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走れ!バカップル列車
第46号 特急スーパー北斗と車掌車輸送プロジェクト



   二

 青函トンネルに入った。この感動はぜひともみつこさんともわかち合いたい。
 そう思い隣の席をふり向くと、みつこさんはすやすやと寝息を立てていた。そういえば、みつこさんは欲しかった「いも男爵あんぱん」がないと車内販売のおねえさんに言われ、ふて寝していたのだった。
 いも男爵あんぱんはJR北海道の車内販売限定商品で、みつこさんは車内のパンフレットでみつけてから車販がくるのをずっと心待ちにしていたが、道内を走る特急限定なので本州を跨ぐ「白鳥」では売っていないのですといわれ、立ち直れないほどのショックを受けた。それで青函トンネルもなにもおかまいなしに寝てしまったのである。
「スーパー白鳥95号」はあんぱんとは関係なく青函トンネルを猛スピードで駆け抜けた。出たところは北海道の渡島半島だ。こちらも津軽半島北端と似たような景色で全体が低木の緑に覆われている。
 11時19分、木古内に着いた。海峡線と江差線との合流点で、北海道最初の停車駅だ。ホームの境のフェンスに赤白帽をかぶった小学生たちがたくさんつかまっている。大きなボードを抱えて駅の様子を写生しているようだ。電車の絵を描かせるなんて、木古内の先生はいい先生だ。
「スーパー白鳥」は江差線をひた走る。右窓には津軽海峡が広がっている。江差線が海沿いを走ることは知っていたが、この区間を通るのは深夜や早朝が多く、じっくりとこのあたりの景色を見るのは初めてかもしれない。渡島当別の前後が海がよく見える区間だ。ただしきょうは空気が霞んでいて、遠くはあまり見えない。かろうじて函館山だけが頭の部分をのぞかせて、海上にその姿を浮かべているくらいだ。
 みつこさんが目を覚ました。しばらく窓外の海を見ている。
「あれなあに?」
 ちょうど小さな入江の脇を通っているときだった。海のほうを指さしてみつこさんがいった。そのとき海のほうに見えたものといえば防波堤ぐらいだった。
「防波堤だよ」
 そう答えると、みつこさんは不服そうな顔をする。
「ちがうよ。あの島みたいなのだよ」
 防波堤の向こうには、白く霞んだ空に函館山が浮かぶばかりで、島なんてどこにもみあたらない。
「え、どこ?」
 私は困って聞き返す。
「あれだよ。向こうに見えるじゃん」
(向こう……?)
 指さす向こうには、函館山くらいしかみえない。
(はっ! もしかして……)
 みつこさんが訊いているものがようやくわかった。わかったけど、もう一度、確認せざるを得ない。
「あれ? え、あれ? あの、黒くてゴツゴツした山のこと?」
「そうだよ。なあに?」
「あの山だよね」
「山だか、島だか」
 たしかにあの山しか海の向こうにはみえない。
「あ、あれはね……函館山……」
「ああ、そう」
 みつこさんはなんですぐに答えてくれなかったんだと、なおも不満げな顔だが、なんども津軽海峡を渡っている私の固い頭では、まさかあの独特の形をした函館山が質問の対象になるとは思いもよらなかったのだ。しかも「あの島は?」と訊かれるとますますわからない。
 しかしみつこさんは見たままを正直に尋ねたに過ぎない。外は空と海との境がわからないほど霞んでいるから、函館山から続いているはずの函館市街は列車からはまったく見えない。島だと勘違いしてもしかたのない光景なのだ。
 そんな、ちぐはぐなやりとりを続けているうちに列車は函館市街に入った。五稜郭駅で函館線と合流し、さらに港のほうに南下して「スーパー白鳥95号」は12時03分、函館駅六番線に到着した。
 今回の旅行では出発前に座席指定券の発券を受けたのは函館までだった。
 とにかく東京から大阪経由で乗り換えに乗り換えを重ねて北海道に渡るので、二人の疲れ具合では函館に泊まることも想定して、そのような計画にしたのである。実際に函館まで来てみて、まだ道東・道央に近づけそうだったら「スーパー北斗」か「北斗」に乗って札幌まで行ってしまうし、むつかしそうなら函館に泊まればよい。
 みつこさんに体調をきいてみると、「まだ行ける」とのことだったので、函館駅で札幌の宿の予約をとっておく。どちらにしてもいったん駅の外に出て昼ごはんを食べるので、「スーパー白鳥95号」にすぐ接続する「スーパー北斗9号」には乗らない。乗り継ぎ列車は間に合えば「北斗11号」、そうでなければ「スーパー北斗13号」になる。
 昼ごはんは函館ラーメンだ。朝市付近にラーメン店がないかうろうろしたが、ちゃんと営業している店はなかった。結局駅前の百貨店向かいにある「ゆうみん」というラーメン屋で塩ラーメンを食べた。スープはあっさりしていながらがつんとした味があり、チャーシューも分厚かった。朝市をまわったりするのに時間がかかったので、食べ終わり駅に戻ってきたのは十三時三十分近く。13時29分発の「北斗11号」には間に合わないので、駅の窓口で「スーパー北斗13号」の指定券を発券してもらった。



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