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走れ!バカップル列車
第55号 寝台特急トワイライトエクスプレス(決意編)



   二

「トワイライトエクスプレス」が廃止されるという噂のひとつの根拠は並行在来線の問題だ。二○一四年度(実際は二○一五年春か?)に北陸新幹線が金沢まで延長されれば、北陸本線金沢〜直江津間一七七・二キロがJR線から切り離され、第三セクター化される。二○一五年度(実際は二○一六年春?)に北海道新幹線が新函館まで延長されれば、江差線五稜郭〜木古内間三七・八キロが同じく第三セクター化されてしまう。
 北陸線や江差線がJRから切り離されると、列車を運行する会社と路線を保有する会社が違うことになり、それだけで運行面、営業面で負担が増える。JRは第三セクターに通行料を支払うことになり、乗客が支払う運賃にも反映される。切符の販売など販売面でもなにかとややこしい問題が発生するので、ただでさえ運行面での負担が大きい夜行列車にとっては逆風である。
 もうひとつはこれこそ噂で、私自身、ウラの取れていない話なのだが、青函トンネルに新幹線が走るようになると、JR西日本の列車が青函トンネルを通行するのは不可能に近くなるだろうというものである(注)。
 青函トンネルはJR北海道の持ち物で、トンネル内を通過する海峡線、将来開業予定の北海道新幹線もJR北海道の路線となる。その路線に通過が予定されているのは新幹線と貨物列車、そして夜行列車の「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「はまなす」である。
 速度が圧倒的に早い新幹線を優先させると、在来線列車である貨物列車と特急・急行の通過できる時間帯が限られてしまう。ただでさえ狭い枠の中で「通過権」の奪い合いが発生したらどうなるか? トンネルを所有するJR北海道としては自社路線に直通する貨物列車と自社路線が直接接続するJR東日本を優先せざるを得ない。その点だけでいえば「北斗星」「カシオペア」「はまなす」は安泰だが、この三列車まででトンネルを通過できる列車がいっぱいになったら「トワイライトエクスプレス」は決定的に不利だ。JR北海道としては、遠く離れたJR西日本にいい顔をする動機などほとんどないのである。だから北海道新幹線が開業すれば「トワイライトエクスプレス」が青函トンネルを通過するのは限りなくむつかしくなってしまう。
 この話を聞いて私は焦った。もちろんそんな話、噂に過ぎないのだが、私がいままで不思議に思っていたひとつの謎が、この青函トンネル「通過権」の話でうまく説明できてしまうからである。

「トワイライトエクスプレス」に使用されている車両は24系と呼ばれる特急(ブルートレイン)用寝台客車を改造したもので、もとの客車は一九七四(昭和四九)年から七六(昭和五一)年にかけて新製されている。いちばん最後に製造された車両でも、「トワイライトエクスプレス」登場時ですでに十三年、二○一二年現在では三十六年も経過している。
 24系と同年代に製造された旅客車両で現役で活躍しているのは、特急「踊り子」などで使われている185系電車、特急「いなほ」などで使われている485系電車、普通列車用の115系電車やキハ40系気動車など、いまやかなりの少数派だ。改良工事やメンテナンスを続ければ使えなくはないのだが、「トワイライトエクスプレス」が豪華寝台列車を名乗り続けるには、いくぶん無理のある時期に来ていることはたしかだ。
「トワイライトエクスプレス」は超人気列車なのである。しかも車両の耐用年数は限界に近づいている。そうであるならば、24系に代わる新しい車両が製造されても良いはずだ。現に上野発の「北斗星」にはJR東日本が24系に代わるE26系客車を新製し、一九九九年から「カシオペア」として走っている。それなのに同じく人気列車である「トワイライト」にはなぜ車両新製の話がまったく聞かれないのか?
 その謎が、青函トンネル「通過権」の話で一気に氷解してしまった。
 JR西日本は北海道新幹線開業後に「トワイライトエクスプレス」を走らせるつもりはないのではないか? だから24系が耐用年数の限界に達していても新製車両をつくらないのか。だとしたらたいへんだ。二○一六年春のダイヤ改正で「トワイライトエクスプレス」は廃止されてしまう。急がないと永遠に乗るチャンスを逃してしまう!
 焦る一方で冷静な自分もいる。
「そんな噂、信じてどうする? ガセネタかもしれないじゃないか?」
 もちろん、ガセネタならそれで良い。むしろ歓迎すべきことなのだ。ただ、それでも北海道新幹線の開業でなんらかの変化が起きる可能性はやはり高いし、仮に新製車両が登場したとしても、昭和の趣きを残す24系の「トワイライトエクスプレス」に乗る機会はいまを逃したらもう訪れないかもしれない。
 とにかくこれで私も覚悟が決まった。そろそろ本気で「トワイライトエクスプレス」に乗ろう。私は固く決心した。

(注)二○一二年十二月十一日の報道では、国道交通省が北海道新幹線青函トンネル内の最高速度を時速二○○キロに引き上げる案を有識者会議に示したとされる。最高速度を変更するということはトンネル内に最高何本まで列車を走らせられるかの限界も変わるということである。つまり「トワイライトエクスプレス」に限らず、在来線の夜行列車が何本まで走れるかは現時点では未定ということが、こうした報道からも窺い知ることができる。したがって、本文に記載した「トワイライトエクスプレス」を含めたJR西日本の列車に青函トンネル「通過権」がないという噂はやはりガセネタである可能性が高い。



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