山本ジュビロと大熊 U20
2005/06/26
本当は山本ジュビロについてだけ、話を書くつもりでした。そんな中で見たのが大熊 U20日本代表が参加したワールドユース大会。
どうやらこれらはひとつの話であることに気がつきました。
最初に 「あれ?」 と思ったのは、アテネオリンピック予選の前に行われていたいくつかの壮行試合を見た時でした。何を 「あれ?」 と思ったかというと、山本監督が率いる五輪代表の最終ラインからのボールの組み立て方が、ジュビロとは全く異なるものだったことです。
僕は自分自身それほどサッカーの戦術眼などがあるとは思っていませんが、ジュビロのサッカーはJリーグ昇格前からずっと見続けているので、ジュビロがどういうサッカーをするのかということだけはわかります。正確にいうとジュビロのサッカーと似ているか似ていないか、だけがわかるのです。Jリーグや各国代表など他のチームをみていると 「ジュビロだったらここに人がいてそこにパス出すはずなのに 」 などとイライラします。
これは幸いにも、ジュロは監督が変わってもそれらのボールの回し方にほとんど変化がないお陰でもあります。選手間の距離、ボール受ける為のポジショニング、ボールを持ったときの判断 (自陣からドリブルすることはまずないこと) 、など、これらはチームの約束事として全ジュビロコーチングスタッフによってユースレベルから叩き込まれているに違いありません。
そんな中でジュビロスタッフが監督になった山本監督の五輪代表ですから、当然ジュビロのサッカーに似たものをやるのだと思っていました。ところがちょっと違うみたいです。その時は 「ふむふむ、寄せ集めの急造チームだとそう簡単にはいかないのだろうな。」 そう思っていました。
しかし、五輪予選、五輪本選となっても山本監督はジュビロのようなサッカーはしませんでした。その時になって 「もしかして山本監督の目指すサッカーはジュビロが今まで積み上げてきたものとは違うのかも?」 と思ったことを覚えています。
そしてついに昨年終盤から山本監督がジュビロの監督に就任。基本的には昨年終盤は今までのジュビロのサッカー。ところが今年の開幕を迎えたジュビロのサッカーは、昨年までとは全然違うサッカーをしていました。とにかく目立つのが最終ラインからのロングパス。山本監督が補強した FW崔をターゲットとするロングパスです。どうやら以前から山本監督が口にしていた 『15秒でシュートまで持っていく』 というサッカーの実現の手段がこのロングパスらしいです。
しかし、その結果起きたことは中盤の間延びでした。ターゲットに当てたボールがこぼれても味方選手は誰も拾うことができずすぐに相手ボールになってしまいます。それから中盤でのプレスが全くかからなくなりました。中盤で支配力がチームの長所だったジュビロは完全にそのスタイルを失ってしまいます。かといって15秒でシュートまで持っていくシーンが作れたかというと、ロングパスの精度が悪く自分達のボールになりません。ほとんど速い攻撃などできませんでした。
自分達の最大の長所を失ってしまったジュビロの成績は完全に低迷しました。開幕戦のミスジャッジによる幸運な勝利以外は全く勝ち星をあげることが出来ませんでした。山本監督もうまくいかないことがわかったのでしょう。4月中盤のあるゲームでは敗れた試合後、選手のゴール裏への挨拶の場に来て謝るような仕草を見せました。それがきっかけかどうかはわかりませんが、ちょうどその時期に主力選手に怪我人が多く出たこともあり、主力のほとんどが昨年まで在籍していたメンバーに戻り、最終ラインからのロングパスも消えました。そしてチームは立ち直り成績も上位まで上がってきました。
さて、Jリーグが中断に入り、ワールドカップ予選、コンフェデレーションズカップなどと一緒に行われたのがワールドユース。大熊監督率いる U20(20歳以下)日本代表が参加する大会です。そのユース代表が見せたサッカーは、今シーズン山本監督がジュビロで見せたサッカーにとても似ているものでした。大型FW平山をターゲットに最終ラインからロングパスを当てるというサッカー。確かに平山は相手DFに競り勝ってチャンスをつくることもありました。しかし、そのほとんどは最終ラインからのパス精度が悪くそのまま相手選手に渡るばかり。結局ユース代表は1勝も出来ずに大会を去りました。
これらを見て気がつきました。「最終ラインからFWまでロングパスを通して起点を作り、15秒までシュートまで持ち込む。」 これは山本監督や大熊監督が個人的にやっているのではなく、現在の日本サッカー強化部門が目指しているサッカーなのです。彼らが世界レベルで勝っていくにはこれが必要だと判断をしたのでしょう。
しかしながら、このロングボールで起点を作るサッカーについて、ジュビロでもユース代表でも成功しているとは思えません。その原因は大きくふたつあると思います。
ひとつはそもそも最終ラインからのロングパスの精度が悪いこと。これで思い出したのがドゥンガの言葉です。元ブラジル代表キャプテンでかつてジュビロに在籍していたドゥンガは当時のこんなことを言っていたはず。『どうしてショートパスが正しく出せない選手がロングパスを練習するのか?』 この言葉の意味は 「基本ができていない選手がどうして応用練習をするのか」 という指摘ですが、文字通りショートパスが正確に出せない日本の選手がロングパスを攻撃の軸にすること自体間違っている、と言えないでしょうか。
もうひとつの問題の原因は中盤が間延びすることです。ロングパスへ追い付くほど人間には走力はありません。間延びした中盤で起きることは、それはこれまで日本サッカーが目指していたコンパクトなサッカーができないことです。今までは中盤がコンパクトなサッカーを目指していたはず。それを放棄するのでしょうか?
名古屋グランパスユースアカデミーU−18監督 神戸清雄 が中日スポーツのコラムでこんな文章を書いていました。
『 特に世界ユースに出場中のU−20日本代表を見ていると、これでいいのかと感じてしまう。長身のFW平山に向けてロングボールを放り込むサッカーをしているが、世界に出れば背が高くて身体能力の高い選手がたくさんいる。だからこそ日本はつなぐサッカーを目指すべきだし、その方向性を誤ってはいけないのではないか。 』
全く同感です。
ロングパスをひとつの重要な攻撃オプションにすること自体は悪いことではありません。むしろ望ましいといっていいでしょう。しかし、その為に他の長所を犠牲にしていはいけません。
最初に書いた山本監督の率いる五輪代表について 「あれ?」 と思った最終ラインからの組み立ては、今シーズン開幕直後のジュビロでも同じでした。僕が見慣れていたジュビロの最終ラインの選手間の距離、ポジショニング、ボールを回す判断、それらジュビロの長所は完全に消えていました。これは3バックのうち2人を山本監督が選んだ新加入選手だったことが大きいのでしょう。彼らはジュビロのボール回しを知らないのだから当たり前です。しかしこれは明らかにロングパスを主体とするあまり、従来のジュビロのボール回しを軽視した結果、監督の方針によって出てきた結果です。
僕はこのやり方は絶対に間違いだと思います。するべきことは従来の長所を残したまま、新しいオプションとしてロングボールを使った攻撃を手に入れることなのです。
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