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走れ!バカップル列車
第51号 特急はくたか



   二

 二月四日朝十時前に家を出た。コンビニに寄ったりしながら水道橋駅に着いたのは十時過ぎだ。大阪までの東海道新幹線の切符は昨日のうちに「ひかり469号」(東京駅11時03分発)のものを取っておいたのだが、今朝になって、ひとつのアイデアが浮かんできた。
「ひかり」に乗れば14時03分には新大阪に着く。23時27分の「きたぐに」発車まで九時間以上あるから大阪・神戸周辺の安藤忠雄の設計した建築をいくつか見てまわり、夜は新世界で串かつを食べようと考えていた。あるいは「きたぐに」の運休が決まってしまったら、そのまま九州新幹線に乗りにいくのもいい。
 それもいいのだが、「きたぐに」で通過する北陸線、信越線が夜間になってしまうのはなんとももったいない気分がしていた。北陸線、信越線からの昼間の景色が見たい。時刻表をめくってみると、東京駅11時12分発の上越新幹線「とき319号」に乗れば、「はくたか10号」「サンダーバード34号」を乗り継いで18時37分には大阪に着く。これだけ遠回りしても「フルムーンパス」だから追加料金は一切ないし、大阪では五時間弱の時間があるから新世界の串かつは余裕で食べられる。
 みつこさんを七時間におよぶ遠回りの旅につきあわせるのは気の毒なのだが、どちらにしろ今回のみつこさんは上の空かつ他人事なので、東海道回りが北陸回りになったところであまり違いは感じないだろう。ひょっとしたら「ひかり」と「とき」の違いにさえ気づかないかもしれない。
 だから水道橋のみどりの窓口ではみつこさんを待たせたまま、無断で指定席の変更をしてしまった。私が窓口で駅員とやりとりをしている間、みつこさんは窓口から離れたところでぼんやりしている。「とき319号」「はくたか10号」「サンダーバード34号」の指定席はどうにか取れた。「とき」はなぜか混雑していてグリーン車で二人並んで座れる席がなかったので、普通車の指定席をとってもらった。このままなにごともなく東京駅へ向かうつもりだったのだが、みつこさんがあれこれ訊いてくる。
「金沢にいくことにしたの?」
 窓口で金沢からサンダーバード34号に乗ると説明をしていたのを聞いていたのだろう。大阪にいくつもりでいたのに金沢という地名が出てきたのが気になったようだ。
「うん、乗換えするだけだけどね」
 極力とぼけた返事をしておく。
「え? 大阪には行かないことにしたの? 『きたぐに』は乗らなくていいの?」
「『きたぐに』も乗るよ」
「金沢にも行って、大阪にも行くの? 『きたぐに』が金沢通るのか。あれ『きたぐに』はぜんぶ乗らなくていいの?」
「大阪から新潟まで『きたぐに』は乗るよ。そのために大阪に行くんだけど、東海道じゃなくて北陸回りで行くことにしたんだ。多少時間はかかるけどね」
「……」
「北陸回りで大阪行って、北陸回り新潟経由で大阪から帰って来るってことだよ」
 みつこさんはしばらく考える顔をしたあと、
「なんだかよくわかんないけど、まあいいよ」
 そんな経緯で、急行「きたぐに」だけでなく、特急「はくたか」も急遽バカップル列車として越後湯沢から金沢までの全区間を乗車することになったのである。

 東京駅に着いたのは十時半ごろだった。
 中央線ホームから長いエスカレーターを降りると、ちょうどそこが「エキュート」という新しい駅ナカの店舗になっていて、土産物店があれば、「つきじ 喜代村」「つばめグリル」「平田牧場」など名の知れた料理店の出店などもあって、お弁当も売っている。
「おおっ、いろいろあるねえ」
 みつこさんがようやく明るい顔になった。いくら上の空かつ他人事で、金沢回りで大阪に行くことに特に問題を感じないといっても、お昼が車内のお弁当になると聞いてさすがにちょっと沈んだ顔になっていたのである。みつこさんはお昼は大阪でどこかおいしい店を探すものと考えていたようで、それができなくなったことは悪いと思っていたので、ちょうど良かった。
 あっちの店をみて、こっちの店をみて、人混みのなかを何度もうろうろしたあと二人ともが行きついたのは「平田牧場」だった。みつこさんはヒレカツサンドを、私はヒレカツ重弁当を買って満足顔である。
 越後湯沢まで乗る「とき319号」が発車する二十二番ホームに来ると、「はやて」型のE2系が停車している。ドアが閉まっているので回送列車らしい。LEDの掲示板を見ると次の発車は10時56分発「はやて・こまち23号」なので、11時12分発「とき319号」は次の次の発車になる。あとわずか三十分あまりの間に都合三本の列車が出入りするのだから、ホームのやりくりはまるでアクロバットのようだ。
 土曜日とあってホームは家族連れなどで賑わっている。「はやて・こまち23号」が入ってくると「はやて」の車両は「はやぶさ」型のE5系だったので、「こまち」との連結器付近は写真を撮る人たちで溢れかえった。反対側のホームにはガーラ湯沢まで行く10時52分発「たにがわ407号」が停車していたのだが、こちらは東北・上越新幹線ではもっとも古い形式の200系で、しかもクリーム地にグリーンという開業当初のカラーリングだったのでこちらもまた鉄道オタクたちで異様な賑わいを見せていた。
 列に並んで「とき」を待っていると、みつこさんが訊いてくる。
「ここ、新幹線のホームだよね?」
「うん、そうだよ」
「なんで『とき』もこのホームに来るの?」
「え?」
 みつこさんはなにを言っているのか。ときどき私にもわからなくなる。
「『とき』も新幹線だよ。上越新幹線だもん。在来線の車両は線路の幅が違うから、このホームにはどうしたって入って来れないよ」
「ああ、そうか」
「どうして、『とき』は新幹線じゃないって思ったの?」
「なんか、新幹線ぽくない名前じゃん」
「はやて・こまち23号」が発車すると、ものの数分で折り返し「とき319号」になる「たにがわ」が入線してきた。早く車内に乗り込みたいが、清掃に時間がかかり、乗車できたのは発車わずか二分前の十一時十分だった。始発駅で二分停車はキツイだろうと思っていたら、案の定、「とき」は二分遅れて11時14分に東京駅を発車した。



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