プロ野球のシステム、Jリーグのシステム (前編)

2002/09/23

日本のプロ野球のシステムとJリーグのシステムについて考えてみます。野球とサッカーという競技の話ではありません。また、プロ野球とJリーグというと、すぐに両者の優劣という話になりがちですが、そういう目的ではありません。むしろ、結論から先に言うことになりますが、両者は全く異なるコンセプトを持つシステムであり、単純な比較は無意味ということを説明したいです。

まずは、システムの基本構造、概要を考えてみます。


プロ野球のシステムは、一言で言うと、『日本最高峰レベルの野球の試合を見せるという興行システム』 といえるでしょう。そして、このシステムは企業の宣伝媒体として成立します。宣伝媒体としてのキーワードは、“少数精鋭” です。少数であるからこそ、高い宣伝効果を持ち、だからこそ選手への高い年俸が維持できるわけです。

良く言われているように、パリーグの多くのチームは、単純な興行という意味では成立していません。観客動員と広告収入と選手の給与のバランスでいうと赤字だからです。しかし、親会社が赤字分を広告費として補填することで成り立っています。その手法が駄目かというと、そういうことはありません。実際にそれだけの宣伝効果があるからです。プロ野球のチームを持つ事で、スポーツニュースや新聞でその名前が毎日読み上げられることが、おそらく CM 放映と同様かそれ以上の規模の宣伝になっているはずです。(ただし宣伝効果は “企業の知名度” に特化したものですが……。) 赤字分の補填をするのは、それに見合うだけの価値があるからなのです。 (厳密には、チームを手放す場合に発生するイメージダウンのデメリットなど、様々な要素とのバランスで決まるわけですが、ほんとうに割が合わなくて困っているなら手放してしまえば良いわけで、現在のところは割にあっていると考えるのが筋です。外見上は赤字であったとしても。)

この宣伝効果という観点から考えると、もしチーム数が多すぎては企業名が目立たなくなりますから宣伝になりません。すなわち現在の12チームから増えることは好ましくありません。12チームによる 6試合というのは絶妙な数字です。スポーツニュースでほぼ全試合の内容を伝えるのに丁度いいチーム数。4試合ではちょっと寂しいし、8試合だと一部を省略したくなるでしょう。
またチーム数が少ない事は、日本最高峰レベルを保つ事とも一致します。チーム数が多くなっては、1チームのレベルが下がるのは必然ですから。少数精鋭であること、これが必須です。

これらとは別に、日本のプロ野球を支える大きな要因が、読売ジャイアンツの存在です。日本における全てのスポーツの中でも、(定常的とはいえないサッカー日本代表の除いて) 間違いなくナンバーワンの人気を誇るこのチームの存在が、プロ野球をハイレベルな宣伝媒体として成立させる一番大きな要因かもしれません。いってみればこれも “少数精鋭” の極致と言えるかもしれません。読売 “だけ” が突出した人気を誇り TV でも高い視聴率を誇るのです。そして読売がいるからこそ、対戦するセ・リーグのチームは、その放映権料という莫大な収入を確保することができます。またスポーツニュースでプロ野球が取り上げられるのも、多数の読売ファンがいるからこそです。
読売が突出した人気を誇るようになったのはメディアとの連携による要素が大きく、プロ野球のシステム自体とは別の要因として成立したと思われますが、現状のシステムにおいては不可欠の要素であることは間違いありません。


一方、Jリーグのシステムは 『地域密着のクラブチームであることにより成り立つ興行システム』 です。
特徴としては、プロ野球の逆と言えるかもしれません。“広く”、“多く”、“多様な状態での自由競争” がキーワードです。そしてクラブチーム自体は、日本最高峰でなくてもいいのです。日本最高峰は、“サッカー日本代表” チームが実現するのですから。

