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走れ!バカップル列車
第57号 寝台特急トワイライトエクスプレス(終着+後日談編)



   三

 凸型の青いディーゼル機関車二両に牽引され、「トワイライトエクスプレス」は札幌駅三番線から車庫に回送されていった。
 雪の降り積もったホームをよたよたと歩いていると、みつこさんがいう。
「ひろさん、このあとどうするの?」
 札幌に着いてから、帰りの飛行機に乗るまでの時間、どこへ行くか決めていなかった。午前中に札幌についてトンボ返りではちょっと物足りないので、飛行機は新千歳発16時30分のANA70便を予約してある。いまは朝の十時を過ぎたところだ。早めに空港に着くにしても五時間以上は空き時間がある。
「時刻表で調べてから、決めようと思うんだ」
 いったん改札を出て、みどりの窓口に来てみた。今回時刻表を持ってこなかったので、みどりの窓口に設置されている時刻表で確かめないといけない。
 ひとつ考えているアイデアはあった。「トワイライトエクスプレス」が北海道の雪原を走っているところで思いついたのである。
(夕張に行けないか?)
 札幌から夕張まではおよそ百キロほど。単純に所要時間だけを計算すれば行って帰って来れそうにも思えるが、実際の列車の接続などは時刻表を見なければわからない。
 私は時刻表を手に取った。場合によっては、いますぐホームに出て、この数分後に発車する列車に乗ることになるかもしれない。急いで根室本線・石勝線のページを開いて、札幌から夕張までの乗り継ぎ列車をみる。横でみつこさんが心配そうに私の視線の先を追っている。
 ちょうど10時20分に発車する特急「スーパーとかち3号」がある。この列車で新夕張まで行き、そこから夕張行きの普通列車に乗り継げば12時22分に夕張駅に到着する。帰りは夕張駅周辺を一時間ほどうろうろしたとしても南千歳には15時41分に着く。南千歳から新千歳空港までは電車で三分だから、16時30分の飛行機には充分間に合う。「よし、行ける」
 問題は「スーパーとかち3号」の発車時刻まであと数分しかないことだ。いきなりそう伝えれば過剰に慌ててしまうみつこさんに、焦らせないように伝えないといけない。すぐ横の窓口を見るとどういう訳か長蛇の列だ。これを待っていたら、どう考えても10時20分の列車には乗れない。
「んーと、特急に乗らないといけないんだけどね」
 ゆっくりと落ち着いてみつこさんに言う。
「ここで特急券を買っていたら間に合わないから、ふつうの切符だけ買って、乗っちゃおう」
 みどりの窓口を出て、改札横の自動券売機に向かう。みつこさんが心配顔でついてくる。
「どこまで買うの?」
 そう訊かれて路線図を見上げると「夕張」は図の中にない。
「夕張なんだけど、券売機では買えないから……」
「え? 夕張? 買えないのにどうするの?」みつこさんが声を張り上げる。
「どうしようっかなあ……どこか途中まで買うかぁ」
「どこまで? どこまで買えばいいの? 途中で大丈夫なの? いくら? どこ!?」
 立て続けに問いを発することで、みつこさんは自分の不安をぶつけてくる。そんな訊かれ方をすれば私だって焦る。焦りながらも路線図のあちこちを見回すと、途中駅「新夕張」の文字が見えた。
「新夕張まで買おう。千六百円」
 券売機から出てきた小さな切符を握りしめ、「スーパーとかち」が発車する六番ホームに急いだ。銀色の新型ディーゼル車両が四両編成で停まっている。いちばん後ろの四号車が自由席のようだ。
 車内は空席もぽつぽつあるのだが、自分は窓側に座って通路側の席にカバンを置くようなおっさんばかりだ。どうにか通路を挟んで横に並べる席を見つけて座る。その瞬間、ゴゴゴゴゴオオォというエンジン音が聞こえてきて、「スーパーとかち3号」は札幌駅を発車した。札幌駅滞在時間はわずか二十八分だった。



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