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走れ!バカップル列車
第52号 急行きたぐに



   一

 急行「きたぐに」は大阪〜新潟間を東海道線(大阪〜米原)、北陸線(米原〜直江津)、信越線(直江津〜新潟)を通って結ぶ夜行列車である。上越新幹線が開業する一九八二年までは大阪〜青森間という長距離を走覇していたが、新潟〜青森間は特急「いなほ」に分割され、以来新潟止まりの運転を続けている。A寝台車、B寝台車、グリーン車、普通車自由席と多様な車両が連結され、鉄道全盛時代を彷彿とさせる数少ない急行列車として走り続けてきたが、今年二○一二年三月のダイヤ改正で、定期列車としては廃止されることになった。
「きたぐに」に限らず、もはや夜行列車は安楽死を待つだけの存在になった。過去のバカップル列車でも幾度か話題にしているように、JRが国鉄から引き継いでほぼ惰性のように運転している夜行列車は利用者が年々減少しているといわれ、車両の老朽化もあいまって、いまや春のダイヤ改正がくるたびに何本かの列車が順番に廃止されているような状況である。
 私たちのバカップル列車が走りはじめた二○○五年以降に限っても、じつに十八往復の夜行列車が削減されている。

 二○○五年三月 寝台特急「あさかぜ」(東京〜下関間一往復廃止)
         寝台特急「さくら」(東京〜長崎間一往復廃止)
 二○○五年十月 寝台特急「彗星」(京都〜南宮崎間一往復廃止)
 二○○六年三月 特急「利尻」(札幌〜稚内間一往復季節列車化)
         特急「オホーツク9・10号」(札幌〜網走間一往復季節列車化)
         寝台特急「出雲」(東京〜出雲市間一往復廃止)
         寝台特急「日本海1号・4号」(青森〜函館間一往復区間廃止)
 二○○七年十月 特急「まりも」(札幌〜釧路間一往復季節列車化)
 二○○八年三月 寝台急行「銀河」(東京〜大阪間一往復廃止)
         寝台特急「あかつき」(京都〜長崎間一往復廃止)
         寝台特急「なは」(京都〜熊本間一往復廃止)
         寝台特急「北斗星」(上野〜札幌間二往復を一往復に減便)
         寝台特急「日本海」(大阪〜青森間二往復を一往復に減便)
 二○○九年三月 寝台特急「はやぶさ」(東京〜熊本間一往復廃止)
         寝台特急「富士」(東京〜大分間一往復廃止)
         快速「ムーンライトえちご」(新宿〜新潟間一往復季節列車化)
         快速「ムーンライトながら」(東京〜大垣間一往復季節列車化)
 二○一○年三月 寝台特急「北陸」(上野〜金沢間一往復廃止)
         急行「能登」(上野〜金沢間一往復季節列車化)
 二○一一年三月 特急「ドリームにちりん」(博多〜宮崎空港間一往復廃止)

 二○○七年の春は特に廃止される列車はなかったものの、それ以外の年は全国的なダイヤ改正があるたびに夜行列車の廃止は進み、ことし二○一二年三月十七日のダイヤ改正では日本海沿岸を走る「日本海」「きたぐに」の二系統が廃止されることになった。

 二○一二年三月 寝台特急「日本海」(大阪〜青森間一往復季節列車化)
         急行「きたぐに」(大阪〜新潟間一往復季節列車化)

 季節列車化というのは、毎日運行する定期列車としては廃止して、年末年始、ゴールデンウイーク、夏休みなど旅客の増えるシーズンのみの運転にするというものである。「毎日じゃなくてもまだ運転するから大丈夫」という考えかたもあるかもしれないが、定期列車と季節列車とでは似て非なるものだ。たとえば「ムーンライトながら」などは定期列車ではJRになってから新製された特急形電車(373系)を使用していたが、季節列車になったあとは国鉄時代の旧型車両を使用するようになり、車内設備としてのグレードは下がってしまった。あるいは北海道の「利尻」、夜行の「オホーツク」「まりも」は季節列車化ののちは二年もしないうちにすべて運転がとりやめとなってしまった。臨時の「はなたび利尻」などはダイヤ改正でとりやめが決定して以降改正の日までの運転はなく、気がつけば昨年の秋に運転が終了していたという事態になり、鉄道おたくたちは別れを惜しむことさえできなかったのである。
 急行「きたぐに」はこの春の改正で季節列車化されると発表されたが、実質的に廃止されると考えていい。次にいつ運転されるかわからない季節列車などあてにはできない。いまでこそ座席車、寝台車などが混在し、多様なニーズに対応した編成となっているが、季節列車になったらおそらくそういった面影は失われてしまうだろう。
 これで「日本海」「きたぐに」が廃止されると今回の改正以降も運転される夜行列車はもはや七系統しかない。

 寝台特急「サンライズ出雲」(東京〜出雲市間一往復)
 寝台特急「サンライズ瀬戸」(東京〜高松間一往復)
 寝台特急「北斗星」(上野〜札幌間一往復)
 寝台特急「カシオペア」(上野〜札幌間・臨時列車)
 寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪〜札幌間・臨時列車)
 寝台特急「あけぼの」(上野〜青森間一往復)
 急行「はまなす」(青森〜札幌間一往復)

 厳密にいえば「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」は臨時列車なのだが、超豪華寝台特急としての人気は高く、この先数年は運転されるだろう。ただ、定期列車であっても臨時列車であっても、どれも風前の灯火といっていい。
 考えてみれば「前泊」という言葉が日常的に使われるようになってから、交通手段としての夜行列車の役割は終わっているのである。「前泊」とは出張に行くとき、当日早朝から活動できるように前の日の仕事を終えたあと現地入りしておくことだ。これが便利にできるようになるには、(一)新幹線、航空機などの高速輸送が発達していること、(二)現地での宿泊費が割安であること、といった条件が揃っていなければならないが、いまや「のぞみ」「はやぶさ」が時速三○○キロで走り、ビジネスホテル一泊が寝台券より安い五千円前後で泊まれるとなれば、そんな条件はあっさりクリアしてしまう。日常的でもっとも大きな人の流動はやはりビジネスマンだ。そのビジネスマンたちが「前泊」を好み、夜行列車から離れていった。前日の仕事が終わったあとから当日現地で仕事をはじめるまでの時間の過ごし方、移動の手段として、もはや夜行列車の入りこむ余地は残されていない。季節によって大きく増減する学生たちの旅行や、廃止される直前だけ慌て出す一部の熱狂的なファンだけでは夜行列車の定期運転は採算が取れないのである。
「北斗星」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」のように非日常性を演出する超豪華寝台特急として生き残る道はあるだろう。そうだとしてもJRになってから新製された豪華寝台用車両は一九九九年の「カシオペア」用寝台客車十二両一編成のみである。「トワイライトエクスプレス」でさえ、現在の古い車両を新しい車両に置き換える気配はない。
 そうなるとこの先五年後もおそらく残っているだろうと予測できる夜行列車はJRになって車両を新製した「サンライズ出雲」「サンライズ瀬戸」「カシオペア」の三系統のみということになる。寂しいけれど、しかたがない。



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