スポーツ中継に関する考察 (前編)

2003/10/13

スポーツ中継について考えてみます。

まずは現在のスポーツ中継についての考察です。
そもそも “スポーツ観戦” とは、現場で試合を観るものであったことは明らかです。それを現場で観戦することができない人の為に、試合経過を知るというのがスポーツ中継の始まりだったのでしょう。最初は試合速報の掲示板とかだったのかもしれません。それから、ラジオの中継がはじまり、試合の状況を逐一知ることができるようになりました。そして、ラジオでの言葉だけによる試合経過の通知から、TV による映像付の中継が始まりました。というような経緯を考えると、本来 “スポーツ中継” とは、現場で観たり感じたりすることそのままを、現場以外で観たり感じたりすることが目的だったのではないかと思われます。

ところが、このスポーツ中継は進化を遂げます。
本来は、現場で観たり感じたりすることを伝えるだけだったのが、現場で知ることができない情報を加えるようになったのです。多数のカメラによるいろいろな角度からの映像、ズームアップの映像、リプレイ。映像だけではありません。ベンチ情報や、他会場の結果、そして解説者のよる説明。

こういったスポーツ中継の進化が、ピークに達しているのがプロ野球でしょう。
現在のプロ野球のスポーツ中継は、現場では知ることのできない情報に溢れています。バックスクリーン方向からのアップの映像で、我々は投手の投げる変化球の実際の変化の具合を、いや、それどころか投手のボールの握りまでも見ることができますし、ストライク/ボールの判定も現場の観客席で見るよりは明らかです。映像だけではありません。スタジアムでも投球スピードや選手の打率などは掲示されますが、対戦投手と打者の過去の成績であったり、ここ最近の打者の成績、どの控え投手が投球練習を始めたか、などなどは現場で知るのは難しいです。それから解説者による戦術の解説、選手の調子の説明などなど。場合によってはスポーツとは関係ない話も出てくることもあります。選手が誕生日であるという紹介だったり、好きなタレントの紹介とか、朝食で何を食べたとか。
これはもはや、“現場で観たり感じたりするそのままを中継” とは別物です。もちろん、さすがに現場に比べると、実際のホームランの大きさとか、TV では上手く捕らえきれないリアルタイムの中継プレーや、観客が作り出す現場の雰囲気など、かなわないことはたくさんあります。けれどもその他の多くの情報を盛り込むことで、スポーツ中継が “現場での観戦の代替” とは異なる魅力を持った、まったく新しい別物のエンターテインメントとして確立していると言えるでしょう。

プロ野球の中継が、これほどのエンターテインメントとして確立した要因はいくつかあります。最も大きいのは、その競技性から時間的余裕があること。プレーの合間に、リプレイやデータ、こぼれ話などを盛り込む余裕があったからです。そしてもう一点は、野球というプロエンターテインメントが持つ経済的メリットです。プロスポーツとして人気があるから、毎日のTV中継が行われ、そこにお金をかけて様々の試行錯誤ができたわけです。

ではプロ野球以外のスポーツ中継がどうかというと、それはスポーツによって様々です。それはその競技性が大きな影響を及ぼします。
マラソンや駅伝、ゴルフ、モータースポーツなどは、現場で観ると限られた部分しか観戦することができないスポーツです。そして、データや裏話をを盛り込む時間的な余裕も十分にあります。というわけで、“現場の生の迫力を味わう” 以外のほぼ全ての点については、スポーツ中継がエンターテインメントとして優れていると言えるでしょう。
陸上競技や水泳、格闘技系なども、ほぼ同様の理由で “現場の生の迫力や雰囲気を味わう” 以外の面で、スポーツ中継に向いているでしょう。
バレーボール、テニス、卓球など、狭いエリアで行われ、かつ、プレーに時間的余裕がある種目も比較的スポーツ中継に向いているといえます。

ここで少し問題になるのが、広いエリアで行われる球技や時間的な余裕がないないスポーツです。
バスケットボールは、エリアは狭いですが時間的な余裕がありません。アメリカンフットボールはエリアは広いですが時間的余裕があります。サッカーやラグビーは広いエリアである上に時間的余裕がありません。これらのスポーツは、上に挙げた種目に比べると、スポーツ中継に向いていないといえるかもしれません。いえ、正確に言うと、時間的余裕のあるアメリカンフットボールを除くと “プロ野球的” な中継方式に向いていない、というべきでしょう。

特にサッカーファンが感じるスポーツ中継の不満は、この点に起因する部分が大部分と言ってもいいでしょう。スポーツ中継を作っている人たちが、そのスポーツに対する理解が浅いせいで、本当に必要な中継番組を作っていないのです。プロ野球で培った中継方法で十分だと勘違いしているのです。
具体的には、時間的余裕がないのに、その場で本当に必要な情報を放送せずに、無関係な雑談をしている、不要な話をしている、などなど。あるいは、野球やアメリカンフットボールなら時間的余裕があるので、後で広いエリアをリプレイするのも可能ですが、時間的余裕がないサッカーではそれはできません。だからそれを考慮してリアルタイムで広いエリアの情報を流して欲しいのに、それをしてくれない、などなど。

さて、では (野球を除く) スポーツ中継がどうあるべきかを考えてみます。

(後編につづく)