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走れ!バカップル列車
第70号 上野東京ライン



   四

 みつこさんと二人でバカップル列車を走らせた十日後の三月二十七日、私は前方をしっかり見るためにもう一度単独で上野東京ラインに乗車した。
 こんどは品川始発の常磐線快速電車だ。始発から乗れば運転席後ろのベストポジションを確保できるだろうと見込んでの選択である。
 品川に来た目的はもうひとつある。品川駅は上野東京ラインの影の立役者だからである。
 東京〜上野間の「列車線」がつながったとき、東海道線と東北線・高崎線の列車は当然に相互直通運転すべきものだった。車両も共通に使えるし、運転本数や運用の調整もさほどむつかしくないはずだ。
 しかし常磐線とも直通するとなると事情は複雑になる。常磐線は取手から先が交流電化区間なので、東海道・東北・高崎線を走る直流電化用の車両では直通運転ができない。土浦・勝田方面の特別快速・普通列車(中距離電車)に使われている電車は直流と交流両方走れるから、この電車をもっと増やせばいいのだが、車上機器にお金がかかるのでむやみに増やすのはやはりむつかしいのである。そのお高い電車が東海道線の熱海や伊東まで遠出すると肝心の常磐線内を走らせる分が足りなくなってしまう。取手・成田方面の快速電車は電気系統の問題はないが、トイレもグリーン車もないから、これも熱海・伊東まで走らせる訳にはいかない。
 それでも上野東京ラインが開通した以上、常磐線の列車だって東京駅までは直通させたい。地元からの要望もあるし、つくばエクスプレスとの競争も気になる。ところが常磐線を東京駅折り返しにすると、こんどは東京駅のホームが足りなくなる。
 これらいくつもの難題を解決するため、常磐線列車の発着駅として白羽の矢が立ったのが品川である。
 品川駅には東海道線用ホームが五番線から十二番線まで四面八線もあって設備としては余り気味であった。その余ったホームを常磐線の折返し用に転用したのである。関連する工事は現在も続いていて六番線・七番線は閉鎖中だ。いまは九・十・十一番線を常磐線用としている。
 車両基地の問題も見逃せない。
 東海道線には田町〜品川間、東北・高崎線には尾久のそれぞれに車両基地があった。JRは東海道線と東北・高崎線の車両が直通するのを機に、二つの車庫を尾久に集約し、田町〜品川間は必要最小限の車庫だけを残して、あとは商業地域として再開発しようとしている。現にいままで電車がたくさん並んでいた敷地の大半はいまや広大な空き地だ。さらにここに山手線・京浜東北線の新駅をつくり、再開発された土地に付加価値を加える。上野東京ラインは自社内の乗客を分散させて混雑緩和を図るものだから、直接的には増収につながらない。その建設費を品川の再開発で回収しようというわけである。
 こうした点で上野東京ラインと田町〜品川間の再開発は密接につながっている。品川が影の立役者というのはそういう意味である。

 この日私が乗車したのは品川16時47分発の常磐線快速成田行き1693H列車であった。電車が車庫から入線する前から並んでいたので一番で乗り込めた。念願の運転室後ろかぶりつきである。
 発車した列車は再開発のために整理された車庫の脇をすり抜け、田町駅の手前まで来たところで東海道線の上り本線に入る。新橋では続々と乗客が乗り込んでくる。上野東京ライン開業による乗客増を見込んで新橋駅はホームの拡幅工事が行われた。
 東京からは新線区間である。アプローチ部分の急勾配が厳密に何パーミルなのか確かめようとしたが、やはりよく見えなかった。
 秋葉原を過ぎると「下り線」「上り線」「引上線」の三線が並ぶ。「下り線」は上野駅の五番線に、「上り線」は上野駅の六番線に直結する。上野駅の七・八・九番線へつながっているのは「引上線」だけだ。三線間を行き来する渡り線は、御徒町駅ホームの脇に「上り線」から「引上線」へ、「下り線」から「上り線」への線路があり、さらに二百メートルほど進んだ御徒町〜上野間の中間でもう一本「上り線」から「引上線」への渡り線がある。通常では考えにくい、かなり変則的な配線だが、高架橋がそれぞれ独立していてこれ以上の改良はできないらしい(図参照)。



