不文律

2001/06/12

奇しくも、日米でほぼ同時期に、野球に関する “不文律” が話題になりました。

日本での不文律はこんな話。
ヤクルト対読売。ヤクルトが 7点リードで迎えた最終回の攻撃中、打席に立った藤井投手の打球は内野安打になりそうな当たり。一塁へ全力で走った藤井選手に対して、読売ベンチからの野次。「試合が決まった後に、投手が打つのは非常識だ」 と。

この話は、“常に全力プレー” を主張する野球関係者から激しく非難されました。まあ “常に全力プレー” はともかく、実際この場面の状況は、大量点差があるとはいえ今の巨人相手には 1点でも多くとっておきたいところ。ランナーもいたわけで、打って全力で走るの当然の場面。巨人ベンチからの野次は、いいがかりと言えるものです。第一、巨人は今年の試合で 6点差ありながら送りバントをした試合があり、それを考えても今回の野次は不当なものです。というより、この野次は単に負けてることからくる八つ当たりの野次でしょう。

この話はともかく、日本のプロ野球において試合の決まりかけた終盤に、投手が打席の後ろに立ち見送り三振する姿はよく見る光景。はっきり言ってしまえば “常に全力プレー” というのは建て前です。というと、何か悪いことをしているようですが、それほど悪いことだとは思いません。無用に試合を長引かせて疲れるのは馬鹿らしいし、投手が出塁して体力を消耗したり、体が冷えたりするのを避けるという、合理的な考えだと思います。
(ただし、読売の桑田投手などは、「わずか数回の出塁で体力の消耗などは、プロとして恥かしい」 と主張しています。それはそれで素晴らしい意見ですし、実現できるプロフェッショナルは選手はそれを評価したいところです。)

これは別に日本の野球だけの話ではありません。NBA だって試合の決まった終盤は、無理なファールプレーをせずに、淡々と時間を流すプレーをします。それを持って手を抜いていると非難するのは間違いだと思います。もちろん、みているファンが不快になるようないいかげんなプレーは許されませんが、やはり選手、ファンともに合意に至るポイントがあると思うのです。


さて一方、アメリカでの不文律はこんな話。
メッツの新庄選手が、大量リードの試合でカウント 0-3 からヒッティング。これは、MLB においては非常識なプレーだったそうです。さらに、日本なら野次ですんだところが、あちらだと報復死球になるのが常識なんだそうです。実際に報復は行なわれました。しかし、新庄はその “常識” を知らなかったということで、メッツの選手が擁護に回り、相手チームとの乱闘騒ぎにまで至りました。
この事件は、アメリカでも話題になったらしく、これがきっかけとなって MLB における不文律が USA トゥデーで記事になりました。MLB のおける不文律は以下のようなものなのだそうです。

・無安打無得点試合や完封試合を防ぐためのバントをしてはいけない
・味方が故意死球を受けたら投手は報復していい
・大量リードで盗塁をしてはいけない
・捕手のサインを盗み見てはいけない
・大量リードでカウント0-3からスイングしてはいけない
・投手は本塁打でベース一周する時にはしゃいだ選手にぶつけてもいい

本塁打でベース一周する時にはしゃいではいけないというのは、新庄の初ホームランの時にバットを放り投げたことでも話題になりました。その時は報復には至りませんでしたが。
それから過去にアマチュアの大会で、日本チームが確かオーストラリアとの試合で、大量得点差の時に盗塁したことで、報復死球を受けて話題になったことがあるはずです。

日本人の感覚で言うと、いくらリードしようと全力で戦うのが礼儀。手を抜くなんてのは失礼に当たります。MLB の常識とは全く逆です。


これら日米の不文律”を比べてみて不思議なことに気が付きます。 MLB の方が、相手への気遣いなど、他人を気にすることから来る内容になっているのです。日本の方が、体力を消耗しない為にわざと三振するという、合理的な理由であったり、相手がどういう状況であろうと全力を尽くすなど自己を中心に置いている常識なのです。(ただしこれは、他人を軽視するということではありません。相手も同じように全力でやっているという対等の関係を前提としたものです。)
このあたり我々が考えがちな、日本の方が他人に気を使い、欧米の方が合理的な判断をする、というのは先入観である可能性が高いように思います。


まあ、文化論はともかく、実際に国際試合をする場合には、これらの不文律 の違いはちょっとやっかいです。
これ以外にも、実はシドニー五輪の野球で、日本代表チームは、現地でかなり不評を買ったという実績があるのです。日本代表チームは、得点した後などに景気付けとして全員で、自分達が考案したポーズをしていたのですが、それが現地などでは失礼なポーズだったのだそうです。これも無知から生じた不幸な出来事だったのですが、野球という国内で閉じた状態が続いた種目では、これからもこういったことが起きてしまう可能性があります。


藤井投手に対する巨人ベンチからのヤジに関する記事。

藤井 九回無念の降板も巨倒5勝

ヤクルト藤井、マウンド涙の純情

非情巨人、“涙くん”を再び泣かす! --- これを読むとちょっと八つ当たりではすまないかも。

新庄選手への報復行為に関する記事。

新庄に報復死球!あわや乱闘

「新庄を守れ!」で団結、メッツ浮上!

(追記 2001/06/26)

メジャーのアンリトン・ルールの解説がありました。

イチロー・新庄悩ますメジャーの“掟”