『かちかちやま』 と 『ハムラビ法典』

2003/11/28

先週、「『小公女セーラ』と『明日のナージャ』」を書いた際、その他の童話や昔話で、悪いことをしたやつがどんな報いをうけたかを調べたのですが、そのおかげで長い間気になっていた疑問が氷解しました。

その疑問とは 「
かちかちやま」についてです。厳密にストーリーを憶えていたわけではないのですが、これが気になっていました。

たぬきに対するうさぎの仕打ちは酷すぎるのではないか?

背中に背負った蒔に火をつける。(いやいや、それは洒落にならんだろ。)
やけどに唐辛子を摺り込む。(うわぁ、苦しんでいるところへ追い撃ちか。)
騙して泥の船に乗せて溺れさせる。(……一番苦しめる殺し方だよなぁ。)

うーむ、こりゃ極悪ですよ、普通に考えると。


ところで、皆さんは 「ハムラビ法典」 をご存知だと思います。“目には目”、“歯には歯” で有名なあれです。ところがこの 「ハムラビ法典」、世の中ではほとんどがその意図を誤解されているみたいです。これは報復を認めるという法律ではありません。「ハムラビ法典」が作られた時代は、罪を犯した人に対して過剰な報復が当たり前だった時代。「ハムラビ法典」は “目には目まで”、“歯には歯まで”と、過剰な報復を禁じることを目的とした、復讐の連鎖を断ち切るための法だったのです。

ということで、「
かちかちやま」に戻ると、「ハムラビ法典」 の時代でさえ認められていた “過剰な報復をやめよう” という考え方からからも、あまりにかけ離れているのではないか、と。

うさぎ、お前やりすぎ!

ずっと、そう思っていました。


ところが、「
かちかちやま」 の正確なストーリーを知ると、うさぎの行動に納得がいったのです。
調べてみると、こういった昔話は地方によって多少の違いがある上に、戦後民主主義の思想や、子供へ与える影響などが配慮され、アレンジされることがあるそうです。ですから、以下に書いた 「
かちかちやま」 のストーリーを知っている人もいれば、別のストーリーを知っている人もいるようです。
とにかく僕がうさぎを支持するに至ったストーリーはこういうものです。

いたずらをしたたぬきは、おじいさんに捕まえられる。
捕らえたれたたぬきはおばあさんに頼み込んで逃してもらう。
たぬきはおばあさんを殺す。
たぬきはおばあさんに化けて、おばあさんを 「ばば汁」 にしておじいさんに食べさせる。
悲しむおじいさんに代わり、うさぎが復讐する。

なんてことでしょう、助けてくれたおばあさんを殺した上に、おじいさんに食べさせるなんて!

たぬき、極悪はお前だ!


たぬきがおばあさんを殺すというのは、たいていの 「
かちかちやま」 の絵本にはある (とはいえ、ぼかして明言してないケースありそう……) のですが、この、おじいさんに食べさせる 「ばば汁」 の件が、絵本などによっては意図的に省略されていることがあるようです。しかし、僕に言わせると、そこまでの悪事でないと後のうさぎによる凄惨な復讐劇に納得がいきません。僕はこれが正しい 「かちかちやま」 に違いないと思います。「ばば汁」 の省略は、うさぎの行動の根拠を無くす改悪であり、正しい 「かちかちやま」 ではありません。うさぎの名誉、「ハムラビ法典」 以前の野蛮な思想の持ち主と批判されない為にも、「ばば汁」 を省略してはいけないと思います。

とにかく、このストーリーを知って僕の考えは変わりました。

うさぎ、お前は正しい!


……といった結論で、このコラムを閉めるつもりだったのですが、ちょっとだけひっかかる点も出てきました。
実は最初、おじいさんがたぬきを捕まえた時、おじいさんはたぬきを 「たぬき汁」 にして食べようとしたのです。ここまでくると命の取り合いです。たぬきとおじいさんの間でみると正統な生存競争としての殺し合い。たぬきがおじさんを恨み、殺して食べたところで責められるものではありません。
とすると要は、“たぬきよ、お前は殺すべき相手を間違えた” そして “たぬきよ、あまりに非人道的 (うむ、人じゃないけど……)” それが結論というところでしょうか。


ハムラビ法典については、ネットで検索しても “復讐を認める法” として語られているケースが多いですね。正しい意味で使われている文章はほんのわずかしか見つかりません。

アメリカにおける大量殺戮と、「報復」について

週刊電藝

少年犯罪被害当事者の会のホームページ 内にあった投稿


かちかちやま」 に関しては、白百合女子大学卒業論文要約の中に、絵本を調査した文章がありました。
22冊中、たぬきの変装と 「ばば汁」 が記述されているのは 5冊だそうです。気になるのは、近年のものでは、たぬきが許されるケース (想像ですが、この場合はおばあさんも殺されていないのだとは思いますが) もあるそうで、ここまでいくと明らかに行き過ぎた平和教育の悪影響でしょう。もはやこれだと、面白いエピソードだけ盗んで 「
かちかちやま」 の名を語る偽者で、現代だったら著作権法違反に問われてもいいくらいではないかと思います。

昔話絵本「かちかちやま」の比較−1933年から1995年まで (昔話絵本の入り口)

(追記 2005/05/09)
上記リンク先が消えていたので、Google からキャッシュを保存しました。

(昔話絵本「かちかちやま」の比較−1933年から1995年まで) のキャッシュ