サッカーマンガについての考察

2001/10/14

以前、「マンガと社会」 や 「マンガに見るスポーツの進化」 に、スポーツとマンガの関係について書いたのですが、その中でもサッカーマンガについて詳しく考察してみましょう。
スポーツを題材にマンガ化するというのは、その競技の面白さをどうやって “画” として表現するかという問題があるのですが、それが全てではありません。どんなスポーツマンガであろうと、そのスポーツをしている “画” だけで出来ているわけではないからです。必ず主人公、その仲間やライバルが登場し、彼らの活躍の舞台である試合(大会) があります。試合だけというわけにもいきません。試合以外にも、様々なエピソードがないと物語は成立しません。

そういったことを考えると、サッカーマンガは他のスポーツマンガに比べて有利な点があるように思えます。それは、ドラマを演出する、様々な舞台が揃っているということです。

その前に、野球マンガの状況を考えて見ましょう。
野球マンガの場合、草野球や同好会での試合では、どうしても物語的な限界があります。勝利や敗北がドラマ的な意味を持たないからです。やはり、ドラマとして最も選ばれることが多いのが高校野球での甲子園大会またはその予選です。(「ドカベン」、「キャプテン」、「風光る」、「
MAJOR」、「DREAMS」 など。中学生を主人公とした 「プレイボール」 なども例もあります。) 勝ち進んで甲子園 (あるいはそれ相当の全国大会) へ。一度負ければ終わり。そういうドラマ性を、ストーリーに組み込むわけです。
1試合負けたからといっても、たいしてドラマにならないプロ野球を舞台とする場合は、試合以外の人間ドラマをメインに持ってくるのが常套手段でしょう。(「
野球狂の詩」、「REGGIE」 など。「巨人の星」 も魔球の部分を除くと、ライバル対決という人間ドラマといえます。) 最近は、MLB (メジャーリーグベースボール) に挑戦するというマンガも見かけるようになりました。
他の競技に関しても同様で、必然的に中学や高校が舞台のドラマに選ばれることが多いです。(「スラムダンク」、「
テニスの王子様」、「リベロ革命!!」 など。) 実業団が舞台というものもありますが、かなり少ないですね。(「ヨリが跳ぶ」。…他に思いつかない。)

さて、サッカーの場合は、他の競技とはちょっと違う特徴をもっています。それは、同じく高校生を主人公とする物語であっても、単純な全国大会出場を目指す以外の要素があるのです。具体的に説明しましょう。
高校生、中学生を主人公とするサッカーマンガ、「
ファンタジスタ」、「ホイッスル」 の主人公達は、学校のチームとしての全国大会の他に、同時並行してトレセン制度による地域代表の練習や試合をしたり、ユース代表に選ばれたりしてそちらで国際大会の試合に出場します。プロ選手においても同じです。「俺たちのフィールド」 や 「Jドリーム」 の主人公達は、自分たちの所属するクラブチームの他に、日本代表として他国の代表と戦うわけです。

このように、サッカーという競技を含む組織が多様な面を持っているので、マンガの題材としてもそういった部分を利用できるのです。それに、単に形式が多様というだけではありません。付随するエピソードも他の競技の追随を許しません。

サッカーという現実の世界が持つ複雑さを、マンガが取り込んだ例を紹介しましょう。
俺たちのフィールド」 の主人公は、Jリーグ 2部 の YAMAKI というチームの FW でした。(ちなみにこれ、明らかに当時 JFL でJリーグ昇格を争っていた YAMAHA、つまりヤマハ発動機のFW、中山雅史をイメージした選手だったと思われます。) この物語の中には、チームの存続問題、Jリーグ昇格までの戦い、などのエピソードを盛り込み、主人公の日本代表入り、ワールドカップ予選、ワールドカップ本戦、とドラマを組み立てていきました。途中で主人公が FW からボランチにポジションがコンバートされるのも、他の競技に少ないドラマをエピソードとして組み込んだと言えます。

この複雑さは、スポーツ物の中で群を抜いた複雑さだと言えるでしょう。ワールドカップ予選、Jリーグ昇格、残留のドラマなど、劇的なドラマを作る題材にはこと欠きません。


さて、ここまで書いてきたように、サッカーが他の競技以上に様々な舞台を持つ事から、マンガ化にするにあたって、様々なドラマを作りやすいのは間違いありません。しかし、実はここには大きな落とし穴があったのです。

特に分かりやすい例を挙げると、その 「
俺たちのフィールド」 におけるワールドカップ出場決定のドラマはなかなか感動的ではあったのですが、本物のワールドカップ出場のドラマには遠く及ばなかったのです。あのフランス大会予選を通じだ本物のドラマ、「もう駄目だ」 と誰もが思ったグループリーグの苦戦から、なんとかグループ 2位に残り、アジア 3位決定戦でのVゴールによる決定。お話自体がマンガでは恥ずかしいくらいの出来過ぎのシナリオ。しかもそれに付随するエピソード、劇的な監督交代劇、UAE 戦でのサポーターの暴動騒ぎ、ジョホールバルで 2万人の日本人が応援、など、マンガでは描けない規模の物語だったのです。
その後のワールドカップフランス大会もそうでしょう。カズの代表落選のドラマや、本戦での 3戦全敗、チケット不足の悲劇。マンガにするには予想外のことばかり。
毎年繰り返される Jリーグの昇格、降格のドラマもそうです。例えば 2年続けて勝ち点差 1で昇格を逃した大分。マンガでは 2年続けての昇格失敗なんて、ちょっと描けない物語でしょう。

及ばないというだけではありませんでした。追い越されてしまうのです。「キャプテン翼」 ではワールドユース優勝という夢物語が描かれます。ところが優勝こそできなかったものの、1999年ワールドユース準優勝。それから、まだマンガが一度も描いたことがなかった、A代表の国際大会での準優勝。( 2001年コンフェデレーションズカップ。)
その後、「キャプテン翼 」 では、各選手が海外クラブに所属していくわけですが、ご存知のように日本の若手選手が次々に海外クラブへ移籍。もはや夢物語ではないのです。


ドラマを作るネタに恵まれているサッカー、その分だけ漫画家は現実のドラマに負けるかもという危険性を伴っています。


面白いサイト発見。
ヨーロッパ各国サッカーリーグおよびJリーグのチームのリストがあるのですが、日本人の在籍選手と、キャプテン翼の登場人物の在籍情報が記録されています。

ヨーロッパ&Jリーグチーム一覧 (キャプテン翼戦いの軌跡 より)