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走れ!バカップル列車
第69号 小松島線廃線跡と特急うずしお(後編)



   二

「ステーションパーク」をうろうろしていると野良猫が出てきて、私たちにあいさつしに来る。「みゃあ」となにか言いたげにやってきて、ズボンの裾に体をすり寄せてきたりして、気が済むとそこらへんの茂みに隠れてしまう。昨日も白い野良猫が来てタオちゃんに追いかけられていたし、きょうもまた別の猫が続々出てくる。伝説としては狸なのだろうが、いまや「猫ひろば」といってもよさそうだ。
「SL記念ひろば」の西側まで来るとアスファルト舗装に枕木とレールの模様が描いてあったり、SLの動輪の形をした車止めが立っていたりするが、実際の廃線跡ではないので、あまり魅力は感じない。
 枕木とレールの模様はそのまま細い道に続いている。これが小松島線の線路跡を利用した遊歩道だ。地図を見ると、遊歩道は北に膨らむような円弧を描きながら西へ二キロほど続いている。終点は小松島線と牟岐線の分岐駅だった中田駅だ。
 ここを走っていた列車の姿を想像しながら、二人で歩きはじめる。また別の猫が来て「みゃあ」と言ってくる。
 日赤病院のあたりで日峰(ひのみね)通りという道路を渡るので遊歩道はいったん途切れる。小松島線が走っていたころはどんな踏切だったのだろうか。
 再び遊歩道がはじまったところで、歩行者用と自転車用の間のツツジの生垣に案内板が立っている。
《中田駅より1、400M》
 そう書いてあるのはいいが、ネジのひとつが外れてしまって斜めになっている。まっすぐに直してやるのだが、しばらくするとまたコトンと倒れてしまう。その倒れ方が「もうダメ〜」という感じでおかしくて、みつこさんと二人で大笑いする。
 軽トラの屋根で休憩する虎猫にあいさつしながらさらに歩き、線路跡の円弧がいちばん北に膨らみきったあたりで遊歩道を外れて一般道に入る。北に五十メートルほど歩くと県道に出る。
「あれ? ここって!」みつこさんが叫ぶ。
「そうだよ」
 この県道の信号から二、三軒ほど東に戻ったところが昨日も訪れたケンさんの美容室なのだ。道路の向かいから店の様子を見ていたら、営業中にもかかわらずケンさんが気づいて店先まで出てきてくれた。道路を渡って改めて昨日のお礼をいう。
 南小松島から歩いてきたといったら驚かれてしまう。むかしは逆だったんだろうが、最近は地方のひとの方が自動車に頼ってしまってあまり歩かないようだ。
「このあと中田まで歩きます」というと、
「奥さんが見送りに来るかもしれないからメール送っときますね」
 ケンさんたちの家は中田駅から徒歩五、六分のところにあるらしい。ケンさんだけでなく、トモコさんたちにもきょう会えるのはうれしいことだ。

 ケンさんと別れて、こんどは遊歩道の南側にある「キョーエイ」というスーパーに向かう。みつこさんがおみやげ用にインスタントの徳島ラーメンを買いたいというので、ケンさんに教えてもらったのだ。
 徳島ラーメンをゲットして、みつこさんも大満足で「キョーエイ」を出る。
 寄り道を終えて遊歩道に戻る。左右に見える家々は列車から見る車窓風景だったのだと想像しながらぷらぷら歩く。シャム猫みたいな青い目の猫にあいさつしたり、紫色の花の上を飛ぶアゲハ蝶を追いかけたりする。
 寄り道した場所から九百メートルほど進んでまもなく中田駅というところまで来た。すぐ近くに牟岐線の踏切がある。ひょっとしてと思い、踏切の脇に立ち、遊歩道と牟岐線の両方が見渡せるところに立つと予想通りの眺め。
「みちゃん、見てごらん」
「なに」
 遅れてやって来たみつこさんが、横に立つ。
「遊歩道がむかし小松島線があったところで、右側が牟岐線だよね」
「うん」みつこさんはとくに関心はなさそうだが、いちおう話は聞いてくれる。
「牟岐線が右にカーブしていて、遊歩道はまっすぐでしょ」
「そうだね」
「小松島線の方が歴史が古くて、後から牟岐線が敷かれたから、牟岐線の方が曲がっているんだよ」
 分岐駅というのは「Y」字形で分かれるケースは少ない。たいていは後から敷設される線路の方が曲がりながら分かれるから「ト」の字(あるいはその反転)形になる。大宮駅の高崎線と東北線も、東北線の方があとから敷かれたのでカーブしているのは東北線で、高崎線はほぼ直線になっている。
 踏切からさらに二百メートルほど歩いて中田駅には十二時十分前に到着した。
 中田駅の待合室に入ると、トモコさんがタオちゃんとハルちゃんを連れてすでに到着していた。少し待たせてしまったようだが、考えてみれば、寄り道したり猫にあいさつしたり、ずいぶんのんびり歩いたものである。
 このあと列車で徳島に行くといったら、トモコさんたちも一緒に行くという。駅でちょっと話すだけなのかと思っていたので驚いた。夕方、私たちが帰京の途に就くところを見送ってくれるそうだ。
 このあと12時00分発の徳島行き546D列車が来るので五人でとことこ構内踏切を渡ってホームに出る。踏切の脇のツツジが白と赤紫にきれいに咲いている。
 下り列車が遅れた関係で実際に発車したのは12時02分ごろだった。徳島まではおよそ十四分。銀色のディーゼルカー二両編成だが、休日の午後とあって混雑している。タオちゃんとトモコさん(と抱っこしてもらっているハルちゃん)だけ補助椅子みたいなところを譲ってもらって座ることができた。
 タオちゃんはほっぺを窓の縁に押しつけてぼんやり外を眺めている。幼い子の目に、きょうの車窓風景はどのように映っているのだろう。



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