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走れ!バカップル列車
第58号 津軽線・江差線(前編)



   二

 きょう決めて、あした行くことになった江差線の旅だが、だいたいの旅程は以前から計画してあった。江差線のほか、津軽線にも乗る計画である。一泊二日の旅程で江差線だけでは時間が余るということもあるが、せっかくここまで来るなら一緒に乗っておきたい。津軽線の末端区間である蟹田〜三厩(みんまや)間はいまのところ廃止されるという噂も計画もないが、まだ乗ったことがないので、この機会に乗ろうと思う。
 津軽線は津軽半島を青森から三厩まで走るローカル線で、松前半島を走る江差線とは津軽海峡を挟んでちょうど対のような関係にある。そして津軽線と江差線は、ローカル線としての境遇まで少しばかり似ている。
 津軽線の歴史は比較的新しく、青森〜蟹田間二七・○キロが一九五一(昭和二六)年に、蟹田〜三厩間二八・八キロが一九五八(昭和三三)年に開業している。
 江差線は一九一三(大正二)年、五稜郭から上磯までの軽便線として開業し、一九三○(昭和五)年に木古内まで、一九三五(昭和一○)年に湯ノ岱(ゆのたい)まで、一九三六(昭和一一)年に江差まで延伸され、このとき路線名が当初つけられていた上磯線から江差線に改称されている。
 津軽線は全線で五五・八キロ、江差線は同じく七九・九キロと、どちらも百キロに満たない単線・非電化の盲腸線(終着駅に接続路線がない路線)だ。普通列車だけの典型的なローカル線と言っていい。江差線には準急列車、急行列車が走ったことはあったが、短命に終わっている。
 二つの路線に転機が訪れたのは、一九八八(昭和六三)年の青函トンネル開通である。津軽線は本州側の、江差線は北海道側のトンネル接続路線となり、津軽線の青森〜中小国(なかおぐに)間、江差線の五稜郭〜木古内間が海峡線(中小国〜木古内間)とともに通称「津軽海峡線」に組み込まれ、本州と北海道を結ぶ特急・急行列車が一日におよそ十五往復、貨物列車は一日およそ二十五往復も行き交う大動脈となった。
 この一大転機に取り残されたのが、津軽線の蟹田〜三厩間と江差線の木古内〜江差間である。津軽海峡線の一部となった区間が単線のままといえども電化され、幹線となったのに対し、二路線の末端区間は一日五〜六往復の鈍行列車が申し訳程度に運転されるのみである。津軽海峡線が華やかになってしまった分、余計にこちらの寂しい雰囲気が色濃く見えてしまう。
 津軽海峡線に組み込まれた青森〜蟹田間、五稜郭〜木古内間なら、私だって何度も乗っている。寝台特急「北斗星」に乗れば、特に目的意識がなくても結果的に通過してしまう。しかし末端区間はそこを目的にしないと乗ることができない。一日五〜六往復という本数の少なさも乗りにくい原因になっている。そうした理由から、いつかは乗りたいと思っていながら、それぞれの末端区間が未乗となっていた。

 次の日、二○一四年二月八日は朝七時過ぎに起きた。
 窓の外を見ると、昨夜の予報通り雪が降っている。家々や自動車の屋根、路面などがうっすら白い。テレビをつけたら、石原良純がなにやらしきりに注意を呼びかけている。東北新幹線は走ってくれるだろうか。中央線の「あずさ」「かいじ」は早くも運休になった。乗車するのは東京駅9時36分発「はやぶさ9号」。とにかく行けるところまで行こうと、みつこさんと二人、家を出た。雪が積もりはじめた静かな街をよろよろと歩きはじめる。
 この雪にもかかわらず、東京駅は乗客たちでごった返していた。いまのところ東北新幹線は通常運転されてるようだ。
「はやぶさ9号」は定刻通り東京駅を発車した。E5系の青い流線型車体がビルの窓ガラスに映っている。白く煙る街の中を「はやぶさ」は静かに走り抜けてゆく。
 座席は八号車十三番A・B席。隣の九号車はグリーン車で、その向こうの十号車はグランクラスだ。
 出発早々にトイレに行ったみつこさんが、
「混んでるんだね、デッキに人が立ってたよ」
 という。あれ? 「はやぶさ」は全車指定席だけど、と一瞬なんのことかわからなくなるが、あとで調べてみると、満席のときに数を限定して発売される立席特急券で乗ってきた客らしい。自由席と同等の料金設定なのに座席に座れないとはなかなか厳しいものだ。
 すでに立席の乗客がいるのに大宮でさらに乗ってくる。一時は通路に乗客がずらりと並んでしまった。とはいっても、全員が立席ではなく、少しずつ自分の席を見つけては座っていった。
 大宮を出ると新幹線はぐんとスピードを上げ、関東平野を駆け抜けてゆく。車窓にはいちめんの銀世界が広がり、早くも雪国に来たかのようだ。
 座席は三列シートで、窓側のA席は私が座り、真ん中のB席にはみつこさんが座った。通路側のC席には誰が来るかと思っていたら、小太りのサラリーマンが来た。小声で「席、替わろうか?」といったのだが、みつこさんはここでいいと言う。しかし小太りのおっさんが余程イヤなのか、みつこさんはだんだん僕のほうに寄りかかってくる。だから席替わるよといっているのに、頑なにここでいいと言い張る。またこちらに寄りかかってくる。そのやりとりが不毛に繰り返される。
 八戸を過ぎたところで昼ごはんに東京駅で買っておいたチキン弁当を食べる。
 新青森には12時35分に到着した。特急券は買ってないが、青森まで特急「スーパー白鳥19号」に乗る。新青森〜青森間に限っては、自由席車両であれば乗車券のみで特急列車に乗車できるのである。
 後ろ向きに発車したので、みつこさんが不安そうな顔をする。座席の向きは青森から函館まで走るときの方向を向いているから、一駅だけの辛抱だ。反対方向の奥羽線が遅れたため、「スーパー白鳥」の発車も遅れ、12時55分ごろ青森駅三番線に到着した。



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