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走れ!バカップル列車
第69号 小松島線廃線跡と特急うずしお(後編)



   三

 徳島駅に着き、駅前の「よあけ」という店でラーメンを食べたり、駅ビルの上の百円ショップを物色したりしたあと、五人でぞろぞろと新町川のほとりにやってきた。徳島の中心街は川が網の目のように張り巡らされている。水運が発達した時代に人工的につくられた水路もあるのだろう。地図で見るとどっちに流れているのか一見してわからないような川もある。
 新町橋の脇にある広場で墓石の見本市をやっている。
「かわいい……」
 タオちゃんがどこかを見てつぶやいている。
「あ、もくりんくんね」トモコさんが「もくりんくん」というゆるキャラの説明をしてくれる。徳島の仏壇屋さんのキャラクターで、きょうは墓石の見本市の宣伝のために着ぐるみキャラが来ているらしい。
 タオちゃんの視線の先に目をやると、もくりんくんがスタッフに誘導されてこちらにやって来る。「かわいい……」いまどきの子供だからか、タオちゃんはゆるキャラに興味津々のようだ。
「もくりんくんとこ行ってみようか」トモコさんに手を引かれると、タオちゃんはさっきまで近くに行きたがっていたのに、急に尻込みしてしまう。
 半ば強制的に連れて行かれて、もくりんくんにハイタッチしてもらうとやっぱりうれしそうだ。
「写真撮ってもらおうか!」
 トモコさんがいうのでみつこさんがカメラを預かるのだが、レンズを向けるとタオちゃんはそっぽを向いてしまう。恥ずかしがり屋なのだろうがなかなかすんなりいかない。
 新町橋の向こうはなにかのイベント会場になっているらしく、さっきから賑やかな音楽が聞こえてくる。そのせいか、赤い髪や青い髪のカツラをかぶったコスプレの女の子たちがあちらこちらにいる。トモコさんによれば、徳島は阿波踊りなどの宣伝に萌えキャラを起用して若者を呼び寄せようとしているらしい。きょうのイベントもその一環だろうか。
 いまどきの三歳児、タオちゃんは萌えキャラにも興味津々だが、一緒に写真を撮ってもらうにも、肝心なときにこっちを見てくれず、写真はうまく撮れなかった。
 川沿いの一帯は藍場浜公園といって、ベンチなども整備されていて、川縁の景色をのんびり見渡すことができる。ハルちゃんはトモコさんに抱っこされてすやすやと眠っている。ときおり目を開けてはきょろきょろと周りを見つめているが、泣いたりしない。本当におとなしい赤ちゃんだ。
 みつこさんはタオちゃんにつきっきりで、目の前を通り過ぎるクルーズ船に手を振ったり、鳩を追いかけ回したり、写真を撮ってあげたりしている。ちっちゃい子供とずっと一緒に走り回っていたら、あとで反動が来ないかと心配になる。
「みつこさんとひろさんが乗る列車を見送ろうと思ってたんですけど……」トモコさんがタオちゃんをチラリと見ながらいう。「ちょっとその時間まで待てないかもしれません」
「そんなの、ぜんぜん気にしないで」みつこさんと私が口を揃える。私たちが乗る岡山行きの特急「うずしお22号」は16時46分発だが、その前に16時05分の阿南行きがある。逆に私たちが三人を見送ろうということになって一緒に駅に戻る。
 阿南行き牟岐線普通列車は改札前の二番線にすでに入線していた。「うずしお」も二番線の発車だから、そのまま自由席の列に並んでしまえばいい。
「楽しかったね。またね」
 タオちゃんにそういうが恥ずかしがってうつむいてしまう。
 発車時刻になり、列車が動き出した。トモコさんが立ち上がる。タオちゃんも窓越しに手を振ってくれる。私たちも手を振る。銀色のディーゼルカーはみるみる加速して、三人ともあっという間に見えなくなった。

 16時20分に高松発の特急「うずしお17号」が二番線に到着した。この車両が折り返し岡山行き特急「うずしお22号」になる。
「うずしお」は高徳線の特急列車で、上下三十三本のうち二十九本は高松〜徳島間の設定だが、残り四本(二往復)は瀬戸大橋を渡って岡山まで足を伸ばす。私たちが「うずしお22号」を選んだのも岡山行きだからで、徳島からたった一回の乗り換えで東京まで帰れるのが魅力だ。なにより今回は「バカップル列車」初の瀬戸大橋である。
 車両はステンレス車体の振り子式ディーゼルカーで、短い二両編成。先頭七号車全室と二両目六号車の半室が自由席、六号車の残りが指定席になっている。先頭車のさらに一番前の席から前方の景色を見たかったので、あえて指定席は取らなかった。「うずしお」の車両はデッキと客室の間にもデッキと運転室の間にも窓が付いていているので客室からも前方が見えるのである。トモコさんたちのおかげで早めに駅に着いたので、列も一番前に並ぶことができた。
 車内清掃は五分ほどで終わり、ドアが開いた。真っ先に乗り込んで一番前の右側に座る。助手席の後ろ側なら運転士に視界を遮られることもない。
 みつこさんは席に着くやいなや居眠りをはじめてしまった。あれだけタオちゃんとはしゃいでいたから、そのうち反動が来るだろうと思っていたがずいぶん早くに来たようだ。
 発車を待つ間、続々と乗客が乗ってくる。通り過ぎるだけでなく戻ってくるひとも出てきたので、どれだけ混雑しているのだろうと後ろを振り向くと座席はほぼ満席になっていた。早めに並んでおいて良かったとほっと息をついていたら、一人の若者が通路からデッキに出て、何食わぬ顔で私たちの席の前に立ち止まり、窓ガラスに寄りかかった。



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