“質問します” に回答してみる

2005/12/18

東京中日スポーツにはセブンアイという有識者(?) による日替わりのコラムのコーナーがあります。
12月14日は慶大名誉教授の神谷不二氏によるものでした。全文引用します。


質問します
サッカー・オンチの気味がある私は、ときどき首をかしげる。サッカーのサポーターたちは、なぜ、いろんな情報を十分承知しないままあの熱狂的な声援を送ってるのだろうか。
そもそも、野球はじめ大方のスポーツが 「ファン」 と言うのに、サッカーだけがなぜ 「サポーター」 なのか。だが、それにこだわっていると話が進まないので、ここはひとまずパスしよう。
さて、オンチがぼんやりしている中に、日本のプロサッカーチーム数はいつの間にかJ1、J2合わせて三十を越している。野球が久しく二リーグ十二球団で固定しているのとは、たいへんな違いだ。サッカーのチームはなぜそんなにたやすく作られるのか。
野球には、プロの温床というべき社会人、大学、高校などのチームがたくさんある。それに比べるとプロサッカーの温床はそれほど多くないような感じだが、それは私がしらないだけなのだろうか。
サッカーのチームが急増する一つの原因は、プレーヤーの給料がプロ野球に比べてかなり低いことにもあると思われる。それにしても、一流にしろ三流にしろ、サッカー選手の契約金とか給料がスポーツ新聞にさえほとんど書かれないのは、なぜか。野球が億から百万まで詳しく書かれるのとは大差である。
野球の球団にはオーナー、社長、球団代表など経営幹部が揃っているけど、サッカーチームは誰と誰が経営責任者なのかはっきりしない。これも不思議だ。
現場の責任者にしても、野球には投打走などの部門別にコーチが置かれている。サッカーの場合は、しかし、コーチの人数や分担もはっきりしないみたいだ
。』


まあ突っ込みどころ一杯な文章なわけですが、それよりもこういった文章が堂々と載せられること自体が重要な資料といえるでしょう。すなわち世間一般の知識はこんなものなのです。ですから、一般の方にこのように思われていても良いならこれで構いませんが、もし
Jリーグ日本サッカー協会がそう思われるのが不満なら、もっと啓蒙活動、宣伝活動をしなければいけない、ということです。


さて、折角ですのでそれらの質問に回答してみましょう。

サッカーだけがなぜ 「サポーター」 なのか?
基本的には “それほど深い意味はない” と回答しましょう。ファンという言葉と大差はありません。しかし、多少は補足したいことがあります。
まず、サッカーだけが特別というのは間違い。今年開幕した
bjリーグでは 「ブースター」 という言葉を提案しました。チームに対してブーストする、すなわち、推進する、などの意味でしょう。つまりこれは、bjリーグ側が観客にそれを求めた、という意図があるわけです。
サポーターについても同じことが言えます。それまでのファンよりも、サポート、すなわち、支援する、助ける、という意図を多く含んでいるのです。実際のところ、それは名前だけというわけでもありません。例えば
コンサドーレ札幌の筆頭株主はサポーターの持ち株会だったはず。また、チーム存続の危機ともなればサポーターが募金活動をするのは珍しくありません。プロ野球などでは、ファンが経営や運営にまで関わることは比較的少ないのではないでしょうか。そういった傾向の違いが、サッカーにおいてはサポーターという言葉が使われる理由でもあります。

サッカーのチーム数が多い理由、たやすく作られる理由は
全国津々浦々にサッカーチームを作ることが
Jリーグのコンセプトだからです。(「プロ野球のシステム、Jリーグのシステム」 参照のこと。) Jリーグがコンセプト通り順調に進んでいるので、チーム数が多くなりました。これからも多くなるでしょう。
プロ野球のコンセプトにはチーム数を増やすことはありませんから、チーム数が増える見込みは小さいでしょう。

プロ野球の方がプロの温床が多いのでは?
この認識についてはちょっと理解に苦しみます。少なくとも中学や高校などにおける競技人口で野球だけが突出して人数が多くはないはずです。社会人だってそうです。サッカーだって実業団リーグが存在していますし、プロ・アマチュア混在の大会である天皇杯には 6000チーム以上の参加があります。
付け加えるならば、必ず下部組織を持つことを義務付け、育成システムを構築しているのは
Jリーグの方です。この分野の話に関しては、人材育成をアマチュアの任せっ切りのプロ野球が自慢できるような話はないです。

サッカー選手の給料は安い。報道されないのはなぜ?
サッカー選手の給料が安いという情報だけは、正しい情報です。他の内容のいい加減さを考えると、おそらくこの点だけ誰かに聞いた話なんでしょう。
さて、この事に関しては単純にプロ野球の方が興行的価値が高いから選手の給料も高い、ということです。球団経営が赤字の状況で選手の年俸が高すぎるのでは?という批判の声もありますが、親会社に補填してもらってでも支払う価値があるということですから、問題ではありません。
プロ野球選手に比べてサッカー選手の年俸が報道されない、というのも事実です。この理由は上記と同じくプロ野球選手の年俸の方が報道する価値が高いからです。しかしながら、サッカー選手の年俸が報道されない、というのは言いすぎです。新聞社のサイトや専門誌には選手の推定年俸が載っていますし、一部の有名選手は契約交渉の内容についても詳しく報道もされています。自分が興味ないから気が付かないというだけの話でしょう。

サッカーは誰が経営者かはっきりしないのはなぜ?
最もびっくりした内容がこれでした。あまりに何も知らな過ぎ。
新潟があれだけ観客を集めたこと、甲府鳥栖が経営を立て直したこと、実際に経済誌でも取り上げられている内容です。(「Jリーグクラブ経営競争」 参照のこと。)
しかも、プロ野球の経営幹部の多くは親会社から出向で野球を知らない、というのでしばしば批判されていたのは承知の事実でしょう。

現場の責任者もはっきりしないのはなぜ
これも理解に苦しみます。サッカーは攻守一体ですから、攻撃専用や守備専用コーチというのはあまり聞いたことありません (FW のコーチというのはいたような気もします) が、大きなクラブなら GKコーチや、コンディションを担当するフィジカルコーチがいるのが当たり前です。

全般的に言えるのは、自分が見聞きしないから存在しない、という思い込みです。実際報道が少ないのは確かですから、知らないこと自体は仕方ありません。しかしそれにしても普通に想像力があればわかりそうだが……というのは過大な要求でしょうか?

最後に。
読み直してみると、なんといっても一番の突っ込みどころは最初の文章でした。
サッカーのサポーターたちは、なぜ、いろんな情報を十分承知しないままあの熱狂的な声援を送ってるのだろうか。
全くの意味不明です。
何も知らないのはあなた自身であって、サッカーのサポーターではないと思うのですが…。


(2005/12/26)
ちょっと気になったのは 「プロの“温床”」。 なんか悪い意味で使う言葉の印象があるんですが。
辞書で調べると、まずは実際に植物を育てる苗床の意味。次に悪い意味で使う風潮を育てる環境のこと。うーん、やっぱりここで使う言葉としては適切でないような……。