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走れ!バカップル列車
第79号 嵯峨野トロッコ列車



   一

 ローカル線の旅は風情があっていいものである。
 通勤地獄とは無縁のゆったりした車内で自然豊かな車窓を眺められるローカル線は、旅を彩る格好の舞台だ。利用客としては、そんな旅を叶えてくれるローカル線にはいつまでも残っていてほしいと願わずにいられない。
 しかし鉄道事業者の立場でみれば、考え方はまったく逆になる。ローカル線は赤字を生み出し、会社の経営を圧迫するお荷物でしかない。採算の悪い路線さえなくなれば会社の収益性は向上するのだ。鉄道事業者は整備新幹線を熱心に建設する一方で、お荷物のローカル線を廃止する機会を窺っているのかもしれない。
 自然災害がきっかけで路線が廃止もしくは休止になるケースも増えている。復旧工事に何十億円もかかるといえば、地元でも廃止やむなしと考える人も多くなる。
 近年、自然災害が原因で廃止となったのは、高千穂鉄道高千穂線(延岡〜高千穂間)である。二○○五年九月の台風の被害で線路が寸断され、復活運動が起きたものの結局二○○八年十二月に全線が廃止となった。岩泉線(茂市〜岩泉間)は二○一○年七月の土砂崩れを契機に二○一四年四月に廃止された。
 東日本大震災の被害はあまりに大きすぎて画一的にはいえないが、気仙沼線柳津〜気仙沼間・大船渡線気仙沼〜盛間についてはBRT(Bus Rapid Transit・バス高速輸送システム)と呼ばれるバス路線によって仮復旧としている(「走れ!バカップル列車 第65号大船渡線・気仙沼線BRT」参照)。一部区間ではかつての鉄道の軌道跡を舗装してバスの専用軌道としているうえ、鉄道での復旧には一千億円以上の費用がかかるためJRは鉄道での復旧を断念した。
 復旧が実現した路線もある。二○○九年十月の台風18号で被災した名松線(松阪〜伊勢奥津間)は一日の利用客がわずか九○人という超ローカル線だが、地元とJRが共に資金を出し合うことで二○一六年三月に運転再開を果たした。
 只見線会津川口〜只見間は二○一一年七月の豪雨災害で不通となった。こちらも一日利用客は三十五人という超ローカル線で、復旧は絶望的とみられていたが、地元自治体が動きだし運転再開に向けて話し合いが行われている。

 二○一六年もまた自然災害の多い年だった。
 四月には熊本地震が起きた。鉄道の被害も大きく、九州新幹線は脱線し、博多〜鹿児島中央の全線が一時不通となった。在来線はJR、第三セクター鉄道を含め七路線が運休となり、なかでもJR豊肥本線、南阿蘇鉄道高森線の被害は甚大で、二○一六年年末現在で豊肥本線は肥後大津〜立野〜阿蘇間が、高森線は立野〜中松間が運休となっている。高森線に至っては復旧までに一年以上かかるという。
 八月は一連の台風の影響で北海道各線が不通となった。根室本線は特急が通過する上落合信号場〜新得〜芽室間は十二月二十二日に開通したものの、利用客が少ない東鹿越〜上落合信号場間については復旧の見込みは立っていない。
 運転再開が叶った路線もあった。東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて不通が続いていた常磐線は、相馬〜浜吉田間が一部区間を内陸側に移設したうえで十二月一○日に復旧している。
 深刻なのは、北海道である。
 日高本線は二○一五年一月の高波被害で鵡川〜様似間が不通となったままだし、二○一六年八月の台風被害は先に書いたとおりである。十二月五日には留萌本線留萌〜増毛間が惜しまれつつも廃止された(「バカップル列車 第73号 留萌本線増毛行き」参照)。
 利用客が少ないことによる廃止、災害復旧による不通などが相次ぎ、北海道の鉄道は衰退の一途をたどっている。
 そんななか十一月十八日、JR北海道は衝撃的な報道発表を行った。「当社単独では維持することが困難な線区」として十三線区を公表し、特に利用客の少ない線区についてバス転換する意向を示したほか、特急列車などの運行がある線区についても上下分離方式(路線は自治体等が保有し、JRは列車の運行のみを行う方式)などを期待する発表内容となっている。
 ほかの交通機関の方が良いといったり、自社の線路を自社で維持できないということは、つまり北海道の鉄道民営化は事実上破綻したということである。日高本線鵡川〜様似間も、根室本線東鹿越〜上落合信号場間も、復旧させないまま廃止するつもりだろう。発表資料には「維持管理に苦慮している」「除雪等の対応に苦慮している」といった表現が繰り返し出てくる。とにかくJR北海道は「苦慮」しているのである。
 折しもその一か月前にはJR九州が熊本の震災にもめげずに東京証券取引所一部上場を果たしたばかりだ。過酷な自然環境、過疎化など北海道ならではの厳しい状況は理解できるが、それにしても九州とのこの違いは何であろう。JR北海道は本当に「苦慮」することしかできなかったのだろうか。
 鉄道は大量高速輸送においてその役割を最大限に発揮する。このままでは日本の鉄道は将来、新幹線と通勤電車だけになってしまうという危惧もある。しかし鉄道おたくの本音としては、冒頭に書いたとおりローカル線だっていつまでも活躍してほしいのである。
 本当にローカル線はただのお荷物でしかないのだろうか。ローカル線が自社単独で維持できる程度に収益をあげる手だてはないのか。そう考えたとき、JR九州の経営努力はヒントのひとつになるだろう。ローカル線を観光鉄道として復活させたことは株式上場とは無縁でないはずだ。民営化直後から、「ゆふいんの森」「いさぶろう・しんぺい」といった列車そのものが旅の目的となるような楽しい列車を次々と生み出している。「ななつ星in九州」というクルーズトレインの運行をJRグループの中で一番最初にはじめたのも九州である。
 では新幹線も通勤電車も持たず、純粋に観光鉄道だけで経営を成り立たせることはできないのであろうか?
 その実例が京都にある。ケーブルカーやロープウェイといった特殊な軌道ではなく、JR線とまったく同じ規格の線路で観光鉄道だけを運行している。
 それが嵯峨野観光鉄道である。



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