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走れ!バカップル列車
第48号 東北新幹線はやぶさ501号



   一

 二○一一年三月十二日は、日本の鉄道史において記念すべき日となるはずだった。
 この日、九州新幹線鹿児島ルートのうち未開通だった博多〜新八代間が完成し、博多〜鹿児島中央間の全線が開業する。そのおよそ三か月前の二○一○年十二月四日には東北新幹線の八戸〜新青森間が開業し、大宮〜盛岡間の暫定開業から二十八年の時を経て、東北新幹線がようやく全線開業を果たしていた。三月十二日になれば、地図の上では本州北端の青森から九州南端の鹿児島まで、新幹線一本で結ばれることになる。
<  これにともなって新しい列車も華々しくデビューする。
 九州新幹線ではそれまで新八代〜鹿児島中央間を走っていた「つばめ」が博多〜鹿児島中央間の運転(「こだま」タイプ)になるほか、新大阪〜鹿児島中央間を直通する「みずほ」(「のぞみ」タイプ)と「さくら」(「ひかり」タイプ)が新たに登場。東北新幹線でも、一週間前の三月五日に新型E5系を投入した速達タイプの「はやぶさ」が登場している。
 興味深いのは、「みずほ」「さくら」「はやぶさ」のどれもがかつて東京と九州を結んでいたブルートレインの愛称だったということだ。鉄道おたくを四十年以上続けている私にしてみれば、これはしびれるほどうれしい事件といえる。一度は消えてしまった寝台特急の愛称が、新たに新幹線の愛称として復活する。姿形は変わっても古くからの列車の歴史が継承されている。
「時刻表」三月号の発売が、だから本当に待ち遠しかった。今回は二月二十日の発売と同時に買ってしまった。ページをめくる度に「おおっ!」と驚きの声をあげてしまう。本当に「みずほ」や「さくら」、そして「はやぶさ」が走っているではないか。いや、走っているのは時刻表の中だけで、実際の列車はまだ走ってはいないが、時刻表で仮想旅行ができてしまう鉄道おたくとしては、これだけでも充分楽しい。
 ここ数年、ダイヤ改正といえば寝台特急やローカル線の廃止と相場は決まっていて、明るい話題なんて皆無に等しかったが、今回のダイヤ改正は違った。三月五日に「はやぶさ」が走る。十二日には「みずほ」と「さくら」が走る。時刻表を見ているだけでこんなにもワクワク、ドキドキするなんて、まったく何年ぶりのことだろう? これが実現すれば、まさに画期的な出来事である。
 ところが現実の三月十二日は予想していたような一日にはならなかった。その前日に起きた東日本大震災ですべてが吹き飛んでしまった。
 東北新幹線は一時、全線で不通になった。西日本への影響は少なかったから、九州新幹線はたしかに三月十二日に全線開業した。「みずほ」「さくら」も運転を開始したが、人知れず開業したといってもいいほどだった。当日の報道はテレビも新聞もほぼすべてが震災関係で埋め尽くされていた。新聞ではどこかに記事が載っていたかもしれないが、ほとんど目立たなかっただろう。
 東北新幹線が不通になってしまったから、青森から鹿児島までが新幹線でつながり、「みずほ」「さくら」「はやぶさ」といった新しい列車が勢揃いする日にはならなかった。「はやぶさ」などは登場してわずか一週間で、いつ運転再開できるかわからない状況に立たされてしまったのである。

 東北新幹線「はやぶさ」は鳴り物入りでデビューした列車だった。
 E5系電車はJR東日本が構想から十年近くの歳月をかけて実現した最新鋭車両だ。デビュー当初は最高速度時速三○○キロで走るが、将来的には時速三二○キロまで引き上げられるという。時速三二○キロは500系「のぞみ」でさえ到達しなかった日本最速のスピードである。このため先頭車両はカモノハシの顔のようなロングノーズ形状をしていて、空気抵抗を抑え、騒音も最小限に抑えるような工夫がされている。
 カラーリングも独特だ。新幹線といえばかつての0系をはじめ車体の基調色は白系統で、白に青い帯が入ったり、緑の帯が入ったりするのが一般的だった。JR東日本の新幹線車両だけは車体の下半分が紺色になったりしているが、E5系のカラーリングはそれさえも覆すもので、車体の上半分がメタリックなエメラルドグリーンをしている。下半分は白系統だが、鉄道車両の下半分はホームの下や防音壁に隠れる部分も多いため、実際の見た目は大部分がエメラルドグリーンになり、それまでにはなかった外観イメージとなっている。
 グリーン車よりもさらに高級な「グランクラス」の設定も話題になった。それまでの普通車とグリーン車に、もうひとつ新しいグレードが増えたことになる。
 JRの報道資料や広告などでグランクラスの様子を見ると、まるで飛行機のファーストクラスのようだ。革張りのシートは一つひとつが独立していて、シート幅も前後の間隔もとてもゆったりとしている。新幹線の場合、普通車は通路を挟んで三席+二席の合計五席、グリーン車は二席+二席の計四席だ。ところがグランクラスは二席+一席の計三席しかない。新幹線の幅の広い車体に三席なんて、いったいどういうシートなのだろうと思う。しかもその三席シートが六列しか並んでおらず、あの新幹線の大きな車両一両に定員はわずか十八名である。
 当然のことながらお値段も高級になり、東京から新青森までのグリーン料金が五千円なのに対し、グランクラス料金は一万円になる。このデフレ時代にどうして時代に逆行することをするのだと考えてしまうが、グランクラスの指定券は連日発売と同時に売り切れるそうで、普通車やグリーン車よりもむしろグランクラスから売れていくのだという。
 このように話題にはことかかないE5系「はやぶさ」だが、その登場からわずか一週間で運休の憂き目に遭うなどとは誰もが予想しなかっただろう。



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