 この制約を克服するためだろう、改正以降、上野駅「列車線」用高架ホームの発着番線は、基本的に方向別となるよう使い方をがらりと変えてしまった。いままでは五〜八番線が東北・高崎線、九番線以降が常磐線と路線別にきっちり分かれていたのである。
 東北・高崎線北行は「下り線」をまっすぐ進んで五番線に着く。特急を除く常磐線北行は大きく変わって六番線の発着となる。御徒町脇の渡り線で「下り線」から「上り線」へ入ればそのまま六番線だ。常磐線下り特急は特急券発売の関係で八番線を使う。「下り線」から「上り線」へ入ったあと、さらにその先の渡り線で「引上線」に入り八番線に着く。東北・高崎線南行は七番線から、特急を含めたすべての常磐線南行は九番線からそれぞれ「引上線」に入り、いずれも御徒町脇の渡り線で「上り線」へ入って東京駅へと向かう(ラッシュ時間帯などに一部例外あり)。上野と御徒町脇の渡り線までの間は、「上り線」が実質上の「下り副本線」、「引上線」が実質上の「上り本線」ということになる。
 常磐線下り特急は御徒町〜上野間の渡り線で「引上線」に入るため、同じく「引上線」を使う南行電車との平面交差が生じる。上野駅の北側でも、六番線を発車する常磐線北行と七番線に到着する東北線・高崎線南行の平面交差が生じる。
 この平面交差の影響は常磐線のダイヤに如実に現れる。
 特急列車は朝一番の下り以外ラッシュ時間帯の直通運転はなく、日中から一時間に二本が品川に直通。夕方以降は一時間に一本(二本に一本)が品川に直通する。中距離電車は日中だけ一時間に二本が品川直通になる。
 舌を巻いたのは、快速電車だ。JRの発表では朝ラッシュ時間帯は快速電車が一時間当たり五本直通すると謳っている。七時台も八時台も五往復ずつ走っていると早合点しそうだが、じつは直通するのは南行だけであり、八時台の五本がすべてなのだ。品川に着いた五本の電車はその後どうしているかというと、夕方まで車庫で「昼寝」している。上野の平面交差のために朝のうちに常磐線に戻れないからだ。五本という本数も昼寝させるだけの余裕分の両数を計算した上での数字だろう。
 変則的で不自由な配線は、このように設備上、ダイヤ上の工夫で、どうにか克服している。いまできる範囲では最大限の解決だと思う。時刻表を読み込んでそこまで解明できたとき、これを考えた人は天才じゃないかとさえ思った。
 いま乗っている快速成田行きも日中品川で昼寝していた五本のうちの一本である。上野駅では六番線に到着するので御徒町の脇にある渡り線で「上り線」に入った。渡り線の手前には上野駅の場内信号機があって、五番線側は赤、六〜九番線側は黄色だ。その下の電光掲示板が「6」とこの先入線する番線を表示している。
 私は常磐線電車が上野駅の六番線を発車するところも見てみたかったので、そのまま次の日暮里まで乗車した。日暮里着は17時07分であった。
 新線アプローチ部の勾配は後日、前方ではなくドアの窓からのビデオ撮影によって厳密な数字が判明した。東京側の勾配は三四・四八パーミル。秋葉原側の勾配は三四・二五パーミルであった。

 今回のバカップル列車の総仕上げとして、季節も移った七月二十二日、夕刊輸送列車がどのように変わったのか、みつこさんと見に行くことにした。これだけは時刻表を読み込むだけでは謎が解けないのだ。
 お昼過ぎの上野駅地上ホームまで来てみると、12時30分発の高崎線新前橋行きが十四番線に入線していた。「バカップル列車61号」でも見たとおり、最後部車両の四分の三が荷物室になっている。
「あるある」みつこさんが窓から車内を覗いている。上尾、鴻巣など行き先別に束ねられた夕刊が床に積まれている。
 気になる東北線は、13時08分に十三番線を発車する宇都宮行きが夕刊電車になるようだ。荷積みしたあと小休止している作業員さんに尋ねてみた。
「いままで黒磯行きが夕刊運んでいたんですけど、宇都宮から先に運ぶ夕刊はどうするんですか?」
「宇都宮で移し替えるの。黒磯行きは熱海発になっちゃったから」ちょっと強面のおっさんだったが意外に親切に教えてくれる。「この後の高崎行き(13時30分発)も夕刊運ぶんだけど、そっちもね、高崎で信越線と上越線の水上行くやつに積み替えるんだよ」
 最後は予想外のことまで教えてもらえて大収穫だった。
「よかったじゃん、ひろさん」
 私は「強面とかいっちゃってゴメンナサイ」と心の中でおっさんに謝った。



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