シンセサイザーの話

2000/05/21

シンセサイザーって言葉は、どの程度一般的なんでしょうね? 音楽やっている人じゃなければ知らないのかな?
かたっくるしく日本語でいうと「音声合成装置」なんですが、要するにバンドなんかで使われるキーボードのことです。昔と違って最近のモデルは、ピアノの音やオルガンの音に、スイッチひとつで切り替えることができます。

このシンセサイザーについては、忘れられない思い出があります。ちょっとそれをお話しましょう。

僕がシンセサイザーというものを知ったのは、中学生に入ったばかりの頃だったと思います。結局、中学 3年生の時に手に入れることができたのですが、それまではシンセサイザーに関する本や雑誌を何冊も買ってきて、想像に胸膨らませる毎日でした。
シンセサイザーとは音声合成装置ですから、それらの本の中にはシンセサイザーの解説だけでなく「音の成り立ち」の仕組みが載っているものもありました。
そして、ある本にこんな話が書いてあったのです。

まずは音の成り立ちの話。
楽器の音というのは、基音と倍音からできています。
基音とは、その音の音程を示します。基本周波数。
倍音はその基音以外の周波数の音です。これはひとつではなく、たくさんの周波数の音。
簡単にいうと、基音でその音の音程が決まり、それ以外の周波数、すなわち倍音がどうゆう構成になっているかで、いわゆる音色が決まるのです。

“音叉(おんさ)”って知っているでしょうか? 楽器の調音に使う道具で、棒の先が U字型になっている金属の固まりで、叩くと“ポー”という音がするもの。ヤマハヤマハ発動機のマークが“音叉”3本の組み合わせになっています。この“音叉”から出る音が、ほぼ基音だけの音です。倍音が含まれていない音。波形でいうと単純なサインカーブ。

実は単純なサインカーブは味気ない音色です。基音だけでなく倍音が含まれていないと心地よくありません。自然界の音には、ほとんど間違いなくたくさんの倍音が含まれています。心地よい音こそ、複雑な倍音の(実はある特定のルールに並んでいる)組み合わせでできているのです。
さて、基音はサインカーブといいましたが、倍音はどうなのでしょうか?
倍音も実はサインカーブの組み合わせです。沢山の周波数のサインカーブがいろんな音量バランスで組み合わせてあるのです。
つまり、すべての音は、基音と倍音のたくさんのサインカーブの組み合わせで出来上がっているのです。

どうですか?ここまで理解できましたか?
どんな複雑な音であろうと、それは“音叉”から出るような“ポー”という単純な音の組み合わせで出来ているのです。
ということで、理論的にはこんなことが考えられるのです。

目の前にピアノが一台あります。そのうち、鍵盤をひとつ叩きましょう。“ポーン”と音がしましたね。さて、今度は基音と倍音にあたるだけの“音叉”を沢山用意します。ここで目をつぶって下さい。そしてその沢山の“音叉”をそれぞれ適切な強さで一斉に叩きます。“ポーン”と音がしました。想像できましたか?その聞こえた音は、ピアノの音と全く同じ音がするのです。

皆さんがこの話を聞いてどう感じるのかはわかりませんが、中学生だった僕にとっては、それはそれは衝撃的な話でした。あの深みのあるピアノ音が、あんな単純な音の組み合わせで再現できるなんて!ピアノだけじゃなく、聞こえてくるすべての音が“音叉”の組み合わせで再現できるなんて!
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、僕にとっては人生観が変わるといっていいくらいの出来事でした。

ところが、自分がどんなに感動しても、人とは価値観が違うもの。“音の秘密”を知った僕は、その感動を味わってもらいたいと、説明したくてたまらないんですが、大抵の人は、基音や倍音のところで飽きてしまうわけで。まあ中学生で上手く伝えられないというようなこともあったかもしれません。結局誰にも伝えることができず、残念な思いをした記憶があります。

とはいえ後日談があって、上に書いたようなお話、のちのとある試験の小論文を書く際のネタとして使うことができたので、その“借り”は返せたかな、と。


もちろん、上のピアノの音の合成の話は単純化した理論上のお話。
実際は“音叉”を並べるだけではピアノの音になりません。音の減衰していくスピードをコントロールして時間的な変化をつけなければならないし、ピアノの打撃音の部分は実際のところ音叉では再現できないでしょう。
まあとにかく、理論上は何らかの方法で音が再生できるということは確かです。

あ、でも今となってはシンセサイザーが特別な機械ではないんでしょうね。というのは、今はエレクトーンなどのたいていの電子楽器の鍵盤叩くと、リアルなピアノの音が出るわけですから。しかし、当時はエレクトーンからは、絶対にピアノの音は出なかったのです。だからシンセサイザーというものは魅力一杯の夢の機械だったのです。ま、実際のところ、当時のアナログのシンセサイザーは、それほどリアルなピアノの音は出なったわけですが。


ちょっとおまけのお話を。こちらはちょっとレベルの高いお話です。

この音の仕組み(基音と倍音)の話を拡張させていくと、“音色”と“和音”は実は同じものだと考えることもできますね。
倍音というのは本当は基音(基本周波数)の n倍の周波数の音ですが、実際の音色は非整数倍音が含まれていても構いません。特定の非整数倍音(2より小さい値)が基音と同様のレベルを持つような“音色”があれば、それは“和音”に聞こえるはずです。
つまり、ひとつの“音色”も、ひとつの“和音”も、全てあるひとつの周波数成分の話ですから、物理的にはそれらに全く違いはないということです。

また、時間軸に着目して考えると、“音色の時間変化”は“和音進行”と同じだということができます。どちらも周波数成分の時間変化ということでは違いはありません。