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走れ!バカップル列車
第51号 特急はくたか



   四

 ほくほく線は六日町〜十日町間で魚沼丘陵、十日町〜くびき間で東頸城丘陵を越えるため、全線五九・五キロのうちおよそ六七・七パーセントがトンネルになっている。最初のトンネルは赤倉トンネルで全長一○四七二メートル。JR線以外では最長のトンネルだ。「はくたか」はトンネル内ではみるみるうちにスピードを上げる。最高速度の時速一六○キロまででているのかはよくわからない。途中の赤倉信号場で運転停車し上り「はくたか」とすれ違いをした。
 トンネルを抜けると信濃川流域の平地に出る。左九十度にくるりとカーブして十日町の市街に入る。三階建て、四階建てのビルが建ち並ぶが、屋根にはどれも二メートル、三メートルの雪を載せている。端っこの雪は四方があきらかに建物からはみ出ている。巨大な雪庇ともいえるが雪があまりに厚く、カタチがまるで給食当番が被る帽子のようになっている。屋根の上に乗り雪下ろしをする人、道路の雪かきをしている人を何人か見かける。十日町はJR飯山線との接続駅で一部の「はくたか」は停車するが、「はくたか10号」は通過する。
 トンネルを一つ抜け、四百メートルほどの信濃川の鉄橋を渡ると再びトンネルに入る。ほんの一瞬トンネルを抜けたかと思うと細い谷を越えてまたトンネルだ。それを繰り返して松代の集落に入る。雪が斜めに降ってくる。積もった雪がもこもこと山のようにうねっている隙間に家々が何軒か集まっている。どの家にも二、三メートルの雪を戴いているが人の気配はない。
 その先のトンネルが難工事を極め、ほくほく線の開業を遅らせた全長九一三○メートルの鍋立山トンネルだ。掘っても掘っても岩盤が押し出て支柱をねじ曲げ、切羽を埋めてしまうのだという。このトンネルの真ん中にある儀明信号場でも運転停車し、特急と普通列車二本とすれ違う。遅れはますます広がっていく。ほくほく線は単線区間なので片方の列車が遅れると反対方向の列車も遅れ、さらにこちらの列車も遅れるといった悪循環になり、いったん遅れが出ると回復するのが難しい。
 さらにトンネルの出たり入ったりを繰り返すと丘陵地帯を抜け、高田平野に出る。真っ白な雪原がどこまでも続いている。くびきでも運転停車し、反対列車とすれ違うとこんどは高架橋の上を自転車のようなゆっくりとした速度で走り出す。車掌のアナウンスがあって強風のために徐行しているのだという。とにかく冬の日本海沿岸は、雪といい、風といい、関東に住む者にはとても想像しきれない大きなハンデを負っている。
 ほくほく線は犀潟が終点で、ここからJR信越線に入る。徐行も解除になり、スピードがぐんとあがった。車掌によれば犀潟の通過が五十七分の遅れとのこと。
 直江津でJR東日本からJR西日本に入り路線名も北陸線になる。発車は14時30分ごろ。定刻が13時30分だからちょうど六十分の遅れだ。
 みつこさんが右窓の向こうのどす黒い雲をみて、「なにあれー、こわーい」などと騒ぐ。なんで黒いの? と訊かれるがわからない。そのまましばらく見ていたら海沿いに出た。海の上の雲だけが黒かったのだ。
 車内販売が近づいてきた。
「コーヒー飲んでもいい?」
 みつこさんが訊くので「いいよ」と答えると、みつこさんは元気よくおねえさんに声をかけた。ところが、
「すみません、コーヒーは売り切れてしまったんですよ」
 いわれてみつこさんはどすんと沈んでしまった。私もコーヒーが売り切れることってあるんだなと驚いた。それでもめげずないみつこさんはバニラアイスクリームを買っていた。
 吹雪をものともせず「はくたか」は北陸線を快調に飛ばしている。あまりの走りっぷりなのでつい忘れてしまうが、北陸線は特急に限らず普通列車も遅れているらしい。糸魚川に停車したとき普通列車が時間どおり来ないと車掌が注意を呼びかけている。接続する大糸線はバス代行運転をしていて列車は当分運休だ。
 親不知海岸には黒にほとんど近い濃紺の海が広がっていた。空には相変わらず黒い雲が垂れこめている。その雲の下だけは明るいので濃紺の水平線がやけにくっきり見えている。
 黒部川を渡ったのがちょうど15時16分ごろ。定刻なら金沢に着く時刻だ。富山に近づくと太陽が出てきて黄みがかったあたたかい光が空から降り注いできた。北陸新幹線の工事もいよいよ本格的になったようで、左側には高架橋の鉄筋がいくつも続いている。JR西日本は二○一四年度に北陸新幹線が金沢まで延長されれば、特急「はくたか」の運転をとりやめるとしている。そうなればほくほく線のドル箱である特急列車は通らなくなり、大幅な減収になってしまう。十年以上の歳月を経てようやく開業までこぎ着けたというのに、北越急行の前途は多難である。
 富山を出て倶利伽羅峠に差しかかるとまた雪が激しく降ってきた。そのまま雪の中を突き進み、「はくたか10号」が金沢駅一番線に滑りこんだのは16時19分。じつに六十三分も遅れての到着だった。
 乗り継ぐはずだった「サンダーバード34号」の金沢発は16時01分。こんなときに限ってほぼ定刻どおり発車したらしい。みつこさんと私はものの見事に「サンダーバード」に乗り遅れてしまった。



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