アビスパ福岡ベストメンバー問題
2000/04/30
一般的にはたいして話題にならなかった話かもしれませんが、Jリーグに興味を持っている方ならご存知でしょう。アビスパ福岡ベストメンバー問題。
念のために簡単に説明します。
Jリーグのチャンピオンを決めるリーグ戦と平行して、Jリーグナビスコカップが開催されます。そのナビスコカップの 1回戦で、アビスパ福岡は、リーグ戦とは先発メンバーを 10人入れ替え、しかも公式戦初出場という選手を多数含んだ布陣で試合に臨みました。
ところが、Jリーグの規約には以下のような条項があります。
「Jクラブは、その時点における最強のチーム(ベストメンバー)をもって前条の試合に臨まなければならない」(第42条〔最強のチームによる試合参加〕)
この条項にアビスパ福岡で抵触したということで制裁に関する裁定委員会が開かれることになりました。最高1500万円の罰金が課せられる可能性があるとのことです。
さて、この事件はサッカーファンの間で論争を生みました。
論点はいくつかに分けられます。
まずはベストメンバーとはという問題。
そもそもベストメンバーとは何か?ベストメンバーを決めるのは誰なのか?福岡のメンバーはほんとにベストメンバーではないのか?実際、福岡はその試合に勝ったではないか!
もうひとつは、カップ戦の価値の問題。
サッカー先進国では、試合によってメンバーを変えるのは当たり前では?J1残留がかかるリーグ戦がカップ戦より優先されるのは当然では?
その他に、こんなものも……。
同様にメンバーを落としたジェフ市原などが不問なのは不平等では?(ただし、ジェフ市原は警告後にメンバー入れ替えを行っています。)
こうやって騒ぐこと自体がJリーグのイメージダウン。騒ぐべきではなかった。
ネット上の意見を見ると、多くのサポーターは福岡に同情的でJリーグには批判的のようです。
さて、これらの問題について考えてみたいと思うのですが、ベストメンバーの定義の議論は、実は本質的な問題では無いと思います。それよりも、アビスパ福岡がやりたかったこと、リーグがやりたかったこと、を整理してみましょう。
アビスパ福岡がやりたかったこと。
それは、リーグ戦の優先。昨年ギリギリのところでJ2降格を免れたアビスパ福岡としては、たとえ優勝してもJ1残留には関係ないナビスコカップよりもリーグ戦を優先したいのは当然。しかも残留争いをしなければいけないくらいだから、選手層が厚いとはいえないチーム。過密スケジュールの中、主力選手に疲労が溜まるのは避けたい。さらに、選手層を厚くするために、若手選手に、失敗があったとしてもチームとしての損失が大きくないリーグ戦以外の試合で出場機会を与えたい。
この考えを極端に実戦すれば、必然的に、リーグ戦は主力選手、カップ戦は経験の浅い若手ばかりの選手、になります。
では、Jリーグ側がやりたかったこと。
これは明らかです。Jリーグと名のつく試合は、リーグ戦であろうとカップ戦であろうと“手抜きに見えない”試合が行われること。リーグ関係者の発言で「日本はサッカー先進国ではない。今は歯を食いしばってやらなければならない」という内容の発言があるように、選手を温存して“手抜き”と“勘違い”されてはたまらない、ということなのです。これは、単にその試合を見に来た観客に対しても重要ですが、今年から試験販売がはじまる「サッカーくじ」を考えてもこの“勘違い”は恐いです。
話を整理したところで、ここからは僕の考えです。
理想は、アビスパ福岡のやろうとしたことです。
チームの事情によっては、カップ戦よりリーグ戦偏重であっても構わない。場合によっては“捨てゲーム”があっても構わない。そう思います。そして「アビスパ福岡の賭け」などで書いたように、サポーターであるならチームの事情を理解するべきです。チームにほんとうに全試合を全力で戦う体力がないならば、戦力を絞っても構わない。そしてそれをサポーターは支持するべきです。
また、アウェイチームが戦力を落としてくれるのは相手チームにとっては“手抜き”ではなくむしろ“ラッキー”なこと。ホームチームとしては、勝利を収める可能性が高まるのですから。(ちなみに、個人的には、チームにとって全てに勝る最も大切なことは、ホームゲームで勝つことだと思います。)
しかし、今の日本において、現実としてはこれらは難しい……。スタジアムを訪れるのはサポーターばかりではないのです。
例えば、こんなケースを考えましょう。
年に数試合だけ行われる、ジュビロ磐田の九州での試合。そのチャンピオンチームの試合を、サッカーに興味を持ち始めたばかりの九州のサッカーファンが待ち望んでいたとします。彼はジュビロの擁するタレント達を生で見ることを楽しみに待っていました。ところが、この試合を重要視しなかった磐田の監督が、中山、高原、藤田、奥、福西、といった主力選手を起用しなかったらどうでしょう?
