スポーツ中継に関する考察 (後編)
2003/11/03
前編からの続きです。
前編でプロ野球中継というものが、現場でのスポーツ観戦とは別物のエンターテインメントとして成立していると書きました。もちろんこれは、プロ野球という競技の特性が、TV 中継に向いていたのが大きな要因です。(前編には書きませんでしたが、CM を入れやすいなどの要因もあるでしょう。)
では、プロ野球以外の競技の中継はどうあるべきでしょうか。
ふたつの考え方があると思います。ひとつは “スタジアムそのままの状況を中継で再現すること”。もうひとつはプロ野球のような “独自ののエンターテインメント” として成立させること。
前者の “スタジアムそのままの状況を中継で再現すること”、これは実は、過去の技術だったら 「無理だ」 と切り捨てるべき案です。従来の TV中継でスタジアムの再現なんて無理です。しかし、将来なら可能かもしれません。CS などによるハイビジョン映像をご覧になったことがあるでしょうか? 僕のハイビジョン放送の一番の印象は “自分より視力が良い” です。木々の葉の明確な輪郭など、明らかに普段見ている景色より視力が良いのです。そして、そのハイビジョンで観たサッカー中継は、これまでに観たサッカー中継とは全くレベルが違うものでした。縦横比で横が広いので、今までよりも広いピッチを映しています。カメラの位置は今まで通りだけれど遠くまでくっきりと見えて選手の識別が容易です。音声に関しても、サラウンドの音場を再現した放送も始まっています。
こういった中継技術が進むと、さすがに “全く現場と同じ” まではいかないにしても、スタジアムの状況に近い再現が成立する可能性があります。ちなみに、かつてワールドカップ誘致の際に企画されたバーチャルスタジアムが、この考えを突き詰めた究極の形です。この場合は、アナウンサーや解説者も必要ないかもしれません。スタジアムで観ることが出来るような最低限の情報、出場選手の一覧などがある程度でしょうか。
しかしながら、あくまでも本流は後者の、独自の “エンターテインメント路線” ではないかと思います。というのは、TV 中継を観ている大部分の人は、その中継された試合に対する予備知識をもっていないからです。途中から観たらどのチームが試合しているのかわからないかもしれないし、どういう位置付けの試合かもわからないでしょう。それどころか、競技のルールさえ詳しくないかもしれません。中継の途中でそういう人たちに向けた、ルールや基本戦術、試合の見所の説明が必要です。
おそらく、前者の “スタジアムそのままの状況” を伝えるのは、“エンターテインメント路線” の一部になるのではないでしょうか。エンターテインメントの要素として、希望の映像を見ることが出来る。そのひとつが “スタジアムそのままの状況” となるのです。
さて、ではその “独自のエンターテインメント” 路線について考えてみます。
実際のところ現在のスポーツ中継はこの “独自のエンターテインメント” 路線で作られているわけですが、問題なのはそれらが野球の手法で作られていること。
野球の手法の最大の特徴は、プレーの合間のリプレイと、アナウンサーの資料読み。この弊害のひとつが、例えば日本のバスケット中継におけるリプレイの入れ過ぎ。アメリカでの NBA の中継では、まず試合中にリプレイはしません。特にプレーが連続するバスケットにおいてリプレイを入れたら次のプレーを見逃してしまいます。スローモーションでリプレイなどは愚の骨頂です。また、日本のサッカー中継における不要なアナウンサーのおしゃべり。そりゃ野球はプレー以外のおしゃべりを入れないと間が持たないでしょう。一生懸命取材してきた資料を読むのもわかります。けれどもプレーが連続するような競技にその必要はありません。というか、それにより必要な実況が不足しているのです。サッカーにおいて現状の TV 中継の画では、どの選手がボールを持ったかが分かり難いです。実況は今ボールを持った選手が誰なのかを伝える必要があるのです。
(さらに問題として、アナウンサーのレベルが低くて正しく実況できないこと、があるのですがそれはここでは省略。)
結論として、“独自のエンターテインメント路線” がどうあるべきかというと、 種目に合わせた中継方法を開発するべきだと思います。バスケットの中継にリプレイを多用してはいけないし、サッカーならボールを持った選手名を伝えなければいけません。プレーが続いているのに延々とベンチを映すのも駄目。そういったことがわかるには、中継番組を作る人がその種目を知っていること。ちゃんと知っていれば、必然的にどういう中継が求められているかわかるはず。現状では、野球以外の中継は全くできていないと思います。
とはいっても上の方で書いたように、その競技が大好きな十分に詳しい人だけでなく、その競技に詳しくない人への配慮も必要です。更にその競技をより深く楽しめるような教育的な側面も重要でしょう。プロ野球中継が既に確立しているのは、そいうった競技の楽しみ方が十分に教育されているからともいえます。野球に関しては、基本的なセオリーであったり、監督采配であったり、配球の妙であったりするわけですが、毎日の中継でそれらを十分に説明する時間があるので、意識せずにそういう教育ができているのです。他の競技だったらそうは行きません。Jリーグが出来たことや日本代表の試合などによって、サッカーに関しての戦術は以前よりは語られるようになりました。けれど、バスケットボールについてスクリーンプレイの解説なんてほとんど見たことありませんし、バレーボールにおいて各種クイックやサインプレーの説明など見たことがありません。現在のスポーツ中継は、競技を詳しく知らない人には説明をしない上に、競技を詳しく知っている人には不満の残る中継です。
まあこれら、その競技を広めるための努力の責任は、それぞれのスポーツ協会側にもあるのかもしれません。その競技を広めたいという意欲があるのなら、TV 局に働きかけてそういった部分に力を入れて然るべきだと思うのですが……。