなのに、現実にはバント失敗が非常に多かったこと。調子の悪いクリーンナップのまま戦い続け、二次リーグ敗退であってもおかしくなかったこと。
ここで問題提起したいのは、もし日本が二次リーグで敗退していた場合に、それらの問題のネタを (ファンを含めた) 日本野球界が本気で批判したであろうか、ということです。サッカーのワールドカップの予選や本選、日本代表の選手や監督への批判をご存知でしょう。フランス大会予選不通過の可能性が出た時に日本代表のバスには生卵が投げられ、そのフランス大会で 3戦全敗して帰国した日本代表FW の城は成田空港で水をかけられました。そこまでやるのが良いということではありませんが、もし日本代表が二次リーグで敗退して帰国していた時に、王監督は批判されたでしょうか?
本当に高いレベルを目指すのであれば、そういう批判があるのが当然です。しかし、おそらく日本野球界が (特に各種メディア上は) 王監督を表立って批判することはなかったでしょう。それはすなわち、日本もアメリカ同様、WBCをなめていて、本気ではないということです。
言い換えると、代表監督が王監督であろうと本気で批判されるような大会になった時に、WBC はほんとうに世界一を決める大会と言えるでしょう。

王監督の采配
その王監督への采配批判の話ですが、準決勝ではその評価を取り戻しました。
先発から不調だった福留を外してイチローを 3番に起用。そしてその福留の代打起用が大成功。これは、アンダースローの相手ピッチャーとの福留のスイングの軌道が合うという自分の勘を信じたもので、勘とはいえ根拠のあるものですから評価していいのではないかと思います。
もしかしたら準決勝は出場できなかったかもしれないわけで、その場合は福岡ソフトバンクにおける 2年連続プレーオフ敗退からも、“短期決戦向きでない監督” という烙印が推されても仕方がないところでした。ところが幸運による準決勝進出から、好采配で優勝。何事にも流れというものがあり、その時転がってきたチャンスをものにするかどうか、それが運命の分かれ道です。今年ソフトバンクで優勝するようなことがあると、名監督の仲間入りをするかもしれません。

プロ野球への影響
さて、WBC が日本に与える影響ですが、間違いなく短期的には好影響になります。野球の面白さを知った人もいるでしょうし、世界一に誇りを持って野球を志す子供も増えるでしょう。しかし、手放しで喜べるかというと、逆に課された課題が出来たとも言えると思います。
危険性として、まずはメジャーへの選手流出に拍車がかかる可能性があります。元々、上原、松坂といったメジャー志向の選手は数年後のメジャーへ行っていたでしょうが、日本人投手の質の良さは明白なものになりました。それ以外の選手へのメジャーの道も大きく開きました。
それからあの試合の緊張感は、正直なところ日本のプロ野球のレギュラーシーズンにはないものです。もしかしたら増えるのはサッカーにも多い “代表の試合だけ観る” という “代表チームファン” だけになってしまうかもしれません。
“世界の中の日本の野球” への好奇心から、パンドラの箱を開けてしまった、という可能性もなくはないです。