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走れ!バカップル列車
第53号 特急スーパーひたち



   一

 日常の雑事がひととおり片づいたら旅に出ようと思っていた。
 行き先は昨年二○一一年中にたどり着けなかった陸前高田、大船渡。この周辺の線路や街並みがいまどうなっているのかを見に行きたかった。
 ところがどういうわけか出かける意欲が湧いてこない。しばらく旅に出ていないので怠け癖がついてしまったのだろうか。気持ちだけ行きたがっているのに、体がなかなか行こうとしない。
「みちゃん」
「なに」
「陸前高田あたりに行こうと思うんだけど」
「うん、行って来な」
 もとことみつこさんは三陸には行かないといっているので今回はひとり旅のつもりだった。
「でも、なかなか行けないんだ」
「じゃあ、無理して行かなきゃいいじゃん」
 まあ、そりゃあそうなんだけど。
「三陸じゃなきゃ、いけないの?」
 みつこさんが訊いてくる。
「そういう訳じゃないけど」
「それじゃあ、福島行ってみようよ。そんなら私も行くよ。原発の被害がどんなものか一度は見てみたいじゃん」
 意外な発案だった。東京電力福島第一原子力発電所の事故被害があった福島県浜通り地方も、いつかは見に行こうと思っていたものの常磐線が分断されていることもあって後回しになっていた。順番としては三陸をひととおり見たあとに行くのだろうと漠然と考えていたが、どうしても三陸の後でなければいけないということではない。
「みちゃんがそういうなら、福島行ってみようか」
 そうと決まれば話は早い。こんどの週末は海の日も加わった三連休でもある。土曜は用事があったり、宿が取りにくかったりしたので、日曜と月曜(海の日)とで行くことになった。
「なにに乗ってくの?」
 みつこさんが訊く。
「常磐線のスーパーひたちだよ」
 怠け癖を治すリハビリも兼ね、こうして久々にバカップル列車を運転することになった。

 国鉄時代、常磐線には数多くの長距離列車が走っていた。寝台特急「ゆうづる」、特急「みちのく」、急行「十和田」、急行「もりおか」などである。ただし、これらの列車は首都圏と常磐地方を結ぶことよりも、首都圏と仙台以北の東北、北海道を結ぶことに主眼が置かれていた。常磐線は上野〜仙台間において東北本線のバイパスという役割を果たしていたのである。
 このことは昭和三十三(一九五八)年に登場した東北初の特急列車「はつかり」(上野〜青森間)が、当初は常磐線経由で運転されていたことからもわかる。東北本線に比べ常磐線は路線が平坦であること(蒸気機関車は勾配に弱い)、上野から四ツ倉まで長い複線区間があること(当時東北本線は宇都宮以北がほとんど単線だった)、東北本線には福島から奥羽本線方面へ向かう列車も走るため、仙台以北へ行く列車は常磐線経由にした方が列車密度が分散できるといった理由からだ。特に「はつかり」は北海道連絡が主な目的の列車だったから、常磐線内の停車駅は水戸と平(現・いわき)のみであった。
 常磐線内を走る列車としては急行「ときわ」があり、昭和四十四(一九六九)年に季節列車として登場したのが特急「ひたち」(上野〜平間)であった。当初は81系気動車による一往復であったが、昭和四十七(一九七二)年には485系電車に変更され、五往復に増発。運転区間も上野〜原ノ町間、上野〜仙台間といった列車が登場した。昭和六十(一九八五)年には急行「ときわ」が廃止され、すべて特急「ひたち」に統合されている。
 JR化後の一九八九(平成元)年には斬新な白い車体の651系が登場。651系を使用する列車には「スーパー」の文字が加えられることとなり、ここに列車愛称としての「スーパーひたち」が登場する。
 一九九七(平成九)年には、485系電車の置き換え用としてE653系電車が登場、「フレッシュひたち」としての運転がはじまる。
「スーパーひたち」やら「フレッシュひたち」やら、どこが違うんだかわかりにくいが、おおざっぱにいうと「スーパーひたち」は停車駅が少なく速達型で、かつての特急「ひたち」のような列車。「フレッシュひたち」は停車駅が多い標準型で、かつての急行「ときわ」のような列車だと考えていい。ただし最近は「スーパーひたち」にも停車駅の多い列車が出現していて、もはやその区別がよくわからない状態になっている。
 現在、二○一二(平成二十四)年三月にデビューしたばかりの最新型E657系が加わり、「スーパーひたち」と一部の「フレッシュひたち」に充当されている。
 いずれ廃止されてしまうだろう651系にも乗っておきたいし、せっかくなのでE657系にも乗ってみたい。
 二○一二年七月十五日、くもり空のもと、みつこさんと私は上野駅十六番ホームにやって来た。
 乗車するのは、8時ちょうど発の特急「スーパーひたち7号」。すでに七時五十分を過ぎていて、新型E657系十両編成の特急列車はもう発車を待つばかりだ。はじめてみるE657系。先頭車の前面は丸っこい流線型だが、中央の運転席周辺が黒い丸に見える。左右のライトは縦に並んでいたりして、なんだか芋虫みたいだ。白い車体の側面は窓の下に赤いラインの入っているのがアクセント。白と赤はそれぞれ白梅、紅梅をイメージしているらしい。
 座席は八割ほどが埋まっている。切符に指定されたのは三号車五番A・B席。進行方向右側の席だ。荷物を棚に載せたり弁当をテーブルに置いたりしているうちに、定刻8時00分になり、列車は静かに発車した。



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