homepage
走れ!バカップル列車
第41号 特急しらさぎ



   一

 北陸は、バカップル列車がいまだ走覇したことのない土地である。
 久留里線は二度も走っているし、北海道や九州だって何度も出かけているのに、なぜか北陸には行っていない。別に北陸が嫌いだとか、避けているとかではない。こんどはあっちに行こう、つぎはこっちに行こうと無計画に目的地を選んでいるうちに、なんとなくそうなってしまった。
 だから二○○九年の秋こそは、北陸にいこうとおもう。まだ梅雨が明けないくらいのころから、北陸旅行の計画を練りはじめた。
 北陸にいくなら、最低限しておきたいことを書き出してみる。

(一)往きか帰りのどちらかで寝台特急「北陸」か急行「能登」に乗りたい。
(二)おいしいものが食べたい。
(三)安藤忠雄の建築をいくつか巡りたい。
(四)東尋坊や永平寺もいきたいし、能登や黒部もいきたい。

(一)は、余命幾ばくもない上野〜金沢間の夜行列車に乗りたいが、みつこさんと一緒の旅となると往復とも夜行に乗るのはたいへんなので、どちらかに乗れればOKということである。
(二)も、みつこさんとの旅においては絶対条件である。
(三)の安藤建築は石川県、富山県付近で公表されている建築のうち二つか三つは見学したい。
(四)をどこまで拾えるかが問題である。安藤建築は石川・富山周辺に散らばっており、東尋坊や永平寺は福井県にある。そして能登、黒部はいずれも中心部から遥かに外れたところにある。
 地図を広げて、「はて」と迷う。ひとことで「北陸」といっても、あまりに広い。
 このぜんぶを三日程度で廻るのは不可能といっていい。さあ、どうやって絞り込もうか。
「みちゃん」
「なに」
「こんどの北陸旅行なんだけどサ」
「うん」
「北陸のどこにいこうか」
「北陸て、どんなとこがあるんだっけ?」
「永平寺とか、黒部峡谷とか、能登半島とか」
「えー、ぜんぶいくの?」
「ぜんぶ行けないから、それのどこにいこうかって迷っているんだ」
「うーん……」
 みつこさんは考え込んでいる。
「どこでもいいよ」
 そういうのが、じつはいちばん困る。「どこでもいい」といいながら、あとになって「どこでもよくない」になることが多いのだ。
「本当にどこでもいいんだね?」
 あとで文句をいわれるのはイヤなので、念を押してみる。
「うん、どこでもいいよ」
 本当にどこでもいいらしい。たいした覚悟である。
「安藤さんとこも見るんだよね?」
 みつこさんがいった。「安藤さんとこ」とは安藤忠雄の建築のことである。
「みるよ」
「どこにあるの?」
「能登半島の付け根のあたりとか、富山のあたりとか……、まあ、金沢周辺かなぁ」
「じゃあ、金沢でいいじゃん」
「うーん」
「おいしいもの、あるでしょ」
「うん、金沢なら」
「じゃあ、泊まるのは金沢あたりとかで」
「そうか……」
 この日は最低一泊は金沢に泊まるということが決まっただけで、あとのことは保留になった。どちらにしても、鉄道にも乗って安藤建築巡りもするとなれば、東尋坊も永平寺も諦めざるをえない。

 さらに何か月かが経って、夏が過ぎ秋が近づいてきた。決めたり迷ったりしていた旅程もそろそろ固めなければならない。あれこれ考えた結果、鉄道以外でまわるところとしては、安藤建築を三件と金沢21世紀美術館を見学するという旅に落ち着いた。レンタカーを借りることも考えて、宿は金沢に連泊する。
 往き帰りにどの列車に乗るかは迷うところであるが、どちらかの片道には寝台特急「北陸」か急行「能登」に乗る。
「北陸」と「能登」は、上越線・長岡経由で上野〜金沢間を結ぶ夜行列車である(二○○九年秋現在)。夜行列車が年々減少している中にあって、まったく同じ区間に二系統の夜行列車が走っているのは珍しい。どちらも絶滅危惧種だが、座席車だけの急行列車のほうが希少性が高いだろうと思い、今回は「能登」に乗ることにした。
 往復夜行列車を避けるならもう「北陸」には乗らない。それならもういっぽうの片道はいっそのこと変化をつけようと思う。つまり、「能登」とはまったく違うルートにするのである。
 東京と北陸を結ぶルートには、「北陸」「能登」が走る上越線・長岡経由のほか、上越新幹線の越後湯沢から北越急行ほくほく線経由の特急「はくたか」に乗るという比較的新しいルート、東海道を西へ向かい名古屋・米原から特急「しらさぎ」で北陸線を北上するルートがある。
 変化をつけるなら、「北陸」「能登」と重複区間が多い「はくたか」のルートより、名古屋・米原経由のほうがいい。そうすれば、東京↓名古屋↓米原↓金沢↓長岡↓上野という一筆書きルートができあがり、北陸まで往復しながらも片道乗車券で旅行ができる。片道切符なら同じルートをただ往復するだけよりも運賃は多少割安になる。
 名古屋・米原経由なら、列車は特急「しらさぎ」である。
「しらさぎ」は、名古屋・米原と北陸地方を結ぶ特急列車で、名古屋発着の列車が八往復、米原発着の列車が八往復、合計十六往復が設定されている。
 ところが八往復ある名古屋発着の「しらさぎ」のうち、どの列車にどこまで乗るかでまた迷う。バカップル列車はその列車の始発駅から終着駅までの全区間を乗り通すことをいちおうのルールとしている。名古屋から「しらさぎ」に乗るなら、終点の富山まで乗らなければならない。ところがもういっぽうで「能登」に乗るなら、「しらさぎ」で富山まで乗ると、金沢〜富山間を重複して乗ることになってしまう。重複しての乗車は一筆書きの乗車券では許されないことだ。重複部分は別料金で切符を買うという手もあるが金沢〜富山間となると距離も長いので時間もお金も余計にかかる。
 そこで注目したのが「しらさぎ3号」であった。
「しらさぎ3号」はただひとつ、終着駅が和倉温泉になっている。編成が金沢で切り離され、前五両は富山行きになるが、後ろ三両は七尾線の和倉温泉まで直通する。この列車の和倉温泉行き編成に乗れば、「しらさぎ」の全区間に乗ることができ、金沢〜富山間の重複も解消できる。厳密にいえば金沢〜津幡間は重複しているが、富山までと比べれば短いものだ。
 そんなことをあれこれ考えて、往きの道のりは、名古屋から「しらさぎ3号」に乗ることを前提にその前後の列車を選んだ。そうして名古屋までは「ひかり501号」、和倉温泉付近でおひるを食べて、和倉温泉から14時29分ののと鉄道で穴水まで乗るという旅程を組み立てた。



next page 二
homepage