Jリーグは主に欧州のシステムを参考に作られました。そのベースとなる考え方は、(実は欧州だけではなくアメリカでも一般的な) 地域密着という方法です。その方法を突き詰めると、結果的にはプロ野球と同じ事を “やらない” ということになりました。
まずJリーグが決めたのは、野球での読売にあたるチームをつくらないことでした。突出した全国人気チームは必要ない。その代りに、それぞれのエリアにだけ人気があるクラブを作り、それらの “数” を増やすことで、全体の規模を大きくするという方法です。100万人のファンがいるクラブをひとつ作るより、10万人のファンがいるクラブを10個以上作ろうという作戦です。
仮に、プロ野球の読売のような全国人気のチームがあったとします。(一時のベルディ川崎、かつては読売サッカークラブが、そういうポジションを目指しましたが。) 全国人気なのですから、地方都市でも人気があります。もし、その地方都市に全く新しいクラブチームを作ろうとする、あるいは元々ある小さなチームを大きくしてJリーグを目指す事にしたとします。しかし、その街の人たちは全国人気のチームを応援しているわけです。そんな中で、決して強いはずじゃない新しいチームが人気を持つことは難しいことです。地方でクラブチームを育てていく為には、全国人気チームは障害としかならないのです。全国にチームの数を増やしていくには、この全国人気チームを作らないという戦術は必然だったのです。

これは想像ですが、おそらく欧州では地域のクラブが成長してプロのクラブとなり、全国リーグになったのでしょう。イタリアなどでは確かに全国人気クラブもあるのですが、やはり歴史的には地元クラブが先に存在していたはず。また、アメリカでは、その地理的条件から全国統一メディアがありません (例えば日本でしばしば取り上げられる New York Times はニューヨークのローカル新聞です) から、突出した全国人気チームはなかなかできずに、地元チームが人気になります。
日本においては、これらのケースとは状況が違います。もしプロ野球における読売のような全国人気チームがあったとしたら、地方クラブチームを後から作るのは今以上に難しかっただろうと思います。

また、このJリーグのシステムの特徴は、プロ野球と違って日本最高峰でなくて良いことです。実はこれ、高校野球のシステムと似ています。高校野球は、ベースとしては地元の代表という地域密着的な要素があります。レベルが高いから、強いから応援するのではありません。地元だから応援するのです。

そして、もうひとつのポイントは多様な状態での自由競争です。J1、J2 と上位下位リーグを置き、入れ替えを行います。将来的にはもっと多くのリーグにしたいところ。お金のある強いチームは上位へ、お金の無い弱いチームは下位に落ちればいいのです。
極端な話をすると、Jリーグのチームで経営に失敗した場合は、倒産して消滅する可能性もあります。それでもいいのです。ほんとうに経営が駄目なら潰れるのが筋というもの。その代わり、別のJリーグチームが生まれ、トータルで前よりも増えていけば良いのです。


なお、僕は過去のコラムでなんども、Jリーグの理念を支持を表明していますが、プロ野球をJリーグ化することは反対です。既に別コンセプトで運営されているものをわざわざ変更する必要はないと思っています。というか、あまりにコンセプトが違うのでJリーグのようにするのは無理だと思っているわけですが……。

さて、後編では、それぞれのシステムについての現状と問題点を考えてみます。


少し補足を。プロ野球とJリーグ以外のプロスポーツリーグについてです。

Jリーグの成功 (特にJリーグ・バブル期の異常な人気) を見て、それを追いかけようとしたのがバレーボールでした。しかし、バレーボールがやったのはリーグの名前を Vリーグとし、企業名は残すがチーム愛称をつけるだけの実質は何も変わっていないというもの。Jリーグ風のプロ野球方式でした。
後のバスケットボールの JBL もチームのホームタウンを明確にするが、企業チームであることはそのままという、やはりJリーグ風プロ野球方式。

これら、あまりに中途半端過ぎでした。ナンバーワン人気を目指すのは読売がいるプロ野球が存在する限り難しいです。上手くやればある程度の人気を得る事ができたかもしれませんが、実質的な中身はそれまでと何ら変わっていないリーグで、特別な変化があるはずはありません。
今思えば、総合スポーツクラブを目指すJリーグに便乗してしまうと面白かったかもしれませんが、チーム自体が企業からの独立を嫌がる上に、地方が持つ既得権益 (今でもそれらの試合は、都道府県のバレーボール協会やバスケットボール協会主催で運営され、収益はそちらに入るはず) を放棄させることができなかったのでしょう。

あまり語られることはありませんが、これらの構造改革を実現したということだけで、サッカー関係者の努力がどれほど凄かったかわかります。まあ、これらも突き詰めれば 「日本がW杯で出場する為」、「日本でW杯を開催する為」、という日本のサッカー関係者共通の目標があったからでしょう。
当時、サッカーファンだけが知っていた “W杯の魅力” こそが、Jリーグを実現させた推進力であったかもしれません。