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走れ!バカップル列車
第35号 博多南線



   四

 定刻になり、100系電車の博多南線特急列車が発車した。
 新幹線ホームを発車した新幹線電車がなにごともなく新幹線の線路を走ってゆく。どうみても新幹線が走っているようにしか見えないが、これが在来線なのだから面白い。博多から車両基地手前までの線路は、将来は九州新幹線の本線になるような設計になっている。時速二○○キロ以上で走れるはずだが、やはり在来線という位置づけだからか、博多南線の列車は最高時速一二○キロに制限されている。なめらかな線路の上を新幹線電車がゆったりと走る様子は東海道新幹線の東京から品川付近にかけての走りかたになんとなく似ている。
 私たちが乗った二号車はほかの乗客がほとんどいないので、みつこさんが右側の二席を独占し、通路を挟んで左側の二席に私が座った。
 博多を出てしばらくのあいだは鹿児島本線と並行しているが、左の窓からは見ることができない。かわりに見えるのは新幹線の高架線よりもさらに高いオフィスビルやマンションだ。十階以上はあるビルやマンションがいくつも並んでいる。
 車窓からは見えないが鹿児島本線と分かれるあたりで線路はゆるやかに右にカーブする。街並みが絶えることはないが、次第に景色は郊外の雰囲気になる。高層のビルやマンションはなくなって、高くても新幹線の高架線ぐらいのビルばかりになる。
 博多南までの半分ぐらいのところで西鉄天神大牟田線と交差するはずだが、どこで交差したか確認できなかった。ぼんやりしているうちに通り過ぎたのだろう。
 やがてスピードが落ちてきて、いままで走っていたまっすぐの高架線から左へ外れた側線のような線路に入る。こちらは少しずつ坂を下って地上に近づき、高架線はどんどん目より高い位置になっていく。線路がどこでどうつながっているのかわからないが、その高いほうの線路に六両編成の0系が停まっているのがみえた。
「あ!」
 みつこさんと私が同時に叫ぶ。
「0系だよ」
「あとで乗る電車かもしれないね」
「うん」
 こちらの側線の線路は進むうちに次々と枝分かれして、扇のように広がってゆく。広大な敷地に線路が何十本にもなり、その先に全長四○○メートルの新幹線電車がずらりと並んでいる。500系、700系、N700系といった車両が一斉に顔を揃える様子は圧巻だ。
 こちらの100系電車は末広がりになる線路のいちばん右端に入る。やがてレールの右側にプラットホームが現れ、列車は停車した。8時22分着、ここが博多南駅である。

 博多南駅はたくさん並ぶ車両基地の線路のうち、いちばん西側(那珂川町側)の線路一本に、八両分のホームを一本設置したもっとも単純な構造の駅である。屋根や壁面も、ギザギザの鉄板に細い鉄筋が筋交い状に張り巡らしてあるだけで、雰囲気としてはプレハブ小屋のようだ。
 ホームは改札口に近い東京寄りだけ広くなっていて、ベンチやゴミ箱、自動販売機が設置されている。駅名標もここだけにあって、白地に黒のゴシック体で「博多南」と書いてある。下三分の一に青い帯を巻いたデザインが、この駅がJR西日本の駅であることを物語っている。ホーム幅は改札口周辺から南側はずっと先端まで二メートルほどの狭さになってしまう。
 いま着いたばかりの100系電車はこんどは博多発小倉行きの「こだま」になるため、再び博多南線列車として博多に向かっていった。そのあとには「ひかりレールスター」用の700系電車が入線して、8時40分に発車していった。
 この時間、上り電車だけ立て続けに来るのは、博多南線のダイヤが通勤・通学に徹しているからで、上り列車は朝に多く一時間最大五本、下り列車は十六時台以降は一時間に二本、そのほかは上下ともに一時間に一本という設定になっている。
 私たちは博多南までの往きの切符しか持っていないので、いったん改札口を出て、自動券売機でこんどは博多までの切符を買った。
 駅舎もなんだかプレハブ小屋のようなつくりになっている。駅窓口業務はJR九州が委託を受けているので、駅員はJR九州の制服を着ている。改札を出たついでにちょこっとだけ外に出てみる。はじめて来たところだからゆっくり街並みを見たいところだが、このあとに来る0系のことが気になってしまい、落ち着いて外の景色を見ることができなかった。それでもちらっと外を見た限りは東京近郊の多摩ニュータウンのような雰囲気だった。
 改札を再び入る。改札口から数段登った正面に電車が停まっている様子は、通常の新幹線駅では考えられないことで、駅の佇まいはなんだかローカル線の終着駅のようである。さきほど「ひかりレールスター」が出発するときは、「女性あと一人乗車」という構内放送があって、駆け込んでいる客がちゃんと乗り込むまで発車を待ってくれていた。
 博多南線は0系目当ての鉄道おたくたちで大混雑かと思っていたが、パニックというほどでもないので少々安心する。それでも0系を見ようとカメラを手にしたファンらしきおっさんや親子連れは多い。ホームでしばらく待っていると、東京方向からさきほど見かけた0系が入線してきた。博多南駅がにわかにざわめく。
「みちゃん、来たよ」
「ほんとだ。かわいいね」
 みつこさんは0系の人なつこい顔が好きだという。
 この電車が博多から「こだま638号」になり、終点の岡山に着くのは12時53分。所要時間三時間四十六分は鉄道おたくにしてみれば決して長くはないが、0系最後の旅を楽しもうとおもう。



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