標準語だと思っていた山口弁
2002/07/19
方言を強烈に意識したのは、小学校の時でした。横浜に住んでいた従兄弟がこう言いました。
「“ぶち” って “とっても” ってことでしょう?」
正直、これは衝撃でした。
山口県民にとっては、“ぶち” は極めて使用頻度の高い言葉。英語でいうところの "very" ですから、一日に何度も何度も使う言葉なわけです。それほどの言葉が方言だったというのはほんとうにショッキング。
ま、今となってみると “ぶち” が標準語なわけがないんですけどね。
まあ子供の時ならともかく、だんだん大きくなってくると、TV などで使われない言葉、あるいは、かっこ悪い言葉が方言であるということに気がつくわけです。ところが、その一方で僕が山口を離れるまで方言だと気がつかなかった言葉がいくつかあります。
その 「方言だと気がつかなかった」 というのは、もちろんそれぞれに理由がありますから、それらの分類をしながら紹介してみたいと思います。
| だって、よく使うじゃん! というケース | ||
|---|---|---|
| 標準語で、たまたま同じ 『音』 の言葉があるせいで、その言葉が方言である事を見逃してしまうことがある。冷静に考えてみると、その意味では使われていないのに……。 | ||
| えらい | (意味) 疲れた (エリア) 中部から九州、浜松でも使用 「偉い」 ではない。山口においては前出の “ぶち” と組み合わせた 「ぶちえらい」 という言葉の使用頻度が極めて高い。(使った事ない人はモグリ) |
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| なおす | (意味) 元の位置に戻す (エリア) 関西から九州 標準語で言うところの 「修理する」 と内容的に無関係とはいえない 「元通りにする」 =「元の位置に戻す」 という意味がある。学校などで掃除した後で 「机をなおす」 というのは、机を元の位置に戻すということ。何かを棚から出して、元の場所に戻すのも 「なおす」。 |
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| みやすい | (意味) 簡単である (エリア) 中国 「よく見える」 ということではない。例えば数学の問題に対して、「この問題はみやすい。次の問題の方が難しいよ」 など使う。 |
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| つむ | (意味) 散髪する、爪を切る (エリア) 山口だけ? 髪の毛や爪を切る事を 「つむ」 という。おそらく花を 「摘む」 から来ていると思われる。ネットでもこれが記述してあるのは少ないが、間違いなく 「はよう髪つんできんさい!(すぐに散髪してきなさい!)」 と言われていた。 |
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| だって、漢字で書けるじゃん! という (誤解をしていた) ケース | ||
| 漢字で書けるってことは、辞書にも載るでしょう。すなわち、方言じゃないよ、と思ったものの、実際に IME とかで変換すると出てこない……。 | ||
| まっつい | (意味) 同じ、瓜二つ (エリア) 山口、四国 『真っ対』 だと思っていた。二つ並べると対称になるくらい似ている、という意味だと。正確に説明すると 「似ている」 と 「全くの同一」 の中間を示す言葉。「似ている」 という言葉は、暗に 「同じではない」 という意味を含んでいる。そうではなくて、ぱっと見で区別がつかなくて 「もしかしたら同じ?」 の時が 「まっつい」。「同じ」 はまた違う。同じ服を二着買ったとしたら、それは「同じ」 であって 「まっつい」 ではない。 |
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| たう | (意味) 届く (エリア) 山口、九州北部 『足う』 だと思っていた。つまり、距離が 「足りる」 の変形。その否定形である 「手がたわん (手が届かない) 」 というのは使用頻度が高い。 |
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| ひやい | (意味) 冷たい (エリア) 中国、四国 「冷やす」、「お冷」 があるのだから、『冷やい (ひやい) 』 で全然おかしくないと思うのだが、確かに IME で変換されない……。 |
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| だって、他に言い方ないじゃん! というケース | ||
| いや、だって他に言い方なければ困るし。……まあ考えてみると、そういう言い方があるということは、大雑把でない繊細な表現ができる、ということです。 | ||
| はぶてる | (意味) いじける、怒る、の中間の様子。 (エリア) 中国、九州、四国の一部。 「怒る」 ほど激しいものではないが、「いじける」 というほどネガティブなものではない。様子は 「ふくれっ面」 が最も近い。個人的には 「はぶてる」 はちょっとした心の葛藤と、いじらしさを感じる。 ちなみに僕は 「すぐはぶてる」 子だった。 |
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| だって、省略形じゃん! あるいは似てるじゃん! というケース | ||
| 省略形なんだから、方言じゃないよ。 えっ! 他のエリアでは省略しないの? | ||
| びっしゃ | (意味) びしゃびしゃ (エリア) 山口。 「汗びっしゃ」 という使い方をする。要するに、山口県人がせっかちだから短縮されただけなのか? |
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| けつる | (意味) ける (エリア) 中国、九州、四国 ボールを 「けつる」 と言う。おもいっきり蹴り上げることは 「けつりあげる」 と言う。でも 「カン蹴り」 は 「カンけつり」 とは言わなかったなぁ。 |
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| だって、だって、…… (理由なし) | ||
| いや、だって、だって、方言だなんて納得いかん! (感情的) | ||
| めいぼ | (意味) ものもらい (エリア) 関西より西 「ものもらい」 …… 何それ? 目にイボができるんだから 「めいぼ」 じゃん。何かおかしい事いってる? |
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| すいばり | (意味) とげ (エリア) 山口、広島、九州北部 切った木の表面に出てくる固い繊維の「トゲ」。しかし、「トゲ」 というのはバラの花の 「トゲ」 のようなものを言うのであり、それらを 「トゲ」 として同一視するセンスには納得いかない。やはりあれは針の一種、すなわち 「すいばり」 である。なお、山口では 「すいばりがたつ」 という。 「すいばりホームページ」 参照のこと。 |
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| いや、これに関しては弁解のしようがない…… | ||
| さんのーがーはい | (意味) いちにーのーさん、東京でいうところの、いっせいのーせ、などの掛け声 (エリア) 山口の西部?、北九州 これに関しては恐ろしいエピソードが……。大学時代のギターサークルで、指揮者(僕) とコンサートマスター(下関出身) が山口県出身であったため、練習時のタイミング合わせの掛け声がこれだった。メンバーに指摘されるまで方言だと気付かずにしばらくの間使われていた。ああ、恐ろしい。 僕の方は 「せーのーがーはい」 あるいは 「せーのーがーのー」 と言っていた気もするが、今では定かでない。 |
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山口弁から共通語になったと言われる言葉もあります。
山口でお年寄りが使う丁寧語の 「〇〇であります」。これが軍隊言葉になったそうです。軍隊といえば奇兵隊ですし、明治初期に山口が持った影響力が大きかったことは想像に難くないです。
あと、山口県というと、中原中也、金子みすゞ、まどみちお、など非常に人気のある詩人を輩出。言語感覚的には悪いセンスなわけがないと思ってるんですが。山口弁のサイトを紹介しておきます。
ところで、方言というともうひとつ思い出すエピソードがあります。山口弁ではなくて、東京 (あるいは、関東か東日本?) の方言の話です。
高校生の頃読んだ雑誌のインタビューで “〇〇みたく……” と書いてあったのです。ちょっと意味がわからずに何度か読みなおしたのですが、僕はこれは “〇〇みたいに……” の誤植だと判断しました。
ところが、後にもまた “〇〇みたく……” という表現を見たのです。その頃になって、「もしかして、方言?」 と気がつきました。確かに方言みたいですね。実際は、東京に住んでも、たまにしか耳にすることはありませんでしたが。