天皇杯4回戦雑感

2004/11/16

“ジャイアント・キリング” という言葉をご存知でしょうか。特にサッカーなどにおいて格下のチームが格上のチームを倒すことを言います。同じような言葉に “アップセット” もあります。たとえば NBA などのプレーオフにおいて、リーグ戦で順位が下のチームが勝ち上がることはアップセットといいます。
意味合いとしては “ジャイアントキリング” = (大番狂わせ)、“アップセット” = (番狂わせ)、あたりの認識が一般的ではないでしょうか。NBA などは波乱が起きたといっても同じ NBA 所属チーム同士の対戦ですからせいぜい番狂わせ。しかし、サッカーにおけるカップ戦のトーナメントでは、普段は対戦することがあり得ないチームとの対戦がありますから、大番狂わせが起きる可能性があります。

様々なスポーツでトーナメント戦が行われていますが、トーナメント戦において番狂わせは決して珍しいことではありません。今年のサッカー天皇杯4回戦でも、J1柏レイソルが JFL群馬FCホリコシに、J1セレッソ大阪がJFLザスパ草津に敗れるという波乱がありました。この波乱について、実は個人的にはジャイアント・キリングと呼ぶのは否定的です。というのは、柏レイソル、セレッソ大阪は、J1残留争いの主役 2チームであり、もし来年のJ1チーム数拡張がなければ、来季はJ2自動降格の位置にいるわけで、とすると大番狂わせというほどのことではないでしょう。
とはいえ、なかなか興味深い番狂わせであることから、これについての雑感を書いてみたいと思います。


まずはチーム力についての話。
よく “サッカーは掛け算” という言い方をされることがあります。サッカーのチーム力は、戦力の “足し算” ではなく “掛け算” だというのです。
たとえばプロ野球の場合を “足し算” 的な考え方をすることが多いです。実際、シーズン前には投手の勝ち星で優勝予想をします。すなわち、もしローテーション入りして二桁勝利するような投手が新戦力としてチームに入ってきたならば、その分を足し算して勝ち星と予想するのが普通です。
一方、サッカーは “掛け算” という言い方をされます。これは戦力を補強しても、その戦力が生きるかどうかの目論見があまり当てにならないという経験則から来ています。大型補強を繰り返しても一向に強くならないクラブもあれば、ひとりの選手が加わったことでそれまで燻っていた他の選手が生き生きと活躍することもあります。いえ、ひとりの監督によって大きな変貌を遂げるチームもあります。 すなわち、サッカーでは単純な “足し算” ではなく (監督を含めた) “掛け算” 的なチーム力の大幅変動がよくあるのです。
それらの結果から、こんなことが言えるのではないでしょうか。現在 Jリーグは J1、J2 の二部構成ですが、J1 が上位リーグで J2 が下位リーグです。すなわち J1 の方が力があるわけです。しかしこの J1のチーム>J2のチーム が成立するのは、前のシーズンが終わった瞬間に入れ替えが決まった直後だけと言ってもいいでしょう。シーズンが進み戦力の変動が進むと、調子のいいチームと調子の悪いチームの戦力は分かれ始め、シーズン中盤には J1上位チーム>J2上位チーム>J1下位チーム>J2下位チーム が成立しているのです。
今年の天皇杯 4回戦、J1下位チームはことごとく J2 チームに敗れました。J2首位の川崎と 2位の大宮が、J1 で下位である神戸や清水に勝ったのは妥当な結果であり、残りの試合もアップセットとは言えない程度の結果です。純粋にアップセットと言えるのは、すでに上げた 2試合の JFL チームの勝利と、J2最下位の札幌がJ1市原に勝った試合くらいでしょう。


さて、では今度は実力の話について。
そのアップセットの 3試合の話ですが、それらのチームの力が実力的にどうかというと当然アップセットというくらいですから実力では逆です。10試合程度試合を行って平均をみると、間違いなく適正な結果が出るでしょう。
ただし、ちょっと気が付いたことがあります。群馬や草津はマンマーク的なディフェンスでした。これは格上の攻撃を封じるひとつの手段。こういったディファンス、以前は J1 でも結構あったのですが最近はあまり見る事がありません。今回のアップセットの要因として、そういった要因もあったのではないでしょうか。おそらくそういった相手方の戦術に慣れていたら、結果も違ったかもしれません。“10試合程試合を行って〜”、というのもその対策をするという前提の話です。それなしだとあるいは……?
同時に思ったのはもしそうだとすると、ちょっとJリーグ選手の相手の戦術への対応能力に関して不安を感じます。韓国がやってくるマンマーク気味のディフェンスに苦労するのも同じこと?
だとすると、J1 のチームばかりで対戦しているのはあまりよくないかも。早くナビスコカップを J1、J2 混在カップ戦にして、格下対格上の対戦を意図的に作ることで、様々なスタイルで対戦するような状況を作り出すほうがいいかもしれません。


最後に JFL のレベルについての話。
正直普段 JFL の試合を見る事はありません。随分前にホンダFC の試合を見にいって以来でした。そして今回、群馬FCホリコシやザスパ草津の試合を見たわけですが、正直驚きました。予想外に上手かったです。もしかすると、Jリーグ開幕時のJリーグチームから外国人選手を除くと今の JFL と同じくらいなのではないでしょうか? 当時のJリーグ下位チームの DF の技術はクリアが精一杯。誰もいない時の逆サイドへの展開でミスしていたくらいの状況でした。ところが草津などはクリアかと思われるところでをちゃんとつないで攻撃へとつなげていました。もちろん、よくよく考えてみれば多くの選手が元Jリーガーなわけですからそれなりの技術があるのは当たり前。草津の山口にいたっては、J1 選手を上回る技術を持っている選手なわけですから。
日本サッカーのレベルアップが実現しているのは間違いありません。これも Jリーグ拡張から、JFL で Jリーグを目指すという状況ができたからでしょう。それがなければ彼らうちの何人かは引退していたかもしれません。日本サッカー全体のピラミッドの基盤は強く築かれつつあると感じます。


(追記 2004/11/18)
結局 4回戦では、史上最多のJ1 の 7チームが敗れました。基本的には上に書いたように、この程度は十分起こりうる範疇だと思っています。ただし、敢えて他の原因を挙げるとすると、昨年まではJ1登場はホームゲームだったのが、今年はアウェイになった、ということが言えそうです。
Jリーグはホームとアウェイの差があまりないリーグというデータもあるようですが、やはり普段対戦しない J2 や JFL のホームスタジアムの場合、ほんとうに全くの初めて利用というケースも多いはず。単に芝生などの慣れだけでなく、チームの移動や宿泊なども全くの初めてだと、やはりなんらかの影響が出ると考えるべきでしょう。