「なんだ、中山も高原も、俺の知ってる選手は出てないじゃないか?手を抜いているのではないか?」
こう思い、Jリーグに対し悪い印象を持っても仕方ありません。
僕はここ数年、毎年数人ですが、初めてサッカーを見に行くという人をスタジアムに誘って連れていっています。彼らに対し「残念だけど、あの選手は怪我してるので欠場だよ」と説明することはできますが「この試合は重要じゃないので主力選手は休ませてるんだよ」なんて説明、やっぱり出来ません。
これは、実はサッカー文化の定着の問題です。野球においても同じように、巨人の、松井、高橋らが欠場したらきっとファンはがっかりするはず。しかし、上原(ピッチャー)が毎試合出てこないことはみんな知っています。サッカー文化が根付いていて、この過密スケジュールの中、カップ戦で若手選手中心に起用されることがある、という文化が定着すればなんてことはない問題なのです。
余談になりますが、現在Jリーグの多くのチームが、何試合かホームタウン以外の場所でホームゲームを開催しています。これがリーグの姿勢を表していると考えていいと思います。本来なら、ホームタウン以外で試合をする必要はないと思います。日本国内の、Jリーグのチームがない地域にプロのサッカーの試合を見せてあげたい、これがJリーグ側の意向であることは間違いありません。これが「日本はサッカー先進国ではない。今は歯を食いしばってやらなければならない」という言葉です。いろいろ批判されているJリーグや日本サッカー協会ですが、こういった“思い”は認めたいと思います。
僕の考える、今回の問題の結論はこうです。
理想は前に述べた通り。しかし、現実はそうではありません。未だに初めてサッカーを見に行くという人はたくさんいます。やはり、看板選手である中山は怪我でもしていない限り、お客さんの為に毎試合出てもらわなければなりません。(きっと中山自身はそれを一番よくわかっているはず。)
はっきり言って、福岡の主力選手が出場しようがしまいが、たいした問題ではありませんでした。黙っていたら今回の事件は話題にならなかったでしょう。しかし、ジュビロ磐田など、リーグの看板選手を多く含むチームが福岡と同じ事をやったとしたら、それはリーグ全体にとっては好ましいことではありません。そして、ジュビロ磐田にそれをさせないために、あの規約が必要なのです。
そして、その為に、やはり福岡にも規約を守ってもらわなければいけないと思います。でもそれは、見た目上のほんのちょっとしたことで構わなかったと思うのです。そうすれば、福岡のケースは見過ごしてもよかったはずです。同じように警告されたジェフ市原が 3人だけ主力を参加させ、不問になったように。福岡のフロントに、ほんの少しだけ融通をきかせてもらえれば、なんてことはない問題だったはずなのです。
とはいえ、経済的に裕福とはいえないチームへの制裁金は、極力避けて欲しいです。厳重注意くらいにしてもらえないでしょうか。
この問題についての様々の web page です。
大住良之氏のコラム
西村幸祐氏のコラム
中倉一志氏のコラム
Moinichi INTERACTIVE サッカー特集ディベート
ちょっとおまけなのですが、ナビスコカップを軽視しないようにするなら、その結果をJリーグ残留/降格に影響させるのはどうでしょう。もちろん、組み合わせ抽選の運・不運がありますから、安易な勝ち点 3は駄目ですが、ベスト8入り、ベスト4入り、などに 2点づつくらい勝ち点を与えるというのが適当だと思います。
最後に「あの 2点が大きかった」ってことになって面白いと思うのだけど。
(追記 2000/05/29)
雑誌で読みましたが、過去にフランスリーグで同様の事件があり、現在では(うろ覚えで正確ではないですが)「最近リーグ戦に出場した選手を7名以上含むこと」というルールとして明文化してあるそうです。
このような明文化が最も適切な方法でしょう。