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走れ!バカップル列車
第51号 特急はくたか



   一

 この春もまた夜行列車が消えてゆく。次はどの列車が廃止されるのか。あの列車か? この列車か? 鉄道おたくにしてみれば、もはやこの季節の風物詩になった感があるが、ことしは北陸線と信越線を走るふたつの列車が姿を消す。
 JRの春の全国ダイヤ改正の場合、その前年の十二月に正式な発表が、さらにそのひと月前の十一月中旬にはリーク情報が流れるのがここ最近の通例である。今回は前年十一月の報道では寝台特急「日本海」(大阪〜青森間)だけが廃止になるといわれていた。「日本海」なら私たちは二○一○年六月にすでにバカップル列車(第45号)を走らせている。
 ところが十二月十六日のJRの正式発表を見てみると「日本海」だけでなく急行「きたぐに」(大阪〜新潟間)までもが季節列車化されるという。「きたぐに」には残念ながらまだ乗ったことがない。それは聞いてないよ! と言いたい気分であった。正式発表でいきなり出てくるとは思わなかった。夜行列車はいつ廃止されていなくてもおかしくないなどと偉そうに分析しておきながら、この様である。
 急行「きたぐに」に乗りに行かねばならなくなった。とくに旅の予定はなかったが、年が明けて落ち着いたころ、なおかつダイヤ改正直前になって別れを惜しむファンで混雑しないころに乗りに出かけたい。時期としては二月上旬だろう。
「みちゃん」
「なに」
「また夜行列車が廃止されるんだ」
「ふうん、そうなの」
 心なしかみつこさんは上の空で返事をしている。
「急行『きたぐに』が廃止されるから、乗りにいくよ」
「うん、行ってきていいよ」
 完全に他人事である。これでは「きたぐに」どころか「バカップル列車」まで廃止されてしまうではないか。
「みちゃんは行かないの?」
「ええっ、あたしも行くの?」
「行きたくないなら、それでもいいよ。じゃあ、『バカップル列車』は三陸鉄道の50号までで廃止ってことにするから」
 いよいよ廃止の危機である。
「そういう言いかたしなくてもいいじゃん。じゃあ、いつ行くのよ」
 二月上旬で出かけるのにちょうど良い土日なら、二月四日、五日だ。
「じゃあ、二月の四日ねっ」
 本当に嫌々、渋々という顔をしてみつこさんはOKを出した。そんなイヤなら付いてこなくても本当にいいのだが、「バカップル列車」だけは続けたいようである。
 嫌々だろうが喜んでだろうが、とにかく二人で行くことになったので、前後の予定を組んだり、割安に行ける方法を探すことにした。
「きたぐに」は北陸線、信越線を走って大阪〜新潟間を結ぶ。首都圏からいちばん近い途中駅でも長岡なので、私たちのように東京に住んでいるとふつうは利用する機会がない。しかもバカップル列車は乗車する列車の始発駅から終着駅まで乗り通すことをひとつのルールとしているので、乗るとしたら大阪か新潟に行かなければならない。東京からだと東海道を大阪に行き、「きたぐに」に新潟まで乗り、上越新幹線で東京にまた戻るといった行程になる。このルートで乗車券、新幹線特急券、「きたぐに」の急行券と寝台券を足していったら一人あたり四万円を優に超えてしまった。それだったら「フルムーン夫婦グリーンパス」の方が断然いい。五日間用が八○、五○○円とそれぞれの切符を一つ一つ買い足すより安いうえ、ルートの自由度が高まり、さらにグリーン車やB寝台にも乗れる。五日間使える切符を二日しか使わないのはもったいない感じもするが、大阪と新潟に行くだけでじゅうぶん元がとれている。
 そうなると、とりあえず「フルムーンパス」と「きたぐに」の寝台券だけ買っておけば良い。往きの東海道新幹線、帰りの上越新幹線は直前でも座席はとれるだろう。
 そうして正月明け早々の一月四日、私は「みどりの窓口」へ赴いた。発売開始となる一か月前の朝十時前に寝台券を取ってもらったが意外に余裕で希望の寝台を取ることができた。

 一月二十三日は夜遅くになって都心にも四、五センチほどの雪が積もった。東京に雪が降るのは翌朝道が滑ったり交通機関が乱れたりするから、あまり好きではない。ことしは全国的に雪が多いようで、日本海側も大雪が降り積もっているようだ。気象情報は二○○六年(平成一八年)以来の豪雪だと伝えているし、山形のごとけんさんからは「こちらは中学以来の大雪だ」というメールが来た。近所のJR駅では上野発の「北斗星」「カシオペア」が運休になるといった情報が電光掲示板で流れたりもしている。
「きたぐに」が動いてくれるか、心配だ。さいきんのJRは利用客の少ない夜行列車など荒天になると真っ先に運休にしてしまう。「きたぐに」もことしに入ってから始発駅基準で一月二十五日、二十六日、二十七日と三日連続で上下ともに運休になっている。二十八日、二十九日は運転したものの、ふたたび三十日から三十一日、二月一日、二日、三日と五日連続で運休になってしまった。いよいよ明日「きたぐに」に乗るというのに大丈夫なのだろうか? せっかく貴重な寝台券をとったのにそれを無駄にしたくはない。いてもたってもいられなくなり、ここ数日何度も訪れているJR西日本ホームページ内の列車運転情報をみつめ続けた。
 二月三日当日の運休が発表されたのが三日の朝だったと思う。大阪発の「トワイライトエクスプレス」「日本海」「きたぐに」が運休するとホームページに掲載された。じゃあ、明日四日の「きたぐに」が運転されるかどうかはいつごろ公表されるのだろう? 当日の昼ごろになってから運休が決まってしまうかもしれない。下手をしたら運転されるかどうかわからない状態で大阪に向かわなければいけないかもしれない。それもなんだかしんどい。
 そう思っていたら、三日昼過ぎになって、翌四日の「トワイライトエクスプレス」が運休するということが早々に列車運転情報に掲載された。
「おや?」と思った。運休になるのは「トワイライト」だけなのか。「トワイライト」は大阪〜札幌間と運転区間が長いため人員の確保といった面でもやりくりが難しいから、運休が早い段階で決まるのはわかる。しかし天候が原因なら「日本海」「きたぐに」が運休になってもおかしくないだろう。それなのに、ここに「日本海」「きたぐに」が書いてないということは、天候はおさまってきている、除雪は進んでいるということなのだろうか? ほんのり淡い期待が浮かんでくる。
「みちゃん」
「なに」
「明日の『きたぐに』は運転されるかもしれないぞ」
「あ、そう。よかったね」
 またもみつこさんは上の空かつ他人事である。
「みちゃんも乗るんだよ」
「まあ、そうだね」
「運転されるんだから、良かったじゃん」
「まあ、ひろさんはいいよね」
 イヤな言いかただ。まるで自分は本当は行きたくないのに、ついていってあげるくらいの態度である。もちろん、実際「行きたくないのについてくる」んだけど。
 そんなにイヤならついてこなくてもいいのにと半ば言いかけたが、乗車券が「フルムーンパス」だからそうも言えない。「フルムーンパス」は二人同時に列車に乗車することが条件だから、みつこさんが行かないことになれば、「フルムーンパス」の旅行自体がなくなってしまう。当然「フルムーンパス」に付属する「きたぐに」の寝台券もキャンセルしなければならない。それだけは避けなければいけないことなので、とりあえずいまのところは上の空かつ他人事であろうとぐっと堪えることにした。



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