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走れ!バカップル列車
第38号 秋田内陸縦貫鉄道



   二

 改正鉄道敷設法は、大正十一(一九二二)年に施行された法律で、国が整備するべき鉄道路線を定めたものである。
 その二年前に、運輸省と日本国有鉄道の前身である鉄道省が発足している。主要都市を結ぶ幹線鉄道が整備され、さらにその周辺地域を結ぶ鉄道網の整備が求められるようになった時代である。もとの鉄道敷設法は明治二十五(一八九二)年に施行されていて、主要幹線の整備を求めたものだった。明治三十九(一九○六)年施行の鉄道国有法の成果などもあって、その目的はほぼ達成されたので、もとの鉄道敷設法を廃止し、地方路線の充実のために鉄道敷設法が改正されたのである。
 新たに建設をめざすこととなった具体的な路線は法律の別表にこと細かに定められていて、地域は北海道から九州まで全国に及び、その数は追加分も含めて二百路線余り。総延長は一万キロを超える。たとえば「東京府八王子ヨリ埼玉縣飯能ヲ經テ群馬縣高崎ニ至ル鐡道」といったものもあって、現在のJR八高線はもともと改正鉄道敷設法に定められた路線だということがわかる。
 この法律は地方のローカル輸送を充実させることには役立ったが、一方で国鉄の経営を圧迫することにもなった。それでも鉄道が建設され続けたのは、いまの高速道路と同じで、作り続けることが誰かにとってお金になる道具になってたからだろう。げんに昭和五十五(一九八○)年に国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)が施行されるまで、国鉄の赤字がどんなに騒がれてもローカル線の建設は続けられていたのである。
 この改正鉄道敷設法別表の第一三号には「秋田縣鷹ノ巣ヨリ阿仁合ヲ經テ角館ニ至ル鐡道」という路線が定められている。これがきょう、みつこさんと私が乗車する秋田内陸縦貫鉄道・秋田内陸線で、この路線の建設は次のように進められている。

 大正十一(一九二二)年  鷹ノ巣〜角館間の建設決定(計画線名「鷹角線」)
 昭和九(一九三四)年   阿仁合線として鷹ノ巣〜米内沢間開業
 昭和十(一九三五)年   米内沢〜阿仁前田間延伸開業
 昭和十一(一九三六)年  阿仁前田〜阿仁合間延伸開業
 昭和三十八(一九六三)年 阿仁合〜比立内間延伸開業
 昭和四十六(一九七一)年 角館線として角館〜松葉間開業
 昭和五十六(一九八一)年 角館線の廃止承認
 昭和五十九(一九八四)年 阿仁合線の廃止承認
 同年           秋田内陸縦貫鉄道株式会社設立
 昭和六十一(一九八六)年 国鉄阿仁合線・角館線がそれぞれ秋田内陸縦貫鉄道の
              秋田内陸北線・秋田内陸南線に転換される
 平成元(一九八九)年   比立内〜松葉間延伸開業、鷹巣〜角館間九四・二キロ
              全線が開業(路線名「秋田内陸線」)

 秋田内陸線の説明にことさら改正鉄道敷設法を持ち出したのは、既存路線である阿仁合線と角館線の両線がともに廃止対象路線となりながら、それでも全線開業にこぎつけたのは、改正鉄道敷設法別表第一三号が唯一にして強力な拠り所になっていたからだとおもうからである。
 昭和四十六年に角館線が松葉まで開業してからも、昭和五十五年の国鉄再建法施行までは比立内〜松葉間の工事は進められていた。その法的根拠はといえば、やはり改正鉄道敷設法にほかならない。鷹角線が計画されたのは阿仁合に銅山があったからだといわれるが、そうだとしてもこの沿線は山が深く、人口も少ない。実際、角館線は一日に三往復しか列車が走っていなかった。

 大館の一番線にずっと停車していた電車にふたたび乗り、鷹ノ巣に着いたのは10時20分であった。
 秋田内陸線の乗り場はJR駅の隅のほうにある。乗り換えるならホーム上を歩くだけで済むのだが、トイレに行くので私たちはいったんJRの改札口を出た。
 秋田内陸線に乗るときは秋田内陸線の駅舎から入る。この駅舎はJR駅のすぐ隣にあって、駅前ロータリーから線路に向かって左側、方角でいえば西側にある。切妻の三角屋根二つを直角に組み合わせたような木造建築である。壁は木材がそのまま露出していて、まるで角形の材木でつくったログハウスのようだ。
 入口の頭上には「秋田内陸縦貫鉄道 鷹巣駅」と書かれた看板が出ている。JRの駅名は「鷹ノ巣」で、「ノ」が入っていたほうが読みやすいが、町名は鷹巣町(現・北秋田市)になっていて「ノ」は入らない。秋田内陸縦貫鉄道は地元自治体が出資している第三セクターだから、国鉄の駅名よりも自治体の名称を優先させたのだろう。
 自動券売機で角館までの切符を買って改札口を抜ける。出たところはまたもとの奥羽線ホームである。向かって左側、奥羽線上りホーム先端の向かい側(駅舎側)が乗り場になっている。いわゆる「0番線」の位置だ。降り積もっている雪を踏みしめ歩いた先に、クリーム色の車体に赤いラインの入ったディーゼルカーがこぢんまりと停まっていた。
 車内にはすでに客が乗り込んでいて、四人がけボックス席に一人、二人、ぽつぽつと座っている。誰も座っていないボックス席がちょうど一つだけ残っていたので、その席を陣取った。進行方向右側の席だ。
 やがて発車時刻10時41分となり、やや小ぶりのディーゼルカーがエンジンをぶるぶるいわせて鷹巣駅を発車した。雪の振り続く中、列車はゆっくりと走り出す。角館着は13時11分。終着までちょうど二時間半の旅である。
 右には奥羽線の架線と線路がまっすぐ進んでいくのが見える。こちらは雪に埋もれて二すじのくぼみでしかわからないレールが左にくるりとカーブしている。
「白だけだねえ」
 みつこさんがまぶしそうに目を細める。あたりは田んぼだろうか、白一色の雪原が視界の限り広がって、右へ右へと回ってゆく。



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