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走れ!バカップル列車
第46号 特急スーパー北斗と車掌車輸送プロジェクト



   三

 特急「北斗」は、「おおぞら」「おおとり」に続く北海道三番目の特急列車で、一九六五(昭和四十)年、函館〜旭川間に室蘭線経由で登場した。当初は「おおぞら」「おおとり」も函館始発だったので、いまのように函館〜札幌間の昼行特急はすべて「北斗」に統一されてるわけではなかった。
 北海道の国鉄線輸送体系におけるひとつのエポックといえるのは、一九八○(昭和五十五)年の千歳空港駅(現・南千歳駅)開業に伴うダイヤ改正だ。国鉄はそれまで函館中心とした列車ダイヤを、札幌中心のダイヤに大きく転換した。それは連絡船中心だったダイヤから、航空機との連携を意識したダイヤへの変革だった。翌一九八一(昭和五十六)年には石勝線が開業し、そうした一連のダイヤ改正の中で、札幌を跨ぐ列車は札幌を境に分割されていった。そのたびに函館〜札幌間の列車には「北斗」の名称が与えられ、一九八八(昭和六十三)年に青函トンネルが開通するころには「北斗」は八往復にまで増えていた。
 やがて「北斗」には「おおぞら」とともにカーブ区間でもスピードの出る新型車両が導入され、「スーパー北斗」「スーパーおおぞら」が登場する。旧型のキハ82系で走っていた「北斗」は函館〜札幌間を四時間十五分ほどかけて走っていたが、新型キハ281系「スーパー北斗」は最速三時間で走り抜ける。
 みつこさんと私は切符を発券してもらったあと、新しくなった駅舎のロビーでのんびりしていたが、発車時刻が近づいたので五番線にやってきた。スピードアップの立役者、キハ281系ディーゼルカーが停車している。先頭の顔の部分がブルーで、あとの車体はステンレス製で銀色だ。
 発車時刻14時13分が迫っているのに先頭車両まで見に行って記念写真も撮ってしまったから、発車ベルが鳴り終わるのと同時にドタバタと駆け込んだ。しかもグリーン車は三号車なのにそこには間に合わず、四号車のドアから飛び乗った。三号車は六、七割ほど座席が埋まっている。切符の座席は八番A・B席、進行方向左側だ。荷物を置いたりしているうちに床下のエンジンがぶるんと鳴り、札幌行き「スーパー北斗13号」は力強く発車した。

 発車してまもなく客室乗務員のおねえさんがおしぼりを配りにやってきた。北海道のグリーン車はソフトドリンクが一杯サービスされるので、ドリンクの注文も受ける。みつこさんも私もオレンジジュースを注文した。そのときみつこさんがすかさず客室乗務員にたずねた。
「いも男爵あんぱんはありますか?」
 やはりいも男爵あんぱんである。おねえさんは「少々お待ちください」といってどこかに聞きに行った。
「すみません、売り切れです」
 しばらくして戻ってくるとおねえさんが申し訳なさそうにいう。
「えー!?」
 みつこさんは遠慮も会釈もなくそう叫ぶと、それきり絶句してしまった。オレンジジュースが出てきたが、あまりうれしそうではない。
 七飯を過ぎると線路がわかれたりくっついたりして、ルートが複雑になる。やがて左窓に小沼が見えてくる。水面の向こうにはうっすらと駒ヶ岳がそびえている。
 大沼を通過し、大沼公園に停車する。その後、函館線は駒ヶ岳の西側の麓を通過する。駒ヶ岳の東側の麓にも砂原線という支線があるが、特急列車は一部の列車しか通らない。雲が低く垂れこめてきて、右窓に移った駒ヶ岳は山頂が霞んできてしまった。駒ヶ岳を右後方に見送りながらくねくねと曲がる坂を下り、14時48分、森に着いた。窓の外には海が広がっている。
「みちゃん」
「なに」
「森だよ」
「海なのに森なんだな」
「『いかめし』の森だよ」
 京王デパートの駅弁大会などでいつも人気の「いかめし」はもともとこの森駅の駅弁である。
「デパートで人気の?」
「そうだよ」
 森から東室蘭までは内浦湾(噴火湾)に、東室蘭から苫小牧までは太平洋に沿って線路が敷かれている。内陸に入って海が見えないところも多いが、ほぼ海沿いを列車は走る。「スーパー北斗」からも森を出てしばらくは海がみえる。ぼんやりと海のほうを見ていたら、だんだんまぶたが重くなってきた。
 気がつくと長万部だった。ここで倶知安、小樽方面へ向かう函館線と別れ、列車は室蘭線に入る。もともとは倶知安を回る函館線が札幌までの幹線だったが、いまや室蘭線、千歳線が札幌までのメインルートになっている。15時26分、長万部発車。
 室蘭線は線路がおよそ平坦で、列車は走りやすいが景色は単調である。ところが静狩から洞爺、特に礼文までの区間は面白い。海から二キロと離れていないところに礼文華峠という峠があるほどで、海まで山が迫り断崖絶壁もある。
 静狩を出ると、九十度近く方向を変える大きなカーブがある。列車は車体を傾かせゆうゆうと右に曲がる。新静狩トンネルはじめ、トンネルをいくつか抜けると、小幌という小さな駅を一瞬で通過し、すぐに次の礼文華山トンネルに入る。このトンネルを抜けたあともまた九十度の大カーブがあって、ダイナミックな車窓風景は息もつけないほどだ。
 その先、豊浦〜洞爺間は火山に囲まれた洞爺湖が近づく区間で、またも海辺は断崖になる。上下線がかなり離れたところがあり、平面的にだけでなく、高低差がかなりついていて、上り線が海岸のはるか下を走っていた。
 15時48分発の洞爺を過ぎると景色はふたたび単調になる。見どころはないわけではないが、いつのまにかうとうとしてしまった。
 目を覚ますと苫小牧の手前で、一時間近くも寝ていた。車内販売のおねえさんがちょうどアイスを売りに来たので、バニラアイスとごまアイスを一つずつ買う。
 アイスを食べたり、トイレにいったりしているうちに景色はだんだん大都会になって、17時29分、「スーパー北斗13号」は札幌に着いた。
 どうやら所要時間の半分近く居眠りしてしまった。函館〜札幌間の三時間十六分があっという間だった。



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