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走れ!バカップル列車 《10周年記念号》
第63号 全線復旧三陸鉄道(北リアス線・後編)



   三

 三陸鉄道の宮古の駅舎は、駅前広場の片隅にある。広場正面にでんと構えているのはJRの駅舎で、三陸鉄道の駅舎はいつも隅っこに追いやられている。この位置関係、左右が違うが久慈駅と似ている。いや、この先訪れる釜石や盛も同じである。
 そうはいっても三陸鉄道の宮古の駅舎は久慈と比べても大きい。それもそのはずでこの建物は三陸鉄道の本社も兼ねている。一階は駅事務室、売店、待合室だが、二階には本社事務所が入っている。
 いま私たちはおなかが空いている。ビスコを食べたから倒れそうなほどの空腹ではないが、昼と夜を兼ねた晩ごはんを早めに食べておきたい。そしてせっかく三陸に来たのだから、おいしい海鮮ものをたくさん食べたい。今夜の宿はビジネスホテルだが、市内中心部から三キロほど南に向かった場所にある。周辺に飲食店はありそうもないので、宿に行く前に食べておかないといけない。
 みつこさんの提案で前に入った店とは違うところに行こうということになり、当てもないので駅の横にある観光案内所で地図をもらっておすすめの場所を聞いてみた。そこで勧められた寿司屋に電話したところ、きょうは予約で満席とのこと。
 しかたないので、中心街をふらふら歩きながら、良さそうな店を探すことにした。幸い雨はあがりつつある。十一月の初めというのに外はけっこう寒い。今回、東京にいるときとほとんど変わらない薄着で来てしまったので、肩に力を入れて震えながら歩く。
 駅前から東へ四、五百メートルほど歩いたあたりが飲食店が多く立ち並ぶ一角だ。寒いし、おなかもすいたので、早いとこ店をみつけて入りたいが、まだ時間が早いのでどこものれんがかかっていない。空はますます薄暗くなってきたが、まだ十六時を少し回ったばかり。店が開くのはふつうは十七時過ぎだからしかたない。店の佇まいなどを見て、良さそうな店をいくつか見つけ、歩きながら電話をかける。一軒、電話したがさきほどの寿司屋と同様、団体が入っていてたいへんとのこと。きょうはいったいどうしたというのだろう。宿にしても、今夜は中心部の宿はどこも満室だったから、町はずれの宿になったのだ。
 もう一つ、こちらも店の佇まいがよさそうだった「志むら寿司」という寿司屋に電話をかけた。おねえさんの元気のいい声が聞こえてきて、「どんな席にしましょうか?」と訊かれたのでカウンターの席を予約した。ほっと息をつく。
 それでも開店にはまだ早いので、空いた時間で市役所あたりまで歩くことにする。この付近、とくに三年前に泊まった「宮古セントラルホテル熊安」から東側(海側)は津波の被害が大きかった地域である。古い商店があった場所が駐車場になっていたり、真新しい建物が建っていたり、駅前付近とは違った様相が見えてくる。
 宮古市役所の庁舎は一、二階部分がベニヤ張りになっていたが、きれいに修復されていた。
 市役所前の交差点にある大きな歩道橋に登る。津波が来たとき電柱によじ登って助かったおじさんの写真が印象に残っていた。その電柱はどこだったか探してみる。電柱の前の建物はいまは取り壊されて更地になっている。
「ここに来ると、宮古に来たって感じがするな」
 どの町にも、これを見てこそその町に来た実感が湧くというものがある。たとえば私のばあい大阪なら通天閣とか、博多なら中州の屋台とかがそうで、宮古はこの交差点の歩道橋からの風景がそれである。そう言うと、みつこさんが、
「よかったじゃん、寒かったけど」
 明日はもう宮古市中心部には戻らないから、いまここに来て本当によかった。

 来た道を戻り、「志むら寿司」に入った。店にはまだ客はいなかったが、私たちと同じ歳くらいの大将とおかみさんが笑顔で迎えてくれた。
 カウンターに座ろうとすると、横の壁に志村けんと白鵬の写真が貼ってある。どうも後ろのテーブル席を写したもののようだ。
「ここに来たんですか?」
 大将に訊くと、テレビの取材の後に二人揃って来たんだという。島越駅にあった顔ハメ看板を思い出す。取材やイベントで志村けんと白鵬が三陸に来て、その夜、このお寿司屋を訪れたのだ。
「同じ、志村だから?」
「それもあったようです。観光案内所ですすめられて、スタッフの方がここしかない! って予約を入れて来たんです」
 席についてセットの握りを注文したところ、出てくる寿司すべてがおいしかった。中トロ、カンパチ、大トロ、カニ、甘エビ、アジ、カズノコ、ホタテ、イクラ、ネギトロ……。
 カンパチは身が透きとおっていて、聞くまで別の魚だと思っていた。大トロはネタが大きすぎてしゃりの横側にまで巻きつけてあった。いままで食べた寿司の中でいちばんうまいといっても過言ではないほどだ。
 あまりにおいしいのでカンパチ、大トロ、ホタテ、イクラを追加で注文してしまった。ホタテは貝殻からひとつひとつ貝柱を取りだしているので、ヒモもつけてもらった。いつもは捨てているんだという。もったいないといったら笑われてしまった。
 なんでこんなにおいしいんだと尋ねたら、大将がいうには、その季節の旬のものを使うからだという。ふつうこのセット握りならウニも入れるが、いまはウニの季節じゃないから別のネタにしたそうだ。話ながらなにも注文していないのに、おすすめといって水タコを出してくれた。
 旬の話になったので、みつこさんがまた国産松茸の話を持ち出した。そうしたら大将はにんまり笑って、
「うちの店じゃ、松茸はタダですよ」
「タダ!?」
 私たちはタクシーの車内以上に大騒ぎである。東京で国産松茸の料理を食べたら万単位のお金が出ていくのに、タダとはなんだ。
「友達に松茸採るのが趣味の奴がいるんですよ。自分が食べきれない分まで採ってくるんで、あげるよって持ってくるんです。だからうちはタダ。そのときはお客さんにも食べてもらいます」
 仕入はタダでもお客は料理してもらった分をいくらか払うことにはなるだろう。それでもみつこさんは「えー、食べたい、食べたい」と騒ぐ。
「ことしはもう終わっちゃいましたよ。だいたい九月下旬ごろですね。そのころは良いですよ。松茸、サンマ、カツオ、うまいもんが三つ揃ってますから」
 来年の九月もまた宮古に来ることを誓って、「志むら寿司」を後にした。



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