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走れ!バカップル列車
第52号 急行きたぐに



   二

 二○一二年二月四日、みつこさんと私は特急「はくたか10号」で金沢駅に着いた。到着は16時19分と六十三分遅れての到着だったため、金沢から先乗り継ぐはずの「サンダーバード34号」(金沢16時01分発)はすでに発車していて、私たちは乗り遅れてしまった。
 乗客の都合で列車に乗り遅れたばあい、その列車の指定券の払い戻しはできず、まったくの無駄になってしまうが、乗っていた列車が遅延したために乗り継ぎ予定の列車に乗れなかったときは、無料で後続の列車に指定券の変更ができる。金沢駅の改札をいったん出た私たちはみどりの窓口で次の大阪行きである特急「サンダーバード38号」の指定券を発行してもらった。もっとも今回は「フルムーンパス」だから、どっちにしても料金はかからない。
「サンダーバード38号」の金沢発は16時54分だが、駅員によると七分ほど遅れているという。発車までまだ二十分以上時間がある。
「みちゃん」
「なに」
「お茶でもしようか」
 駅構内の喫茶店を指さしながらみつこさんにいう。
「せっかく金沢に来たからおみやげかなんか買おうよ」
 車内でさんざん座ってたから、みつこさんはお茶でまた座るより歩いていたいようだ。たしかにそのとおりなので、駅構内にある「金沢百番街」という土産物売場に寄ってみた。
 デパ地下のようにいくつもの店が並ぶ売り場を物色し、みつこさんは漆器の店で漆塗りのスプーン、加賀棒茶の店で棒茶を買った。おみやげといっても自分たちが使うものである。私は大阪に着くまでに小腹がすきそうだったので海産物などを売ってる店で「あわびめし」弁当を買った。最後に地酒専門店の店先にある地酒の自動販売機でちいさなコップ一杯のお酒を百円で飲んで、ご機嫌になってホームにあがった。
「サンダーバード38号」は駅員のいったとおり七分遅れの17時01分ごろ金沢駅を発車したが、さいごは二分遅れにまで遅れを縮めていて、19時39分、大阪駅三番線に到着した。
 大阪駅は見違えるほどに新しいピカピカの駅に変身していた。二○○四年から続いた工事がようやく完成して、頭上には鉄パイプを網目状に組んだ巨大な屋根らしきものが斜めにホーム全体を覆っている。その屋根の下には新たに跨線橋ができていて、みつこさんと私はその大きな屋根と跨線橋に吸い込まれるように上りエスカレーターに乗り込んだ。
 跨線橋上に新しく出来た連絡橋口の改札を出た。駅員に切符を見せるとき、きょういちばん気になっていることを訊いてみた。
「きょうは『きたぐに』は運転しますか?」
「いまのところ運休するという情報は入っていません」
 それだけの答えだと不安だとおもっていたら、駅員はもうひと言つけ加えた。
「『日本海』がもう出てますので、『きたぐに』も出るはずです」
 それを聞いてようやく安心した。17時47分に大阪を発車し、先行して北陸線、信越線を走る「日本海」が走れるなら、「きたぐに」も走れるはずだ。
 これで安心して大阪名物串かつを食べることができる。
 もともとの予定では、「きたぐに」の発車時刻まで、ミナミの「新世界」へ足を伸ばして、串かつを食べようと計画していた。通天閣近くの「だるま」が一番の候補だ。ところが出発前の下調べで、新しくできた大阪の駅ビルに「だるま」の支店がオープンしたらしいことがわかる。みつこさんにいうと、「そっちにしようよ」という。吸い込まれるようにして昇ってきた連絡橋の、すぐ先にその駅ビルがあるらしい。
「新しい駅ビルもみてみたいし」
 みつこさんがいうので、「ルクア大阪」という新しい駅ビルの「だるま」に行くことにした。せっかく大阪に来ておいて、通天閣を見ないで帰ってくるのは物足りない感じもするが、東京からここまで金沢経由で連れ回してきたあとに、もうこれ以上自分のわがままを押し通すわけにもいかない。
 駅ビル十階の飲食店街にある「だるま」は四十五分ほど行列に並んでようやく店内に入ることができた。新世界の「だるま」もたいてい行列なので覚悟していたが、四十五分もよく粘ったと自分でもおもう。前後の人たちも店の人に呼ばれるときをいまかいまかと待っている。いらちで有名な大阪のひとがよくこんな行列に並べるなと変なところで感心した。

「きたぐに」発車の三十分前になったので、再び駅に戻ってきた。連絡橋口の改札まで来たのはちょうど二十三時ごろだ。
「『きたぐに』の入線は何時ごろですか?」
 寝台券を手渡しながら尋ねると、
「23時03分です」
 との答え。あと三分で入線だ。改札口から発車する十一番線まで小走りで向かう。
 ホームには「きたぐに」の姿をカメラにおさめようという私たちの仲間である鉄道おたくたちが何十人といて、ホームをうろうろしたり、走ったりしている。私も早速その中に入る。みつこさんは「すごいよぉ」とつぶやきながらおたくたちから一歩引いてデジカメを握りしめている。
  まもなく神戸方向から「きたぐに」が583系寝台電車の十両編成でゆっくりと入線してきた。583系は国鉄時代に特急用として製造された車両だが、老朽化でサービス水準が落ちてきたこともあって、いまや定期列車では急行「きたぐに」にしか使われていない。当時はクリーム色に青帯の美しいカラーリングだったが、JRになってグレイのあまり格好の良くない塗色に変更されてしまった。583系に限らずJRがオリジナルカラーに塗色変更する例は多いが、ほとんどが国鉄時代よりもセンスの悪いものになっている。本人たちは良くしようとしているはずなのに、かえって悪くなってしまうのはなぜなんだろうといつも不思議におもう。
「黄色い線まで下がってください!」という場内アナウンスが響き渡る。一部の鉄道おたくたちが傍若無人に振る舞っているので駅員も苛立っている。それでも多くはそんな放送はおかまいなしで撮影にいそしんでいる。あまり派手にやると危険な目に遭うのは自分たちである。
 ドアが開いたので、みつこさんは一足早く切符に指定された八号車に乗り込んだ。私はもう少しだけ写真を撮ってから、みつこさんと車内で合流することにした。



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