引き分け
2002/04/21
今までに何度か書いているので、とりたてて新しいネタでもないのですが、サッカーにおける引き分けについて書いてみたいと思います。
今シーズンからJリーグのうちのJ2で延長Vゴール方式が廃止になりました。延長なし引き分け制度の導入です。といっても延長なしの引き分け、自体は決して新しいルールではありません。Jリーグが出来る前はずっと延長なし引き分けのルールでした。世界中のサッカーのリーグでも同じです。ところがJリーグが出来た時に、延長Vゴール&PK戦方式という世界で例のないルールが採用されました。これは日本でプロサッカーリーグを作るにあたって、それまでのサッカーファン以外の人に受け入れてもらう為に、という理由で考案されたルールでした。
日本のプロスポーツと言えば、野球と相撲。どちらも引き分けはなく、延長戦や取り直しが行われます。日本人の多くは、“引き分け” というものに拒絶感を持つに違いない、そう考えられたのです。本当に日本人が引き分けを受け入れないのかどうかはよくわかりません。しかし確かに 「金払ってんだ、最後まで見せろ!」 というのはありそうな話。
ただし将来に関してはJリーグでも延長なし引き分けが基本になりそうです。今シーズンからのJ2のルール変更は理由は、J1に比べて試合数も多いということで選手の負担を考えて延長をなくした、ということになっています。ところが将来的にはJ1も延長をなくす方法です。ということで、延長なし引き分けを導入する理由を説明してみましょう。
一番簡単な理由が、世界の標準がそうだから。世界では延長なし引き分けが当たり前なのだからそうするべき、という理由です。日本代表が世界に出た時に同じ方がいいでしょ? ということです。もうこの理由だけで完結してもいいのですが、ちょっと解説をしておきます。
世界標準で90分の試合が行われているわけですが、Jリーグでは90分で決着がつかない時は、最大30分の延長の可能性があります。Jリーグでプレーする選手は残り時間10分であっても、試合はまだ40分あるかもしれない、と考えながらプレーしているわけです。では世界中のプレーヤーはどうでしょうか? 残り10分であると 「これが最後だ」 と力を使い切るプレーをするのではないでしょうか?
Jリーグでプレーする日本人選手。彼らは普段、残り10分の為のプレーをしていません。普段そういうプレーを毎週毎週行っていて、国際試合を行う時に突然残り10分で力を使い切るプレーができるでしょうか?おそらく、そんな器用なことは無理だと思います。頭でわかっていても、体が覚えた習慣はそうそう変わるものではありません。国際試合の残り10分で力を使い切るプレーをする為に、普段の試合でも同じ状況でプレーするべきです。
またこの残り10分の例に関しては、観客の立場でも違いで出てきます。ある試合で、ロスタイムに決勝点が入ったとします。それは確かに劇的な場面。けれどピッチにいた選手の多くは、延長に備えて力を温存、意地悪な言い方をすれば手抜きをしていたわけです。最初から90分間で終わるというルールであったなら、残り10分は最後の力を振り絞って全力で戦う時間帯になるはず。おそらく、現在の延長Vゴール方式より90分延長なしの方が、より激しいゲームを見ることができるのではないでしょうか? 実際、現在のJリーグの延長の試合の多くは、選手が疲れ切っていて、面白みのない単調な蹴り合いになっている試合が多いです。延長を廃止する方が絶対に面白いサッカーを見ることができるはずです。
さて、もうひとつの理由。それは、サッカー文化との関係です。
プロ野球とサッカーとは基本的なコンセプトが違います。プロ野球にはドラフト制度があって、戦力均衡が原則。(現時点でそれが蔑ろにされているのはご存知の通りですが。) 戦力が均衡しているのだから、どのチームも平等に優勝を狙うのです。どのチームも立場は平等、すなわち引き分けは、本当の引き分けです。
ところが、サッカーにはドラフトはありませんから戦力均衡というものはありません。強いチームがいて、弱いチームがいる。それが当たり前。強いチームと弱いチームが対戦すると、引き分けは、実質引き分けではありません。弱いチームの勝利、強いチームの敗北に等しいのです。
あるいは、勝ち点制度の理由でも、引き分けは単なる引き分けではありません。優勝争いで一歩リードしているチームと、優勝争いライバルチームとの対戦。この直接対戦の引き分け (お互いが勝ち点1を獲得) は、リードしている方には勝ちに等しい、リードされているチームにとっては負けに等しい引き分けです。
このように、ほとんど場合は引き分けであっても、実質の意味は単なる引き分けではないのです。
上で書いた 「金払ってんだ、最後まで見せろ!」 。すなわちこのスポーツ観戦方法が、かつての日本のスポーツ観戦方法なのでしょう。応援というよりは、見物。僕が過去のコラムで何度も書いてきたのが、サッカーの観戦方法の基本はそれとは違うのだ、ということです。自分たちの地元のチームを応援する。そのチームの力、現在の状況を考えて応援する。具体的には、相手が格上のチームであるなら、引き分けでよしとする。その為の守備を固める、一般的には魅力のないサッカーをしてもそれを認める。格下相手なら圧勝を期待する。単なる試合見物でなく、その時々の状況を理解した応援をすること。それが地域密着を原則とするスポーツ、サッカーに相応しい観戦方法なのです。
そういう意味では、こういったスポーツ観戦方法が理解されていなかったであろうJリーグの開幕時点で、延長Vゴール&PK戦方式が採用されたのは正しい判断であったということかもしれません。