プロ野球のシステム、Jリーグのシステム (後編)
2002/09/29
さて、前編に続き、プロ野球のシステムとJリーグのシステムの現状と問題点について考えてみたいと思います。
プロ野球のシステム、『日本最高峰レベルの野球の試合を見せるという興行システム』 は、とりあえず上手くいっている言えるでしょう。相変わらず日本のナンバーワンスポーツであることは確かで、昨年下がった巨人戦の視聴率も今年はやや持ち直しました。
ただし、ここ20年くらいでみると下降傾向であるのは間違いありません。その一番大きな理由は、間違いなく価値観の多様化でしょう。例えば TV において全体の平均視聴率が下がっている事からもわかります。つまり、みんなが同じ TV 番組を見るという時代ではなくなってきました。VIDEO もあれば、BS/CS、ゲームにインターネット。スポーツにあてはめると、ここ20年で、F1ブーム、Jリーグブーム、K1 を中心とする格闘技ブームなど、ブームだったとはいえその後も一定レベルで定着しているものばかりです。何がなんでも野球なんてことはありません。
また、もうひとつの理由として考えられるのは、“日本最高峰レベル” というプロ野球の拠り所であるコンセプトから外れる現象が起きているのではないか、ということです。野茂、イチローを代表とするメジャーへの選手流出はまずは直接的なレベルダウンの原因です。そして、それらメジャーの映像を衛星放送などで見ることができることも。コアな野球ファンから見ると、メジャーのレベルが予想していたほどでもなかったという面もあるのだけれど、一般的にはあちらが圧倒的な世界一のプロ野球リーグ。
それから、見逃せないのは読売への戦力集中。ご存知のように、ドラフト逆指名制度と FA制度が原因です。ドラフトに関しては、かつてのように西武やダイエーが莫大な金額で選手を獲得するということもできなくなり、もはや読売の独壇場。FA 制度に至っては、パリーグからセリーグへの流れも定着しつつあり、リーグ間格差も広がっています。これらは読売だけを見るならば、日本最高の選手が集まっているかもしれません。しかしそれは、日本最高の試合にはならないのです。(獲得時の選手の力のピークなどを考慮すると事実そうなのかわからない部分もあるとは思うのですが) 読売が突出して戦力が揃ってるとファンが感じてしまうこと自体、すでに日本における “ベストな勝負” ではないということなのです。
また、日本最高レベルの試合かどうかを考える以前に、この読売の戦力突出のイメージ自体も重要な問題です。一部の狂信的な、あるいは自分達の周りに無関心な読売ファンには全く関係ない話なのですが、特に生え抜きの主力選手が移籍してしまったチームのファンが感じる不公平感は無視できないものになっているのではないでしょうか?これが更にチーム間の人気の格差につながります。
とはいえ、前編でも書いたように、メディアと結合した読売人気が無くなってしまうことは考えられません。Jリーグの地域密着とは、クラブチームを地域の代表として身近に感じさせる事ですが、実は読売人気もこれと同じ物です。スポーツ番組で、毎日TV で読売の選手を取り上げ、面白おかしく伝えたり、誉めたりしているうちに、TV 視聴者は彼らがとっても身近な存在に感じるのです。“擬似” 地域密着の手法と言えるかもしれません。
プロ野球の人気は多少の減少傾向はありますが、読売人気がある限り、プロ野球も安泰でしょう。無くなるということはまず考えられません。ただし、チーム間格差の不公平感や、読売だけが莫大な利益を懐に入れること、セリーグだけが放映権料を手にする事ができること、これらの矛盾を抱えたまま、これからも続いていくでしょう。
さて、ではJリーグはどうでしょうか。
『地域密着のクラブチームであることにより成り立つ興行システム』 ということですが、単純な興行という面でプロ野球に比べると、同じ都心にあるクラブの観客動員は少ないようです。部分的なデータを取り上げれば、Jリーグの方が多かったりするかもしれませんが、(水増し分を配慮した上でも) 野球の試合数や、平日開催ということを配慮すると、やはりプロ野球には及びません。(なお TV 視聴率は、巨人戦を除くと、プロ野球とJリーグはほとんど差はありません。) ただし、単純な観客動員の多い少ないだけでクラブの経営を不安する必要はありません。前編でも書いたように、Jリーグの場合は、観客動員が少なければ選手の給料を下げるというだけの話。そうすればチームの存続は可能です。もちろんそうすると能力の高い選手が他のクラブへ移ってしまうでしょうから、クラブは弱くなります。しかし元々、弱いクラブは下部リーグへ落ちるというシステムですからそれでいいのです。プロ野球と違ってチーム間格差があっても良いのです。自分達の身の丈の応じた経営をすることが大事なのです。
だからと言って、それでJリーグのクラブが安泰というわけではなく、いくら選手の給料を下げても、それでも黒字になるような観客動員ができないクラブは潰れてしまうのです。親会社が赤字分を補填してくれるようなことはありませんから。(自治体が肩代わりするケースはあります。) 多くのクラブが経営不能になるという状況だと、Jリーグ全体も危険です。
現在では、多くのクラブが黒字に転換 (累積赤字があるクラブはまだ多い) したとはいえ、余裕があるという状態ではありません。しかしながら、Jリーグブームが去ってもスタジアムに通っていたサポーターがいたことや、ワールドカップやオリンピックの度にサッカーの面白さを知る新規の観客がいることを考えると、いきなり客席に閑古鳥が泣き始めるということも考え難い状況です。
実際、Jリーグの歴史を考えてみると、Jリーグが出来た 1993年は Jリーグ10クラブと翌年にJリーグ入りを準備していた準加盟 3クラブの合計13クラブ。そして約10年、一クラブが合併という形で姿を消しましたが、2002年は、J1が16クラブ、J2が12クラブの合計28クラブ。それ以外に、将来Jリーグ入りを目標としているクラブが多数あります。地域密着という観点で見ると、札幌、仙台などが、当初考えられなかったような観客動員を誇っていることに加え、最近では新潟も Jリーグトップクラスの観客動員をするようになりました。また、数字的には少ないですが、甲府なども数年前の経営危機の時に比べると驚くような観客増員を達成しています。
一クラブ当たりの観客動員が大した事無くても、全体の観客動員数が上がる事がJリーグの目標です。ついついJリーグバブルと比較してしまうと観客動員減のように思えますが、10年前に比べると順調に成長しているといえるでしょう。そして、これからも成長していく可能性の方が高いと思います。
最初にも書きましたが、プロ野球のシステムとJリーグのシステムは、全く違うものです。どこかの要素だけを取り出して単純に比較することは全く意味が無いでしょう。そして、どちらかがどちらかを駆逐するようなことはあり得ません。アメリカで 4大プロスポーツが成立しているように、日本でも複数のプロスポーツが成立するのは可能です。
それには、日本におけるスポーツの地位が向上することが必要でしょう。スポーツが、音楽や美術と同じような文化的な価値があると認められることが大切です。まあ、そういう活動をしているのは圧倒的にJリーグなわけですが……。
ただJリーグにとって、Jリーガーの給料がプロ野球選手に比べて低い事に関して、「給料の安い職業を、子供達が選ぶのか?」 という不安がないわけではありません。しかし日本代表が存在する限り、“サッカー選手になること” の魅力が無くなる事はありません。力があればJリーグを通過点として海外へ行けばいいのですから。Jリーグはその通過点としての確実な役割があるのです。