スポーツとメディア

2002/02/11

ソルトレーク・オリンピックが開幕しました。
個人的な開幕前の予想としては、長野やシドニーとは違って時差があるので、日本においてあれらほどの盛り上がりというわけにはいかないだろう、というものでした。特に日本人選手の成績によっては盛り上がりに欠けたままで終わる可能性もあると思います。実際、TBSニュース23 に至っては開幕直前に番組内コーナーで 「盛り上がっていない」 などと報道する始末。
その一方で序盤から盛り上げようという意欲が見えていたのがフジテレビ。そして、そのフジテレビの目論見は当たりました。
開幕翌日、フリースタイルスキー/モーグルで、フジテレビの社員である里谷多英が銅メダルを獲得。今のところ他の競技の成績が芳しくない為、彼女が TV に出っ放しですが、特にフジテレビはおおはしゃぎで、同期入社のアナウンサーと会話させたり、ゼッケンが8番 (関東地区でのフジテレビの TV ch 番号) であったこと、社長賞が出る云々を話題にしていました。


さて正直な話、このフジテレビ社員の活躍は、日本のスポーツ文化に対してやや懸念するべき事を生んでしまったのではないかと感じています。それは、メディア企業による現役人気スポーツ選手の抱え込みが始まるのではないか、という懸念です。

スポーツとメディアと言うと、もはやお約束のように読売グループとジャイアンツの話になるわけです。読売グループは、新聞販売の拡張の為のプロ野球を利用しました。プロ野球チームに資金をつぎ込んでスター選手を獲得。それによるチームとスター選手の実力が大きかったとはいえ、加えて新聞報道、 TV 中継との相乗効果でチームを全国区人気チームにしました。
これら全てを悪い事だとは思っていません。野球を確固たる人気スポーツにした貢献は大きいでしょう。しかし、そこに生まれたのは、正当でない選手の実力評価でした。つまり、ジャイアンツの選手と同じ実力なのに注目されないパリーグの選手たち。わかりやすいのは、多くの人はあのイチローを、名前やニュースでは知っていながらも、実際にプレーを国内で見る機会に恵まれなかったということ。

そういえば昨年末、横浜ベイスターズは、マルハから TBS に筆頭株主が代わりました。今後、露骨に TBS が横浜贔屓をするとも思えませんが、TV のゲスト出演などで配慮されるのは間違いないでしょう。読売同様、このチームに入ると副業ができるという選手側から見ての付加価値が出るかもしれません。このような付加価値があることで、ドラフト制度への弊害となる可能性があります。

そして、それら以上に問題なのが、プロ野球への過剰な偏重です。どうしてプロ野球のキャンプがスポーツニュースの中心なのでしょうか? 他の競技の報道よりも野球の話題、しかも元監督がキャンプ地を訪れただの、まだ活躍もしていないルーキーが休みの日に何をしただの、スポーツとかけ離れた内容が、スポーツニュースとして報道されている現状があるのです。


メディア企業所属社員選手の活躍は、これらと同じ事を引き起こすのではないでしょうか?
里谷多英は、長野で金メダルを取ったことでフジテレビに入社が決まった、これは間違いないでしょう。この時点では、フジテレビは、他にもよくあるスポーツから引退した人気選手を、スポーツ解説者として確保するくらいのつもりだったのではないでしょうか。ところが、社員のままでメダリスト。テレビ局として獲得の意義は絶大でした。
これに味をしめて、各局が将来的に見込みのある選手を社員として雇う可能性が出てきたのではないでしょうか? 『どうして企業スポーツでは駄目なのか』 に企業スポーツに対する批判を書いたのですが、このような巨大な力を持つメディア企業が個人選手を抱え込むことは、想定していませんでした。選手にとっても、そして企業にとってもリスクの小さい、おいしい話でしょう。
そして、それから予想されるのは、自局が抱え込んだ選手の種目の偏重報道です。もしほんとにそういうことが起こると、スポーツ全体にとって好ましいことではないように思います。

もちろん、メディアがスポーツに与える影響は否定的な事ばかりではありません。メディアのおかげでそのスポーツに人気が出て、経済活動が成り立ち、クラブが運営できたり、その種目の振興ができます。しかし、あくまでもメディアは平等の立場、すなわち報道の基本に立っていなければ、様々な弊害が出てくる可能性が否めません。
現在でも、自分たちが放送権を獲得した大会を過剰に演出するメディア。メディアが全てにおいて完全な平等となるべきだとは思っていませんが、やはりある程度のメディア本来の “報道” という姿勢を守ってもらいたい、そう願います。


メディア企業がプロスポーツチームを持つのはよろしくない、という考え方は以前からあります。サッカーではメディア王マードックによるマンチェスターユナイテッドの買収を、公共の利益に反するという理由でイギリス国会が否決しました。

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