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走れ!バカップル列車
第35号 博多南線



   三

 博多南線は一風変わった鉄道路線で、ふつうの路線とは異なる特徴がいくつかある。

 一 営業上は在来線なのに、全列車が新幹線電車で運転される
 二 路線を走る列車すべてが特急列車である
 三 特急列車なのに「のぞみ」「つばめ」といった列車愛称がない
 四 九州内のJR線なのにJR西日本の路線である、などなど

 もともとこの線は新幹線の車庫への回送線として建設された線路である。博多駅から八キロほど南に下ったところに東海道・山陽新幹線の車両基地(博多総合車両所)があって、博多駅と車庫とを結ぶ線路は博多に着発する新幹線車両が回送列車として走るだけであった。
 この車両基地は、那珂川町と春日市にまたがるところにあり、周辺は福岡近郊のベッドタウンとして発展してきた。春日市の中心街は車庫より四キロほど東にあって鹿児島本線に春日原という駅もある。ところが那珂川町は昭和四十年代後半から毎年およそ千人という勢いで人口が増えているにもかかわらず、町内を走る公共交通機関は路線バスのみ。福岡市中心部に行くならバスと西鉄を乗り継がなければならず、交通の便はかなり悪かった。
 昭和五九(一九八四)年以降、那珂川町から車両基地への回送線を通勤・通学路線として利用したいという強い要望が出ていた。一日を通して頻繁に走っている回送列車に乗れれば、周辺住民の利便は格段に向上するのである。この動きは国鉄が分割・民営化されるころには那珂川町のほか福岡市、春日市も加わって「新幹線回送列車有料乗車実現期成会」に発展している。
 こうした経緯があって、博多南線はJR発足後の一九九○(平成二)年四月一日に開業した。駅・線路などの保有と列車の運行管理はJR西日本が行い、駅窓口業務などはJR西日本がJR九州に業務委託している。営業キロは八・五キロ、所要時間一○分、一駅区間のミニ路線だ。運賃は一九○円で、ほかに特定特急料金が一○○円かかる。一駅で二九○円になるが、すべて新幹線の施設だからしかたのないことかもしれない。それでも特急料金一○○円は割安だし、なによりいままで一時間かかっていたという福岡市内までの通勤・通学がわずか一○分になったのだから、ものすごいスピードアップだ。
 その博多南線に乗ろうとおもう。いや、純粋に博多南線に乗りたかったかと言われれば、若干うそになる。いや、でも前から博多南線には乗りたかった。
 それでも博多南線に乗ろうという目的を純粋でないものにしているのは、0系の存在である。やはり0系の引退がなければ、私たちが博多南線に乗るのはもう少し先のことになっていただろう。
 この十一月三十日で「こだま」として走り続けた0系は山陽新幹線から姿を消す。このことはもうずいぶん前からわかっていたから、私たちは今年二月二日に新大阪〜広島間の「こだま639号」に乗っておいた。0系へのお別れはすでにすませたつもりだった。
 それから九か月が経った。現にまだ乗ろうと思えば0系に乗れる。
 心残りがまったくないというわけではなかった。ひとつは二月に乗ったのは広島までで、広島〜博多間は0系では乗っていないこと。もうひとつは二月はJR西日本のオリジナルカラーだった車体の塗装が、六月以降ホワイトにブルーの昔ながらのカラーリングに塗り替えられたことだった。JR西日本としてはファンサービスのつもりで思い出の国鉄色に戻したのだろうが、私にしてみれば乗りたい列車がまたひとつ増えてしまったことになる。色が変わったって走行性能が変わるわけではないが、やっぱり白い車体に青のラインが入った国鉄カラーの0系にも乗りたくなってくる。
 そんな自分の中でのココロの闘いがあって、ようやく0系に乗ろうという意思をかためたつもりでも、ただ山陽新幹線の「こだま」に乗るだけでは芸がない、との思いが残る。そこでとっさに思いついたのが博多南線であった。
(こんどは山陽新幹線ではなく、博多南線で0系に乗ろう)
 そして博多南線のついでに博多発の「こだま」にも乗れれば、心残りだったことはすべて解決できてしまうのである。

 木々が赤や黄色に紅葉している黒川温泉でさわやかな朝を迎えたのは十一月十五日のことだった。朝ごはん前に温泉につかったり温泉街を散歩したり、宿を出たあとも昼ごろまで温泉街をぷらぷらした。レンタカーと列車を乗り継いでその夜は博多駅前のビジネスホテルに一泊した。
 そうして十一月十六日の朝がきた。
 0系が定期列車の営業運転から引退する日まであと十五日。いよいよ今日が私たちにとっては最後の0系の日だ。昨夜の雨の名残だろうか、福岡の空はまだどんよりとくもっている。
 めざす列車は、博多南発9時07分の博多行きである。この列車は9時17分に博多に到着すると、わずか二分の停車で9時19分発「こだま638号」岡山行きに変身する。時刻表を見る限り、博多南線上り列車のうち0系で運転するのはこの9時07分発と19時00分発の二本しかない。博多南線に乗った後、そのまま上り「こだま」にも乗車することを考えると、9時07分発はいちばん都合の良い列車である。
 博多南発9時07分の列車に乗るには、博多を8時12分に発車する博多南行きに乗る必要がある。博多駅近くの宿を出て、自動券売機で博多南線の切符を買う。一人分を買うと一九○円の乗車券と一○○円の特定特急券が一枚ずつ出てくる。
 一三番線ホームにのぼりしばらく待つと、とんがったキツネ顔の100系電車が四両編成でやってきた。この車両もかつては二階建て車両をしたがえた十六両編成で東京〜博多間を往復していたが、「のぞみ」の登場により東海道新幹線からは引退し、編成も短くなって山陽新幹線で細々と余生を送っている。
 この100系の列車は新山口からやって来た「こだま757号」で、十一分の停車の後、8時12分発の博多南行きになる。到着時は三分の一ぐらい乗客がいたが、ほとんど降りてしまって、私たちが乗り込んだときは車内に誰もいなかった。
 山陽新幹線と博多南線は列車の運行上は直通運転のようになっているので、「こだま」がそのまま博多南行きになるとき、小倉方面から博多南まで行くひとはそのまま乗車していてもよい。逆も同じで博多南から小倉方面に行くばあい、その列車の切符を持ってさえいれば博多駅でいったん降りる必要はない。



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