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走れ!バカップル列車
第85号 西武特急ラビューとSLパレオエクスプレス



   一

 その衝撃的なイメージイラストを最初に見たのは二○一六年春ごろだったと思う。ネット情報だったか、鉄道雑誌だったのか定かではない。しかしイラストは一度見たら忘れられないものだった。先の丸い銀色の棒が突進してくるかのような車輌。レッドアローに代わる西武の新しい特急電車だという。
(こんなものが鉄道車両としてありえるのか?)
 というのが第一印象であった。電車の先頭がパチンコ玉のように球体なのである。おもちゃとかSF映画ならまだしも、実際に乗客を乗せて走る車輌になりえるのだろうか。
 基本デザインは建築家の妹島和世が手がけるという。「いままでに見たことのない新しい特急車両」「風景に溶け込むデザイン」。たしかにデザインもコンセプトも斬新だ。そうは言っても、何年か先、実際の車輌としてできあがるころにはデザインとして鋭敏な部分はいろいろ削られて、最初に想像していたのとは微妙に違うちょっと残念な特急が走り出すのだろうとも考えた。
 さらに時が経った。より具体的なイラストが公表され、私は驚いた。鉄道車両としての落とし込みがされながらも、最初のイメージの斬新さが失われていない。これはひょっとしたらひょっとするかも、すごい車輌がでてくるかも、と期待が高まった。
 二○一八年秋、ついに現実の車輌がお目見えした。愛称は「Laview(ラビュー)」。先頭の運転席部分は本当に球体になって出来上がっている。車体の銀色はツヤが消され、しっとりした上品な輝きだ。客席の窓は膝下の低さまで広がっている。黄色を基調としたシートなどの内装もかなりサイケデリック。まさしくイメージイラストがそのまま実際の特急電車となって現れた。私はいままで西武鉄道にはとくに興味を持っていなかったが、ラビューを完成させたことで印象ががらりと変わってしまった。旧来のワンマン経営にはない、本当に新しいことを実現してくれるという期待が持てる会社になった。
 営業運転に就くのは二○一九年三月十六日と決まった。その日を待ち遠しく思う。早く乗りたい。そして写真に撮りたい。
 デビュー当日の三月十六日は都合がつかなかった。次の日はみつこさんの都合が悪いらしい。せっかく乗るならみつこさんと一緒に乗りたいから、それまでは撮影だけにしておこうと思う。
 デビュー二日目の三月十七日、私は所沢と小手指に撮影に向かった。この二か所は、ちょうど二年前、山崎友也(*)さんの鉄道写真教室で初めて案内してもらった撮影地である。初めて目にするラビューはここで撮影しようと少し前から心に決めていた。
 最初の上り列車「ちちぶ20号」は秋津〜所沢間で撮影する。当時教わったとおりにカメラを構え、シャッター速度や絞りを設定し、列車が来るのを待つ。通過時刻が迫るに連れ、緊張のあまり心臓が口から飛び出そうになる。次の瞬間、銀色に輝く球体がファインダーに飛び込んできた。無我夢中でシャッターを切る。初めて目にしたラビューは三年前のイラストどおりの姿で過ぎ去っていった。衝撃的で斬新で格好良かった。

 新緑のころからお盆が過ぎるころまで、私は何度もラビューを撮りに出かけた。それほどに私はラビューにとり憑かれた。車輌そのものにこんなに夢中になれるのは久しぶりのことだ。鉄道ファンの間では賛否両論吹き荒れているらしいが、無論私は賛成派だ。その勇姿をカメラにおさめるため、池袋線の飯能〜吾野間、西武秩父線の吾野〜西武秩父間はおおよその撮影地がアタマに入るほどあちこち歩き回った。
 ところが困ったことに最初に乗るのはみつこさんと一緒のときと決めてしまったから、西武線内の移動にラビューが使えない。一番良い時間がラビューでも、わざわざ一本前のレッドアローに乗ったりしていた。そろそろみつこさんとラビューに乗っておきたい。
 ある日、思い切って訊いてみた。
「みちゃん」
「なに」返事がくる。
「ラビュー、いつ乗る?」
「うーん。来週の日曜とか」
「九月一日だね」
 ようやく一緒に乗れる日が決まった。
 秩父まで単純に往復しても面白くないので、帰りは秩父鉄道のSLパレオエクスプレスに乗ろうと思う。熊谷行きのパレオエクスプレスは西武秩父に近い御花畑駅を14時31分に発車するから、往きのラビューは「ちちぶ5号」(池袋7時30分発・西武秩父8時51分着)か「ちちぶ13号」(池袋11時30分発・西武秩父12時48分着)のどちらかしかない。
「ちちぶ13号」だとお昼ごはんを食べて移動しているだけで、すぐに帰りのSLの時刻になってしまい、ちょっと物足りない。みつこさんの了解をとって、朝の「ちちぶ5号」で出かけることにした。秩父での時間が五時間以上もできてしまうが、その時間で一度出かけてみたかった三峯神社に行けないかと思い、秩父鉄道やバスの時刻を調べてみた。三峯神社は秩父の奥の奥にあり、往復に二時間以上かかるが、それでも現地で一時間はとれることがわかった。
「ちちぶ5号」を西武鉄道のwebサイトで予約し、上りSLパレオエクスプレスの指定券をみどりの窓口で購入しておいた。他社線だが今年九月まではJRのみどりの窓口で買うことができる。そのときまで知らなかったがギリギリ間に合った。
 三峯神社に行くところまでは説明しておいたが、サプライズのところも残しておきたかったので、SLに乗ることはみつこさんには内緒にしておいた。

*山崎友也さんの「崎」は正しくは異体字(右上が「大」でなく「立」)、読み方は「やまさき」です。これを間違えると大変なことになります。



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