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走れ!バカップル列車
第48号 東北新幹線はやぶさ501号



   四

 白石蔵王付近は山がちでトンネルが多い。抜けると空がいくぶん晴れていて、名取川を渡る。この名取川の河口付近は津波の被害も大きかったところだ。東北本線がすぐ横を並んで走る。仙台のひとつ手前の長町駅付近は近郊の新興住宅地でマンションや大型スーパーなどが建ち並んでいるが、かつて貨物駅だったところが広大な空き地になっていて、そこに仮設住宅が建設されている。「ああ……」と声がもれる。白いプレハブ造りの住宅がいくつも並んでいるのをみると胸がしめつけられそうになる。
 広瀬川を渡り、S字カーブをゆっくり曲がって、10時50分、仙台に到着。地震で落ちてしまった天井はつけないまま仮復旧してあり、鉄骨で組まれた骨組みがむき出しになっている。二号車の乗客の半分近くが降りてゆく。代わりに乗車してくる客は少なく、仙台を発車すると車内はずいぶんがらんとしてしまった。
 みつこさんの左のC席に座っているおばさんは座禅の修行でもしているかのようにじっと動かない。トイレにも立たないので、仙台を出た後、二人代わりばんこに前を通してもらってトイレに行っておく。
「はやぶさ501号」は新青森に着くのが12時49分と昼過ぎなので、昼ごはんは弁当を買って車内で食べる予定だ。車内販売のおねえさんが通ったときにお弁当があるか尋ねたところ、いまは一種類しか売っていないが、盛岡から「前沢牛めし」を積み込むというのですかさず二人分を予約しておいた。
 列車は仙台平野を快走し、古川、くりこま高原を通過して行く。「はやぶさ」は最速達列車という設定なので停車駅が極端に少なく、大宮、仙台、盛岡しか停まらない。途中駅はいくつもあるが、そのほかはぜんぶ通過だ。
 空はくもってしまったが、ところどころ目に入る桜はどこも満開になる。一ノ関付近だったか、小さな川沿いに桜並木があって薄桃色の花がふわふわと咲いている様子がとても美しかった。
 一ノ関を過ぎると東北新幹線は北上川と並行して走る。水量の豊かな川面が河原もなく原っぱを突然二分する様子は、関東付近の川とは雰囲気が違う。北上川を斜めに渡って北上を通過する。きょうの青森県は雨の予報だが、その予報通り、北に向かうにつれて雲行きが怪しくなり、どんよりといまにも雨が降りそうな空になってきた。
 住宅が増えてきてビルが建ち並ぶようになると盛岡である。12時00分着。二号車で乗り降りする客は少ない。隣のC席のおばさんもiPodの音楽を聴いたままじっと座っている。向かいのホームでは子供たちが「はやぶさ」を見て手を振っている。誰も私のことなど見ていないけれど、こちらからも思わず手を振りたくなってくる。

 盛岡を出て街中を走り抜けると山並みに入り、またトンネルの連続になる。トンネルとトンネルの隙間は奥深い山の中だ。入りくんだ山襞の中に雲が低く垂れこめている。
 車内販売のおねえさんがきて、「前沢牛めし」を持ってきてくれた。おなかが減っていたのでみつこさんも私も早速食べる。
「おいしい!」
 隣のおばさんがじっと座っているのも気にせず、みつこさんが思わず叫ぶ。たしかにうまい。味付けはすき焼き風でごはんの上に霜降り肉としらたき、ごぼう、にんじんがのっている。包装紙に「和牛の最高峰」と書かれているとおり、やわらかくてとろけるようにおいしかった。駅弁でこの味で千二百円はずいぶんお得である。
 そうこうしているうちに「はやぶさ」はいわて沼宮内を通過、十三本木峠を二五八○八メートルの岩手一戸トンネルで越える。二戸通過し、さらに八千メートル級の金田一トンネル、三戸トンネルを続けて抜けてゆく。
 弁当を食べ終わったあたりで平地に出て八戸を通過。八戸線のディーゼルカーが並んでいる脇を抜け、ゆるやかに左へカーブして進行方向を北から北西へと変える。
「新しいね」
 みつこさんが線路脇のぴかぴかの防音壁を見ていう。私だけはじつは二月に新青森から「はやて」に乗っているが、みつこさんと二人で乗るバカップル列車としては八戸以北は初乗車である。
「ここから先は、去年の十二月に開通したばかりだからね」
 八戸〜新青森間は開業してからまだ五か月しか経っていない。だから防音壁だけでなく、コンクリートの軌道も架線柱も、すべてがぴかぴかだ。
「はやぶさ501号」は再び山あいに入り、七戸十和田を通過すると八甲田トンネルに入る。全長は二六四五五メートルで、それまでの岩手一戸トンネルを抜いて国内の陸上鉄道トンネルでは最長となっている。とにかく東北新幹線は盛岡以北は地下鉄になったかのようにトンネルだらけだ。
 抜けたところは三内丸山遺跡もある青森市近郊の丘の上で、列車は次第に速度を落とし、12時49分、終着新青森に到着した。
 平常ダイヤなら三時間十分のところ、「はやぶさ501号」は新青森まで四時間五分かかっている。本来なら遅くなったと不満をいうところだろうが、特急料金も「はやて」と同じ料金に割引になったうえ、快適な車内に長時間過ごさせてもらって、ずいぶん得をしたと思う。
 荷物をまとめてホームに出る。結局隣のC席のおばさんも新青森まで乗ったが、東京から四時間ものあいだ、飲みも食べもせず、一度も席を立たなかった。本当に座禅をしていたかのようだ。
 再度、記念写真を撮ろうと思い、最後尾の一号車まで行くが、東京駅よりも人が多く、お祭り騒ぎになっている。それでもこんどは発車時刻を気にする必要もないので、気長にタイミングを見計らっていた。ホームドアが邪魔になって三脚は使えないので、親切なお兄さんにシャッターを押してもらったところ、結構いい写真が撮れた。
「先頭の十号車まで行ってみようよ。グランクラスも見てみたいし」
 せっかくなのでそう提案すると、みつこさんもいいよという。
 車内には入れないが、窓からグランクラスのシートをのぞいてみた。各席にLEDの読書灯がついていたりして、高級感漂う室内だ。いつかはお金を貯めてグランクラスに乗ってやるぞと心に誓い、私たちは奥羽本線への乗り換え口に向かった。



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