倉木麻衣の楽曲について

2000/07/23

倉木麻衣って宇多田ヒカルのパクリだ」という論争があったようですね。確かに真似ている部分はありそうです。それから海外でレコーディングしてる甲斐もあって、聞こえる音は同じような音です。しかし楽曲的特徴は、僕の考えでは似ても似つかぬ物だと思います。
ということで、今回は
倉木麻衣の楽曲の分析です。例によって、音楽理論を知らない素人の戯言なんですが、それほど大外しはしてないだろう、と思っているのですが……。


さて、僕が
倉木麻衣を知ったのは、( 00/01/22 の日記にも書いたのですが、) 今年の初めのレコード店での試聴コーナーでした。この時の感想は (日記に書いた通り) 「間違いなくヒットする」 というものです。
流行音楽についての雑記 (2000年春編)」に書いた通り、1st シングルの 「Love、Day After Tomorrow」 は名曲である、という考えです。極めて洋楽的なサウンドでした。(今思えば、エレピのバッキング、ディレイの使い方とか、かっこいいアレンジに気を取られ過ぎていたかもしれませんが。) 確かにこの時点では、僕も宇多田ヒカルと同様の洋楽のセンスを持ったJ-POPである、と思いました。

ところが、ここからが問題なのです。
2nd シングル、3rd シングルは、歌謡曲になってしまったのです、と言ったら分かってもらえるでしょうか?
なんとか具体的に説明してみましょう。

例えば「Secret of my heart」って結構売れたようですが、この曲って R&B だと思いますか?この曲のサビのメロディは信じられないくらい単純です。四分音符4つ、八分音符4つ、そんな組み合わせ。
シンコぺーションも見当たりません。まるで童謡です。カラオケで歌って下さいと言わんばかり。その単純な音符の並びに「〜Secret of my heart」とか「〜waiting for a chance」という英語を乗せます。典型的な歌謡曲メロディ。その言葉の乗せ方は、とても日本英語的な感覚の、僕的にとってはとてもかっこ悪いと感じられるものです。

宇多田ヒカルとの対比という意味では、「Stay by my side」を取り上げましょう。倉木麻衣のメロディへの歌詞の乗せ方は、上記の「Secret of my heart」のように、音符数にきっちり合わせた単語を持ってくる傾向があると感じました。僕が「流行音楽についての雑記 (1999年春編)」で、宇多田ヒカルについて指摘したことと全く対極のやり方です。それが最悪のケースとして表れているのが「Stay by my side」の最後のリフレイン。字余りの単語を無理矢理詰め込んでいるのです。メロディをぶち壊すほどに。僕の感覚だとカッコ悪い、最低、としか言いようがないです。
宇多田ヒカルは、メロディのノリを崩さない為に、日本語の文節をぶち壊しました。倉木麻衣にそういう意識はありません。おそらく「このメロディに歌詞を作りなさい」と言われて、その結果、数が合う言葉が見つからないと「字余りになっちゃったけど仕方ないか、詰め込もう」で済ませてしまう人なのです。この辺りが「似ても似つかぬ」と思う根拠です。

倉木麻衣の楽曲に関しては、もう一点、どうして見過ごせない特徴があります。それは「サビに入る時の転調」です。1st、2nd、3rd シングル共通です。
転調というのは、ある意味では確かに “技” です。転調を使うことで、緊張感を持ったサビへの導入ができますから、曲の盛り上がりが期待できます。しかし、
倉木麻衣における “ミエミエの” 転調については、僕は「あざとい」と感じます。いかにも狙った作ったという感じ。酷い、やり過ぎだ、そう思います。
転調のテクニックが、歌謡曲でも一般的になったのはいつの頃でしょうか?確かにこれは “技” ですし、効果的だと思います。しかし、いつの頃からか誰もが真似して作るようになりました。僕の感覚では、いつだったかシャ乱Qがやった曲 (「空を見なよ〜」とかいう歌詞のやつ )、それがとても不自然でカッコ悪い転調だったのを聴いて以来、もはや凄い“技”とは思わなくなりました。むしろ 「こうすれば売れるだろう」 という計算が見えるあざとい “技”。しかもその誰でも出来る “技” を、たまにならともかく、連発するなんてカッコ悪過ぎです。

なお、ここで述べているのは「サビに入る時の転調」ですから、ユーミンやドリカムが行った転調 (「音楽の進化」参照のこと) とは少し違います。あちらとは難易度が全然違うと思いますし、そもそも、素人に気づかせない転調こそ、腕の見せ所ではないでしょうか?

