homepage
走れ!バカップル列車
第49号 仙石線と仙山線



   七

 仙山(せんざん)線は仙台と山形を結ぶ路線である。県庁所在都市同士を結ぶ幹線であるが、奥羽山脈を越えるため山岳路線でもある。山あり谷ありで車窓風景が良い反面、土砂災害などで不通になることも多い。奥新川(おくにっかわ)〜面白山(おもしろやま)高原間にある全長五三六一メートルの仙山トンネルが開通し、一九三七(昭和一二)年に仙台〜羽前千歳間五八・○キロが全通した。路線の終点駅は羽前千歳となっているが列車はそのまま奥羽線に乗り入れ山形まで走る。交流電化されているので列車はみな電車だが、全線が単線である。
 五月五日、みつこさんと私は仙台駅七番ホームに降り立った。見上げれば、昨日と同じく青空が広がっている。多賀城の姐御とは四日に会い、山形のごとけんさんとは結局きょう会うことになったので、まず仙台に来て、その後山形に向かう旅程となった。
 こんどの山形行きは10時50分発の快速列車だ。ホームでしばらく待つとステンレス車体の銀色の電車が六両編成でやって来た。山形方面からきた上り列車だが、この車両が折り返し山形行きになる。
 お休みの日の中途半端な時間帯だからか、乗客は少ない。四人がけ向かい合わせのボックス席に一人、二人ぱらぱらと座っているような感じだ。私たちは先頭車両の右側のボックスに陣取った。
 10時50分、快速列車は定刻通り発車した。一キロほど東北線に並行して走り、やがて坂を登ってガードで東北線を越え、急カーブで左へ曲がって西へと向かう。しばらくは仙台郊外の住宅地の中を走り抜ける。
 東照宮を通過し、六分ほど走って北仙台に停車。泉中央方面へ向かう仙台市地下鉄との乗換駅である。昨日、姐御に「明日は仙山線で山形にいくんだ」といったら、
「愛子(あやし)までの駅ってやたら増えたよね」
 といっていた。たしかに愛子まで一五・二キロの区間に東照宮、北山、東北福祉大前、国見、葛岡と五つも駅が増えている。どれも昭和五十年代から平成にかけて、仙台郊外の宅地化に伴って新設された駅である。
 北仙台は陸前落合、愛子とともに一九二九(昭和四)年の部分開業当初からある駅だ。島になっているホームを上下線が挟むような格好になっていて、上下列車のすれ違いができる。この快速列車もここで上り列車とすれ違いするダイヤになっているが、きょうは反対列車が遅れているようで、五分ほど余計に待った。遅れてやって来た仙台行き電車はぎゅうぎゅう詰めの混雑だ。休日の昼前ごろ、郊外から都会に向かう電車が混むのは東京も仙台も同じである。
 快速列車は遅れを少しでも回復するためか快調に飛ばしながら家並みの続く坂道を登ってゆく。
 国見、陸前落合と停車して愛子に着いた。
「『あいこ』ってなに?」
 仙台で快速列車を待っているとき、みつこさんが駅の掲示を見ながらきいてきた。
「あ、あれは『あやし』って読むんだよ。『愛子』って書いて『あやし』。知らないと読めないよね。わりと有名な難読駅名だよ」
 その愛子駅は仙山線が部分開通したときの終点であり、仙山線はいまやこの駅までは仙台の郊外電車という役割も担っているため、仙台を発着する列車の三本のうち二本が愛子までの区間運転列車となっている。ホームは二本あって、向こうのホームに愛子始発の電車が停車している。駅名標に「秋保温泉口」という説明書きが添えられている。仙台市内からだとちょっと北を回るような感じになるが、愛子から秋保温泉まで道路が通じていて交通の便が良いらしい。

 愛子を過ぎると住宅は減ってくる。平地が狭くなって谷あいに入ってくると広瀬川が近づいてきて、眼下を流れるようになる。左の山の向こうに遊園地の観覧車が見え、対岸の緑の中にあるニッカウヰスキー宮城峡蒸留所を過ぎると作並に着く。
 作並は仙台から二八・七キロのところにあって、山形までの道のりのだいたい真ん中あたりになる。作並温泉の最寄り駅だが温泉街は駅から二キロほど広瀬川沿いを登ったところにある。
 ここまで来ると左右に山が迫ってきて、いよいよ山奥に入った感じがする。作並から山寺までは数ある日本の沿線風景の中でもかなり好きなところで、快速列車は奥新川は通過するが、その先で広瀬川支流の新川(にっかわ)がもうほとんどせせらぎのようになっていて、線路とほぼ同じ高さの草むらをさらさらと流れる様子は何度見ても飽きない。おそらくこんな車窓風景はほかにそうそうないだろう。逆にこんなところに線路が走っているから大雨になると停まってしまうのだが、この渓流を見たいがために右側に座ったといっても言い過ぎではない。
 町が尽き、里が尽き、谷も尽きたところで線路は仙山トンネルに入る。トンネルが開通したのは戦前だが、五キロものトンネルを煙の出る蒸気機関車で通過するのは困難なため、当初からトンネルを含む作並〜山寺間は電化されていた。
 このトンネルで仙山線は奥羽山脈を越え、宮城県から山形県、仙台市から山形市へと入る。仙台市も山形市も合併などで市域が広がっているから県庁所在都市同士が県境で接するという面白いことになっている。
 トンネルを抜けると面白山(おもしろやま)高原に停車する。
「え、なに? 面白山なんて駅があるの?」
 みつこさんがにわかに元気になって、目を輝かせている。
「え? え? なんか面白い山なの? なに、なに?」
「名前が面白山ってだけで、別にふつうの山だよ」
「あ……そう……」
 面白い山はないが、駅のすぐ南側にスキー場があって、ホームがそのままゲレンデにつながっている。便利なので前に何度か滑りにきたことがある。
 分水嶺を過ぎてこちらは最上川水系になる。その支流の紅葉川の渓谷をみながら坂を下ると谷が開けて山寺に到着した。
 車窓正面に山がそびえ、その山肌にへばりつくように木造の建物が並んでいるのがみえる。
「すごい! なにあれ」
 みつこさんが窓から山の上のほうを見あげている。
「山寺だよ」
 正しくは立石寺というが、みんな山寺と呼んでいる。その名の如く山全体に伽藍が点在している。山の上のほう左側の断崖に突き出ているのが五大堂だ。
「あの五大堂からの眺めはすごいんだよ」
「登るのたいへんそうだね」
 山寺の石段は何度か登ったことがあるが、たしかにてっぺんまで登るのはとてもたいへんだ。しかしたいへんだからこそ、息を切らしてたどり着く五大堂からの眺めは格別なのだ。山の麓は桜がちょうど満開である。このあとごとけんさんと会うが、時間さえ許せば一緒に山寺に来るのもいいかなと思う。
 快速電車は農村を走り抜け、山形新幹線の走る奥羽線が西側から近づいてきて羽前千歳に停車する。北山形で左沢線と合流し、山形城趾のお堀端を通って山形には11時59分ごろ到着した。北仙台で五分遅れたが定刻は11時57分なので、若干遅れを取り戻しての到着である。



next page 八
homepage