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走れ!バカップル列車
第32号 ゆいレール



   四

 空港ロビーから連絡通路を渡り、「日本最西端の駅」の碑の前を抜けて、那覇空港の駅に来た。ここ那覇空港がゆいレールの起点駅で、路線は首里までの一二・九キロである。ぜんぶで十五の駅があって、所要時間は二十七分ほど。那覇市西部の空港から中心部の国際通り北側を久茂地川沿いに抜け、東部の首里まで走っている。
 切符売り場で六○○円の一日乗車券を二枚買う。那覇空港から終点の首里まで乗ると二九○円。首里まで行って、往きか帰りかで一回でも途中下車すればもとがとれる。
 ホームにあがると、グレイと黒の車体に赤のラインが入ったモノレール電車がすでに停まっていた。
 電車は二両編成で、座席は窓に背を向けて座るロングシートがほとんどだが、運転席の後ろだけは、運転席側を向いた展望席と呼ばれる座席が四席ある。鉄道おたくとしては前の見晴らしが良い展望席にぜひとも座りたいところだが、座席はロングシートも含めてぜんぶ埋まっている。空港から市内への連絡もしているから、荷物の大きな乗客も多い。
「乗る?」
 みつこさんがいう。混んでいてもこの電車に乗ってしまうか、展望席に座るために一本見送るか、私に訊いている。
「乗ろうか」
 往きに途中の美栄橋で降りて、国際通り近くの沖縄そばの店でお昼ごはんを食べようと思っていたので、座れなくても問題はない。展望席は帰りに乗ればいいのだ。
 二人でよたよたと乗り込む。前の車両の前のドアから乗った。遠巻きに前方が見えるところに立って、つり革につかまる。
 時間が来て、ドアが閉まる。11時30分、首里行きが発車する。
 駅を出るとモノレールの電車は青空の中に飛び出す。
「なんだかずいぶん、眺めがいいな」
 発車してすぐに、みつこさんがいう。モノレールは、道路の上を高架線で走るから、たしかに眺めが良い。しかも空港周辺は建物がほとんどないので、本当に宙に浮いているようだ。
 空港の南側は自衛隊の基地で、古いプロペラの戦闘機などが展示されている。乗客たちがそれを見て「おお、すげえ」などと言っている。
 次の駅が日本最南端の赤嶺で、空港駅との駅間は一・九キロでいちばん長い。
 小禄(おろく)、奥武山公園(おうのやまこうえん)を過ぎ、左にカーブしながら国場川を渡る。右にはさきほどクルマで通った漫湖がみえる。
 しばらく国場川を左に見ながら走る。壺川に停まり右に曲がるとこんどは久茂地川に沿って進む。旭橋は大きなバスターミナルが近くにある。すでに那覇の中心街で、旭橋、県庁前と買い物客などがたくさん乗ってくる。旭橋〜県庁前間はわずか五八○メートルで、駅間距離は最短である。県庁前は、沖縄県庁、那覇市役所が近くにあり、メインストリートである国際通りは、このあたりから一・五キロほど東へまっすぐ続いている。
 次の美栄橋で途中下車。ここまで十四分ほどであった。
 階段を降りて、道に出る。前の沖映通りをしばらく南へ歩いて国際通りに近い「大東そば」という店に入る。
 カウンター席とテーブル席二つと座敷にテーブルが三つ。小さい店だがお昼ちょっと前だからか、客はおっさんが二人だけだった。大東そば中とソーキそばをひとつずつ注文する。
 出てきたそばは、思っている沖縄そばとはちょっと違ったそばだった。麺の白さと太さはうどんのようだが、やけに縮れていて、しこしこしている。スープは若干薄味でさっぱり味だ。昨日食べた「なかむらや」は、黄色がかった平打ち麺でいかにも沖縄そばらしかったが、「大東そば」もなかなかうまい。
 おなかがいっぱいになった後は、国際通りをぷらぷら散歩することにした。ところがいざ歩いてみると気温が高く、太陽の光は刺さってくるように強い。二人で「ダメだ」といいながら、早々に退散する。じっさい日中の国際通りを元気よく歩いているのは修学旅行の高校生ぐらいだった。

 美栄橋駅に戻り、13時14分発の首里行きモノレールに乗る。
 車内は相変わらず混んでいる。国際通りの東端に近い牧志、左にくるりとカーブして北に向いたところで安里(あさと)に停まる。さらにその次のおもろまちにはDFSギャラリアという大型の免税店やショッピングセンターなどがある。米軍住宅跡地を再開発した一帯で、那覇新都心と呼ばれている。乗客がどっと降りて座ることができた。
 古島(ふるじま)を出て、右に曲がるとぐんぐん急坂を登る。モノレールは高架線で、那覇市街の四、五階建てビルの屋上付近を走るような高さである。丘の高さに合わせて高くなる建物の上をモノレールがさらに登っていくので、なんだか不安定な感覚になる。空飛ぶじゅうたんに乗って、空中をふわふわ飛んでいるかのようだ。
 丘の中腹にある市立病院前に停車。右に見える大きなビルが市立病院である。もう車内の人はぽつぽつと数えるほどしかいない。運転席をのぞくと、運転士は駅に停車するたびに、ホームや車内への放送、ドアの開閉など、すべてを一人でこなしている。
 モノレールはふわふわと浮いて儀保に停まり、さらに終点首里に向かってふわふわ登っていく。
 来た道を振り返ると、眼下に那覇市街と港が広がっている。右に見えてきた赤い建物は首里城だろうか。
「みちゃん」
「なに」
「あれって首里城?」
「うーん」
「みちゃん、行ったことあるんじゃないのぉ?」
「だいぶ前だしねえ……、あんな赤かったかなぁ」
 そんなことを話していたら、登っている丘の向こうに、太平洋が見えてきた。
「やっぱ、首里城だよ。だって丘の頂上にあるもん」
 平面的な地図だけ見ていてもわかりにくいが、実際に足を運んでみると、「なぜそれがそこにあるのか」がわかることが多い。琉球王朝の国王たちは、東と西の海が見えるこの地から国土を見おろしていたのだろう。
 あとで調べてみたら、首里城がいまのように復元されたのは最近のことらしい。みつこさんが首里城を訪れたのはその復元前のことなので、赤い城壁を見てもいまひとつピンと来なかったようだ。
 モノレールは最後に右にくるりとカーブして、13時27分、首里駅に着いた。
 みんな改札口に向かってしまって、一瞬ホームにも車内にも誰もいなくなった。折り返しの電車に乗ってくる客もぽつぽついるくらいである。
「首里城行かないよね?」
 みつこさんが話しかけてくる。
「う、うん」
 しどろもどろに私が答える。
「じゃあ、このまま、これに乗って戻ろうよ」
「あ、ああ……」
「席もどこでも座り放題だよ」
 運転席すぐうしろの展望席を陣取った。前方の眺めは格別だ。
 折り返しの那覇空港行きは13時35分発。首里駅は改札口にも行かないままで、滞在時間はわずか八分であった。
 私は沖縄は二回目だが、首里城へはいまだ行けずじまいである。



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