(追記 00/08/19)
倉木麻衣の転調がカッコ悪いと思った理由を書きました。「転調」参照の事。

宇多田ヒカルはこのような安易な転調はしてません。(もしかしたらしているかもしれませんが、だとしたら僕が気がつかないさりげないハイレベルなことをやっていることになります。) ですから、この辺りも似ているということは全くありません。

ということで、1st シングルが奇跡的に名曲だっただけで、
倉木麻衣は「歌謡曲の人」だと見なすことにしました。比べるのは、ZARD浜崎あゆみであって、宇多田ヒカルは比較対象ではない、と。
実際のところ、楽曲の種類としては
ZARD の類と見なすのが適切なところだと思うのですが、いかがでしょう?歌詞だけ書いているというのも同じだし。

(追記 00/07/30)
具体的にイメージしたらわかりやすいかもしれません。
ZARD の坂井泉水が宇多田ヒカルの 「Automatic」 や「First Love」を歌うのをイメージしてみてください。僕はそれらは合わないと感じます。
一方、同じく坂井泉水が
倉木麻衣の「Secret of my heart」や「Stay by my side」を歌う場合は?僕はこちらには全く違和感を感じないですね。


ところが、実は話はそれほど単純ではありませんでした。4th シングルは、洋楽に戻ったのです!
これ、アルバムを購入して調べたら謎が解けました。作曲者が違うのです。どうも
倉木麻衣の売り方そのものに、ある作曲者が関わっているようです。クレジットによると、アルバムの11曲中、最初の 3枚のシングルを含む 5曲が Aika Ohno という作曲者によるものです。
はっきり言いましょう。僕がこのアルバムを聴いて「お?これは洋楽じゃん。」って思う楽曲が数曲あるのです。そして、それは Aika Ohno ではない作曲者によるものなのです。
そうなのです、歌謡曲だったのは、
倉木麻衣というより Aika Ohno だったのです。

どうも、
倉木麻衣を売り出す戦略の時点で間違いがあったように思います。 Aika Ohno は、純粋な日本のポップス、かつてニューミュージックと呼ばれた音楽の流れの上にいるライター。彼女の曲を倉木麻衣のカラーとして売るはずだった。しかし、宇多田ヒカルの成功に見習って、サウンドは今風の物にしたかった……。
実際、アルバム中には、質的に
宇多田ヒカルと同じであり、歌い方など酷似している曲があります。(YOKO Black.Stone によるものなど。) 「宇多田ヒカルの曲だよ」といわれたら騙される人もいるでしょう。これは、洋楽メロディに、洋楽サウンドだから、本当に似ているのです。


まあ、一般のファンに人にとっては、
ZARD が売れるように倉木麻衣も売れるでしょう。しかし、それは宇多田ヒカルが売れるのとはちょっと質的に違うのです。宇多田ヒカルは、僕が「流行音楽についての雑記 (2000年夏編)」などで挙げているアーティスト達と同じ、先へ行ってるサウンド。倉木麻衣は旧来の歌謡曲系サウンド。それが悪いと言うわけではありません。しかし、うわべだけ今風の音になっているというだけで、それらの音楽が混同されるのは、僕的には「それは違うだろう」と、一言言わずにおれませんでした。

まあ個人的には、ルックス良し、声良しの彼女には、スタッフを総入れ替えして、僕が満足できるような路線変更をお願いしたいです。……だけど、あの歌詞の乗せ方にはきっと満足できないだろうな。やっぱりいいです。歌謡曲路線で頑張って下さい。


これを書いた後で、CD のライナーノーツ読み直したら、 Aika Ohno = 大野愛果 であることに気がつきました。(邦楽でこういうライナーノーツがあるのって珍しいですね。)

早速「大野愛果」でネット検索してみました。すると全ての疑問は氷解。
本人の紹介は見つけることが出来ませんでしたが、作曲者としてたくさん名前が出てきます。で、どうやら
ビーイング系の作曲者みたいですね。WANDS、DEEN、大黒摩季などに、楽曲提供してます。あ!ZARD にも書いてるじゃないか!

あれあれ!なんだぁ、よくよく調べたら、
倉木麻衣ってそもそもビーイング系のアーティストなんですね。なんてこった……。
もはや問題は
ビーイングにあり、というのは間違いないです。自分達のお抱えライターを起用しつつ、新しい売り方を模索して、宇多田ヒカルを真似るという手法を持ち込んだという……。酷いです。

いや、ともかく、
倉木麻衣 = ZARD という結論に自力で辿り着いたことについては、まあ自分のセンス間違ってないんだなって自信持ちましたよ。
えっ、もしかして、そんなの当然?


面白いサイトを発見。

現代日本音楽を理解するためのキーワード

倉木麻衣パクリ発言について


(追記 2000/12/19)

さて、NHK 朝の連続ドラマ「オードリー」の主題歌、Reach for the Sky ですが、上記の僕の気に入らないメロディへの歌詞の乗せ方がありました。2番のサビの 「高く広がる空に〜」 というところ。僕的にはメロディぶち壊しの歌詞の乗せ方だと思います。宇多田ヒカルは絶対やらないだろうし、浜崎あゆみもやらないでしょう。

ところで
日系エンターテインメント2000年1月号の特集における倉木麻衣インタビューに驚くべき内容が。作曲の大野愛果とは直接会ったのは一回きりとのこと。えっ!じゃあ楽曲作りで共同作業して作り直したりしないの?
そして、スタッフのコメント 『作詞につたない部分があっても 「やや下手な方が10代としてのリアリティがある」 と考え、あえて手を加えていない』 だそうです。つたないことはわかってるのね……。

うん、そういう考え方を認めないわけじゃないです。でも、ほぼ完成品である宇多田ヒカルと、意図的に並べるような売り方をするのはやっぱりおかしいよ。