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走れ!バカップル列車
第47号 京葉快速電車



   二

 テレビからは津波が襲いかかる映像や原発の建屋が吹き飛ぶ映像などがとめどなく流れてくる。あまりにも衝撃的なものばかりでついそちらに注意が向いてしまうが、小さなニュースとして東京ディズニーランド(正しくは東京ディズニーシーも含めた東京ディズニーリゾートなのだが、つい「ディズニーランド」と呼んでしまう)が休園を余儀なくされているという話が耳に入った。
(え、なんで?)
 最初に聞いたとき、まだ事情を知らない私はそう思った。地震当日こそJR線が運休になったり交通が麻痺したが、一週間も経てば復旧できるだろう。こういうときこそみんなの心を癒すディズニーランドのようなところが必要なのだ、そんなとこで変な自粛などしなくても、とも思った。
 原因は液状化現象だった。ディズニーランドは浦安市の埋立地にある。浦安をはじめ、市川、船橋、習志野、千葉の東京湾沿岸一帯の埋立地は地震のために広範に液状化現象が起きたという。ディズニーランドも液状化の影響で休園せざるを得ないのだ。
 うかつだった。関東近辺なら地震の被害はそれほど大きくないだろうとつい考えてしまうが、九十九里浜には津波が襲ったし、東京湾沿岸は液状化の被害が深刻だった。こんな近くに東日本大震災の被災地があったのだ。
 浦安市はディズニーランドの敷地も含めて市域の四分の三が埋立地からなるという。埋立地ではない旧市域には液状化現象は見られないが、埋め立てによって開発された新市域のほとんどは液状化の被害が出ていて、ガス、水道などが途絶えている。インターネットなどで報道されている記事をみてみると、宙に浮いたエレベーター乗り場や建物ごと傾いたコンビニエンスストア、敷地と歩道との間に五十センチも段差ができてしまった大型スーパーの写真などが出てきた。
 浦安市については、もうひとつ気になる報道があった。四月十日に投開票される千葉県議会議員選挙が浦安では実施されないのだ。告示翌日の四月二日から期日前投票がはじまるが、四月になってもその準備すら行われていない。千葉県選挙管理委員会は当初の予定通り告示をしたものの浦安市選挙区でその選挙事務作業を行う浦安市選挙管理委員会は液状化被害の復旧が充分でなく、投票所の安全も確保できないことを理由に事務の遂行を拒否している。千葉県知事の森田健作は怒り心頭で是正勧告をしたが、浦安市長は「知事が一度も現場を見ずに勧告という判断を下したことはコメントに値しない」と突っぱねた。それよりも下水道などの復旧に力を入れたいということのようだ。
 やはり京葉線に乗って、浦安の液状化と選挙の様子を見に行こうと思った。
 物見遊山や冷やかし気分で被災地にいくのは良くないことだ。力のない個人がむやみに現地に足を踏み入れたって、なんの役にも立たないうえ、ただの迷惑にしかならない。それでも浦安のいまの風景を書き残しておきたいと思った。やはりバカップル列車として、実際に目にしてきたことを自分たちなりに文章に書き留めておこうと決心した。

 統一地方選挙投票日を翌日に迎えた土曜日、台所で洗い物をしているみつこさんに話しかけてみた。
「みちゃん」
「なに」
「明日、バカップル列車にいくよ」
 いますぐ出かけたいところだが、きょうのうちに準備をして、出かけるのは明日にしようとおもう。
「どこいくの」
「京葉線に乗って、浦安の液状化を見ておきたいんだ」
「大丈夫かな?」
「わかんない。大丈夫じゃなきゃ、途中で帰ってくればいいし」
「うーん……」
 みつこさんは若干心配のようである。
「あと、行けたら、安藤さんが設計した『さくら広場』も見に行こうよ」
 ちょうどいまは桜が満開だろう。
「どこにあるの」
「幕張じゃないかな? たしか京葉線の線路脇にあるはずだよ」
「いいよ」
「『さくら広場』は入れるかどうか調べとくよ」
「うん、頼むよ」
 そうして京葉線へバカップル列車が走ることになった。「さくら広場」というのはパナソニックが全国に四か所開園している桜の公園で、どれも建築家の安藤忠雄が設計している。そのひとつが幕張にあるから、開いているなら見学しておきたい。
 ところがネット情報によると幕張の「さくら広場」だけは液状化の被害があって閉園しているという。やはり液状化現象は京葉線沿線一帯に発生しているようだ。残念だがしかたがない。



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